「あ〜なんかだるい」
授業の終わった小学校の教室。
ほとんど生徒は帰ったがちらほらと友達と話している生徒が何人かいる。
そして俺はその中で机にへばりついて、ダウンしていた。
「何してんのさ!」
突然傍らから活発な声をかけられ俺は少し慌てる。
そして、ゆっくりと声をかけた人を見てみる。
「なんだ、春香かよ〜驚かすなよな」
「別に驚かすつもりなんてなかったんですけど」
榊春香は家が近いので幼馴染で、だいぶ長い付き合いだ。って言っても俺はまだ十二歳だけど。
彼女は相変わらず、やけに長い髪を両脇でロールパン状に丸めている。なんて髪型だっけな・・・・まぁいいや。
それに対して俺はスラッと延びた短髪をワックスでバリバリに固めている。
「業、どうかしたの?」
業ってのは俺の名前だ。
「ん〜何つうかさ〜、人間ってなにかが欠けてると思わない?」
「ん?欠けてるって業の脳みそのこと?」
「うるさい、どうせオレは莫迦ですよ!」
春香は俺をいつも通り莫迦にするので俺も少し膨れあがってしまった。
「まぁ、そう怒らない。莫迦な人でも明日はハレるさ」
春香は万遍の笑みでうれしそうにそう言った。
「・・・・なんだよそれ?」
「ん?この科白はよく祖母が言ってたの。取っちゃダメだからね!」
俺は困りながらもうなずく。まぁ取るつもりはない。
「それで話脱線したけどさ、オレ明日、本当の自分を探す旅に出ようと思う。それと、なんかこの微妙な気持ちを整理したいしさ。春香はどう?」
「はぁ?興味ない」
あっさりと返されてしまった。
こうなったら奥の手しかないと思い自分に言い聞かす。
「あ、そっか、せっかくお前が行きたがってたアイス屋に、行こうと思ってたのにな〜、あ〜残念だ。」
そのとき春香の目が光った。
「連れてって、連れてって、てか連れてけ、そしておごれ。」
春香がまた豹変したので少し驚いたがいつものことだ。前も変な人形が欲しいとか言って変貌したっけ。
春香はたまにマジでボケたり、性格が変わるときがある。
まぁ、そんなところが面白いんだけどさ。
「よし、じゃあ明日九時学校の前に集合。」
翌日、俺は時間通りに学校の前に来てみた。
誰も居ない。 やっぱアイツこないな〜
そう思っている矢先、何か黒い人影が歩いてくるのが見える。
やっぱり来たんだ。と思い俺は近づいて話しかけようとした。
しかし、そこにいたのは杖を突いた白髪のお婆さんだった。
おいおい、よれよれの婆さんかよ・・・って春香と間違えちまったよ。
とか悩んでるうちに学校の門の前にもう春香は来ていた。
「業、なにしてんのさ〜」
いえいえ、これは言えない、婆ーさんと春香を間違えたなんて絶対いえない。
「ハハハ、いつの間に来てたんだよ!遅せ〜よ!」
と話題をかえた。
「ごめん、さっき来たとこ。」
春香は何も疑問を持っていないようだ。これで一安心。なんとか良い旅ができそうだ。
・・・・・あれ、オレなんで旅なんかしようとしてんだろう。
え〜と、そうそう、この変な思いにメリハリつけるんだっけ。
俺は目的を思い出し歩き始める。
まだ、朝っぱらの町は人は少なく車もあまり通っていなかった。
俺がいきなり歩き出したので、その後ろを春香が追いかける形になっている。
「業ちょっとまってよ」
「どうした?眠いのか?」
「そんなはずないでしょ、業がいきなり歩くから」
そんな意味のわからない会話が続いた。
特に目的地もない、ただとなく歩いているだけだった。町の風景を見ながら。
春香が業の隣まで駆け寄ってきた。
「人間に欠けてるものってなんなの?」
春香はしっかり目的を覚えていたようだ。
「なんつ〜かさ〜ココロに穴が開いた感じがたまにしないか?」
「は?するはずないじゃん」
春香はどこかあきれているようだ。ホントに何も感じないんだろうか?
