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第6話(1)
 がこんっ。
「……あ。止まった」
「武人、ちょっと手伝って」
 ぷすん、と最後の名残のようにひとつ大きく震えて車が止まる。
 和希が顔を顰めて運転席を降りると、その言葉に従って武人も車を降りた。
 仮にもメジャーでデビューしようと言う人間の、デビュー前営業のツアーってのはせいぜいこんなもんだ。
 今日は山梨の地方ラジオの収録がさっきまであって、既に時間は十九時を回っている。明日はライブを予定していて、これから本日の宿泊先に向かう予定。
「だあああー、もう。さーちゃん、車なんとかして」
「……うん。そうだね」
 さすがに頭痛をこらえるような顔で、さーちゃんがため息をついた。フロントグラスの向こうでは、機械系に強いニ人がボンネットをこじあけている。
 「車あるの?」と聞かれたので、安易に「あるよー」などと答えたのが間違いだったんだろう。走行距離ン十万kmのとんでもない車で移動しようと言うのが間違ってる。機材も一緒に積んでるから、とりあえず男ばかり五人も乗れば死ぬほど狭い。
 ちなみに、ツアーにかかるお金はブレインとロードランナーの折半だ。双方ケチってくれてありがとう。
「君らは手伝ってあげないの?」
「あーいうのはあのニ人に任せておけば間違いないもん」
「……しょーがないなあ」
 さーちゃんが降りて行って、俺はずるーっとシートに体を沈み込ませた。出て行ってもどうせ無駄だから待ってることにする。代わりに運転を交替してあげよう。
「一矢さあー」
「あー?」
 同じく車内で暇している一矢に、ぼーっと声をかけた。
「聞いた? ソリティアの話」
 俺の言葉に、隣で携帯をかちかちいじってた一矢が目を上げた。どうせ女にメールだろう。
「何、ソリティアの話」
「メール、女のコ?」
「一応は。紫乃」
 広瀬か。
「ふうん。いや、ソリティアのね、三科さん、いるじゃん」
 レコーディングの時に立ち会いで来てた人だ。
 彼女はレコーディングの間もずっと来てたし、その後のTD――トラックダウンにも来ていたらしい。ディレクターつってたおじさんは最初に挨拶したきりだったけど。これは広田さんが完全に仕切っていることが関係しているのかもしれない。
「ああ、うん。手強そうなおねーさん」
 もうちょっと広い視野で物事が見れんのかね? 君は。
「あの人が言ってたらしいんだけど。クロスって凄いブロックかかってんだって」
「は?」
 ぼやくように言った俺に、一矢が目を瞬いた。
「ナニ? ブロックって」
「だからね、告知とか画像の使用許諾とか。凄い制限かかってて、ソリティアもあんまし好きなように使えないんだって。……三科さんがぼやいてたって話」
 ぱちんと携帯を閉じて一矢が体を起こす。ずべーっと半ば寝そべっただらしない姿勢のままで、俺は一矢を見上げた。
「……どゆこと? 誰が言ってたの? ってかそれってありえるの?」
「どゆことかは俺にも良くわかんない。言ってたのは潜沢の澤野井さん。ありえるのかどうかも俺にはわからないけど、そう言ってるんだからあるんだってことなんじゃないの」
「ふうん……?」
 不可解な顔で一矢が首を傾げたところで、ばこんと視界を暗くしていたボンネットが閉じられた。三人が戻ってくるのが見えて、口を閉ざす。……さーちゃんの前で出来る話じゃない気がする。
 もぞもぞとバックシートから無理矢理運転席へ乗り移る俺の姿に、和希が窓の外から目を細めた。後ろへ回ってドアを開けながら笑う。助手席のドアからはさっきと同じように武人が乗り込んできた。
「何? 反省して運転代わってくれるんだ?」
「俺が何をどの辺反省するの?」
「日頃の行い」
 反省する心当たりがないからやめた。
 もぞもぞと黙ったままバックシートへ戻ろうとする俺を、和希が笑いながら押し留める。
「嘘だって。わかったよ悪かったよ」
「うん」
「……うんって」
 だって俺、悪くない。
 和希の苦笑を頭の上に聞きながら、イグニッションキーを回してサイドブレーキに手を掛けた。途端、一矢が言った。
