響く(19/52)PDFで表示縦書き表示RDF


今回と次回で物語のキーポイントが2つ、出てきます!!
お楽しみに。
詳しくはあとがきの方に書きましたので、よろしければそちらもどうぞ。
響く
作:綾瀬タカ



桜の出会い


 3年生になった。
 そして今、私は講堂の舞台裏にいて、カマキリ女のくだらない話を20分ほど我慢して聞いている。
 正しくは“聞いているふりをして集中している”。

「それでは生徒による模範演奏に移ります。昨年、みなさんより1つ年上の新入生の前で演奏し、3月の全国コンクールで最優秀金賞を受賞した生徒です。ピアノ科特別クラス3年浅羽望による、ベートーベンの『ピアノソナタ第31番』です」
 
 去年よりカマキリ女の話が少しだけ短いのは、今年の桜が例年通りに咲いたからだろう。
 私はまた生徒代表に選ばれ、コンクールでの自由曲を演奏するように、と言われた。
 新入生たちへの、学校のアピールのためにそうしたのだということは分かっていた。
 それでも私は言うとおりに弾いた。

 これで、2度目。
 来年も生徒代表に選ばれれば、3度目。
 そうしたら、私で決まりだ。


 *  *  *


 中庭の桜の木の下に寝転んで、サボる季節がやって来た。
 一番好きなサボり方だ。
 寝転んだ芝生はとても温かい。よく中庭で見かける用務員のおじさんが大切に育てた芝生が、私の背中をちくちく刺すのを堪えれば、そこにいるのはとても気持ちがよかった。
 そしてそのうちにまたカマキリ女が迎えに来て、私は惜しみながらも明日を楽しみにその場を去る。次の日もまた同じ繰り返し。
 気がつくと、噴水のそばに駆け寄ってしまう季節がやって来る。

「浅羽さん」
 芝生に思いきり寝転ぶ寸前、成沢先生が校舎の廊下から叫んだ。
「そこ、気持ちいい?」
 私は少し離れたその場所に、聞こえるように言った。
「はい」
 成沢先生は私の返事に満足したようで、にこっと笑うと手を振りながら歩いていった。
 コンクールが無事に終わり、春休みをはさんで、この春からはまたお互いいつも通りの授業に戻ったのだ。
 個人レッスンの面影もなく、第5音楽室はこの時間、ピアノ科2年の授業になった。
 特別クラスの教師が成沢先生だったら、私は授業に出ていたかもしれないのに、と、あれから何度か思った。
 成沢先生なら、あそこでの私の位置を、はっきり分かってくれていただろう。1人だけ、飛び抜けてしまっていることに。
 けれど、なぜか特別クラスは教師が変わらない。よく覚えてはいないけど、毎年生徒たちには変化があるようだった。それは、毎年の成績によって決められているらしい。

 私は芝生に寝転んで、目を閉じた。鳥の鳴き声と、爽やかに吹く風の音があった。噴水の音が止み、一瞬“ここ”は静寂に包まれた。
 そのあと、風が吹いて桜を揺らした。花びらが1枚、頬に落ちてくるのを感じると、まもなくそれは現実になった。
 向かってくる足音が聞こえる。いつもより少し早い、カマキリ女の登場。
 それでも気づかないふりをして、目を閉じていた。
 足音は次第にはっきりと、地面にこすれる靴の音がする。
 けれど、それはいつもと違っていた。
 カマキリ女の足音は、それだけで怒りを表している。
 けれど、今日のそれは違う。この足音は、とても軽やかだ。さすが音楽学校といったような、リズミカルな音色。
 すごく近くに誰かの気配を感じると、音がピタっと止まった。
「浅羽さん」
 
 私を呼ぶその声は、男の人だった。



どうでしたでしょうか?
キーポイントとなるひとつめは、「私で決まり」という言葉です。
この意味はもう少しあとで描くことになります。
そしてもうひとつが、「私を呼んだ男の人」です。
これは次回に続いているので、彼の正体は第20話にて。

それでは今後ともよろしくお願いします。
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