「ハイハイ、オレはそんじょそこらの人とは違うんですよ!」
春香は否定ばっかりするので俺は話を切り上げた。
話が途切れて沈黙だ続いていた。そして、なんとなく気まずくなって俺は春香のほうをみた。するとなぜか春香も俺のことを見ていた。
なんかドキッとした。
そして彼女のほうから話し出した。
「『そんじょしょこら』って言いづらくない?」
「は?ってかショコラになってるし」
あ〜あ、なんかいい雰囲気だったのにぶち壊しだ。まぁそれが春香なんだけどね。
そんなこと思いながら歩みを速める。
いろいろなとこを見てまわった。
変な神社とか、珍しい団子屋、奇妙な生物のいるペットショップ(奇妙っていっても地球上に存在しています。)
まぁ、そんなしているうちに時間は刻々と過ぎていった。
俺達は今、海の見える丘のベンチの上に座っていた。
もう歩きつかれたのだ。
そして今話題がなくてまた沈黙している。
なんか話さなくちゃ・・・・俺はそう思うも何もいい案が浮かばないかった。
そんな中、春香の顔を見てみた。春香もなんか困っているようだった。
でも、そんなとき話を先に始めたのは春香だった。
「ねぇ、私達もうすぐ卒業するんだね」
彼女の声はいつもの活発なものとは違いどこか大人びていた。
俺はまたココロの穴が広がるのを感じた。
「何いってんだよ、しょうがないだろ。春香は中学どこ行くんだっけ?」
「私、私立の中学に行こうと思ってるの」
いっきにその場が暗くなった感じがした。俺は春香が私立に行くことを知っていたが、話を繋げるためにはしょうがなかった。
そして、それを聞いて改めて、なんだか悲しくなってきた。
春香とこうして遊んでられるのも、もうすぐなのだ。もう三月、卒業まで数日もない。
俺はなんとなく自分に欠けているものが分かった気がした。
「よし、じゃアイスクリーム屋でもいきますか?」
春香は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
例のアイスクリーム屋はここからさほど離れていないのですぐ着いた。
業はチョコとバニラのダブルス、春香はストロベリーのシングルを買った。
近くに公園があるのでそこに座って食べた。
「なぁ、春香。あんなに食べたがっていたのに何でシングルなんだよ。アレかタイガーホースなのか?」
「ん?・・・・ああトラウマね。カッコつけて言わないでよ!まぁ別にそんなのないけどね」
春香は笑いかける。
太陽のようにまぶしい笑顔だった。
俺はそのとき、そぜか春香がとてもかわいく見えた。
いつも見ている顔なのになんだか今日は別人のように感じたのだ。
すると、見とれているうちにアイスは溶けていた。
俺が気が付くころにはバニラのほうが地面に落下していた。
「ぬお〜、オレの三百円が〜」
春香は「あ〜あ」と言うような感嘆な表情で見つめていた。
そして、万遍の笑みで言う。
「つらいことがあってもさ、明日はハレるさ」
その言葉はなぜか俺の中に響いた。その暖かい言葉がココロの奥底まで届いた。
俺は、なんとなく、そのことを春香にとても伝えたくなった。
「オレ、なんか自分に欠けてるものがあるって言ったけどさ、分かった気がするよ。中学になると春香とあまり会えないかもしれない、だからココロがスカスカするんだよ。でも今日お前といて分かったよ俺達ずっと親友なんだよ、会えなくても親友だ。だから、最初から欠けてるものなんてないし、もう辛くもない」
春香は少し頬を赤らめる。こんなこと言われるとは思っていなかったのだろう。
そして、昔お婆ちゃんが言っていたことを思い出したと言って話だした。
「どんなに辛くても、寂しくても。この世には絶対その気持ちを分け合える人がいる。そのことを知っていれば、きっと明日はハレるさってな」
夕日が照らす公園で、二人の子どもがまた大人になった。
どんなに春香と離れていても、俺達はきっと大丈夫、明日がハレることを信じて歩き出そう。 |