「天国以外に連れてってね」
 お前を『天国』へ連れてく手段の方が俺にはわからんよ。
「さあってねえーっ。運転そのものがひっさびさだからなあーっ俺ぇーっ。死んぢゃうかもねえーっ」
「啓一郎さん、未来のある俺を道連れにするのはやめて下さいね」
 どいつもこいつも……。
 その言い方じゃまるで俺には未来がないみたいじゃないか。
 助手席で地図に視線を落としながら、淡々と呟くように言った武人を横目で睨みつける。後部シートからさーちゃんがけらけらと笑った。
「君らは仲がいんだか悪いんだかわかんないねー」
「悪いです」
 目一杯これ以上ないくらい嫌な顔の俺と、淡々と地図に視線を落としたまま武人と、相変わらず携帯に気が行っている一矢と、くすくす笑っている和希と、それぞれのセリフが思い切りかぶったのでまたさーちゃんに笑われた。
「んでえ? この先、どっち」
 車を発進させて、しばらく先の方に分岐路があるのを見てナビ担当の武人に尋ねる。ようやく地図から顔を上げた武人が、道路の向こうに目線を定めたまま答えた。
「この先右折。多分百メートルくらいですぐ左手にスタンドあるんで、そこを左折。三キロくらい道なりで三又に出ると思うんで、その信号は右折だから右車線入ってて下さい。右折してすぐ左折で、その次ニ本目を右折したら四つ目の信号を……」
 覚えられるかっ。
「最初が左折ね……」
「既に違ってます」
 わざとやってるだろう。
「たーけーとーっ! 年長者は敬いなさいと昔偉い偉い人が、だなあ……」
「だって暇なんだもん」
 暇だからと言って先輩をからかって遊ぶのはいかがなものか。
「いつの間にこんなコになっちゃったかね、本当に」
 言われた通り右折しながらぼやく。
「昔は可愛げがあったのになああ。出会った頃はさあ」
「あ、その前なんかもっと可愛いガキだったよ」
 運転席の背もたれにがしっとしがみついて前に顔を突っ込んだ一矢に、武人が赤い顔で振り返った。
「か、一矢さんっ」
「今こーんな冷静沈着な顔してるけど、こいつ……」
「一矢さんっっっ」
「何? 何? 何?」
 じたばたと腕を振り回して妨害しようとする武人を、一矢が押し退ける。
「あのねえ……」
「何言う気ですかっ」
「どれ言って良い?」
 一矢はこん中では武人との付き合いが一番長く、小学校の時から知っている。メンバーの中では武人の恥の宝庫だ。ちなみに、一矢の恥の宝庫と言えるのは多分俺だろう。和希にはそんな隙はありはしない。何かネタ持ってそうって言ったら、俺らじゃなくて昔から和希と付き合いのある下屋先輩って人くらいだろーな。ちなみに俺は、全く縁がない。
「言わせてみればわかるでしょー?」
 ええと……このスタンドを左折つったか?
「啓一郎さん、ここ、左折」
 おお凄ぇ。覚えてるじゃん俺。
「えとね、楽器屋で働いてたおねーさんが何も言わずにやめちゃった時さあ……」
「そこですかっ? そのネタですかっっ? あああああ、もうっ。あ、啓一郎さん、右車線入って下さいねッ」
「はいはーい」
 こんなに取り乱す武人はなかなか見られない。
 バックミラー越しに見れば、和希も腹を抱えて笑い転げているのが映っていた。
「後ろ、すんげぇ和希に笑われてんよ」
「和希さんっ」
「いや……ごめん……そんな必死な形相の武人見てると、楽器屋のおねーさんがやめた時に何が起こったのかなとかいろいろ考えちゃうよね……」
「考えないで下さいよっ」
 怒鳴って前に向き直りながら、地図に視線を落としてため息をつく。
「そんな自我が確立する前の話を持ち出されても」
 さーちゃんが後ろからぽんぽんと武人の肩を叩いた。
「武人くんも苦労するね」
「まったくですよ。親戚のおじさんに囲まれてる気分」
「あー。あるよね。親戚のおじさんとかって何であんなに『君は小さい頃……』とかって立派に大人になった相手に語るの好きなの?」
「……今まさにあなたたちはそれを俺にしようとしてましたけど」
「んで次右折?」
「あ、結構覚えてるじゃないですか」
 馬鹿にすんなよ?
「あ、D.N.A」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐその後ろで、するんとノイズだらけのカーラジオから流れる微かな音が耳に留まる。と、今の騒ぎが嘘のように静かになった。
 途端、さーちゃんがまた吹き出した。
「何か幼稚園児の中にいるみたいだなあ」
「それ、俺は入ってないよね?」
「うん。和希くんはどっちかって言うと引率の先生」
「俺入ってないですよねえっ?」
 待てこら、最年少。
「ごめんね、武人くんは入ってる」
 笑いを浮かべてあんまり申し訳なくなさそうに言うさーちゃんに、武人が悲しげにため息をついた。
 そんなやりとりの間、俺は黙ってD.N.A.の曲を聴いていた。これまでにも何度か耳にした、カラオケとかで女の子が良く歌いそうなアップテンポのリズミカルで覚えやすい曲。
 事務所に入るまでにも何度か聴いているはずなのに、今こうして改めて聴くと何だか違って聞こえた。
 日常、積極的に買って聴くつもりがなくても流れて来る楽曲。こうして耳についているその曲を歌っているのが、こないだラーメン屋で「如月さんに振られたんですう」って言いながら半泣きになっていたその人だと言うのが妙に信じられない。
 と言うか。
(凄いよな)
 当たり前みたいに人が耳にする曲ってところが。
 前だって、そういうのは凄いと思ってた。「出来ることじゃあないよなあ」って。「そんなふうになれたら良いなあ」って。
 でもああして、それを成し遂げた人間とラーメン食って恋愛話とかしちゃったりして、普通の人と同じように普通の会話してたりすると、しみじみと痛感する。
 同じようにそうして生活して近い場所にいるのに、何て言う違いなんだろう。
 事務所が一緒だって言ったって、CRYやBlowin’は最初から比較にならない。俺にとって、比較対象にするにはまだまだ全然早い。ただの「いいなあ、凄いなあ」というような幻想的な憧れならともかく、現実感持って「こうなりたい」と憧れるのさえおこがましいような気すらしてしまう。
 でも広瀬は、いろんな意味で近いから。
 年も、立場も、視点も。
 なのにこの違い。
 そしてここまでやることがどれほど大変なことか。
 D.N.A.の曲を聴きながら、俺は先ほど一矢に話し掛けた言葉の続きを頭の中で考えた。
 潜沢の澤野井さんの言っていた言葉は、俺にはどうとらえていいのか良くわからない。
 『ソリティアが、ブレインの制限でクロスの画像等を自由に使えない』。
(凄く……引っ掛かるんだよな……)
 変じゃんだって。広田さんの話と合わせると。
 三科さんがぼやいてたって、澤野井さんは言っていた。聞いたのは昨日の夜、電話でだ。
 新しい会社が立ち上げた携帯音源の配信サイトで、期間限定の一曲無料DL付きの特集とかってのもやってみると宣伝効果にはなるかもよと言う話でくれた電話のついでなんだけど……。
 本当はこういうの、良くないんだろうけど、澤野井さんは俺たちを直接知っててブレインよりもそれこそアーティストである俺たちの方が近いから、こないだの『MUSIC CITY』と同じノリで直接俺らに意志確認してから、ブレイン経由で正式に仕事を回してくれるつもりだったようだ。
 その時の話だと、三科さんは正確にはこう言っていたと聞いている。
 ――ちょっとね、クロスはガードきついんですよ。ウチも使える写真とか媒体が、ちょっと今のところ制限されちゃってるんです。だから細かなことは、ブレインさんに確認して欲しいんですよ。
 本来なら、レコード会社に事務所がそれほど厳しい制限をかけるようなことはないらしい。
 アーティストを預かっているのは事務所だから事務所の権利はもちろんそれなりに強いはずだけど、CDを作って売るのはレコード会社なわけだし、金出して売り込むのはレコード会社の力がなければどうにもならないのが実態だろうから、恐らくは譲り合い譲り合い、話し合い話し合いで力の均衡を保つもんなんだと思う。
 だけどどうやら、クロスについては違うようだ。ブレインが何らかの圧力をかけているように感じる。
 それに、腰が引けてるアーティストの写真がどうこうなんて、どうでも良い話なんじゃないのか? 何か変だよな? 食い違ってるような。
 武人の指示に従って、後はしばらく道なりだと言うところで、俺は車を走らせながらひたすらそんなことを考えていた。いや、考えたって別に今何がわかるわけでも変わるわけでもないんだけどね。単に喉に物がつっかえてるみたいな気持ち悪さがあるだけで。
 和希に話せば何か考えを教えてくれるだろうけど、さーちゃんのいる前では言いにくいから、夜に宿で聞いてみようとは思うものの。
 そんなふうに思って、ふと気づいてみると車内がやけに静かだった。ラジオの音だけがただただ静かに……と言うかノイズ交じりに流れている。あれ?
「ああ、みんな寝ちゃった」
「……はくじょーな」
「このパターンだと本当なら啓一郎も寝てるよね。良く起きてるね」
 俺が寝たら本当にレッツ天国ですけど。
 一人起きて雑誌を読んでたらしい和希が、俺が我に返ったことに気づいたのか後部シートから教えてくれる。俺は思わず信号で停止しながら、かくりと頭を前に落とした。
「ナビの武人が寝てるってどうよ」
 俺の隣でしっかりと、向こう側の窓にくてっと凭れ掛かるように寝てしまっている。
「日々お勉強で疲れてるんだし」
「さーちゃんも寝てるの?」
「ああ、うん」
 マネージャーがアーティストに運転任せて寝ちゃうってのは、もっとどうよ?
「ああ次の道がわからないなあっと……」
 棒読みでぼやきながら、武人の膝に乗ったままの地図に手を伸ばそうとすると、後ろから手が伸びた。
「俺、見るよ」
「さんきゅー」
 何せみんながみんな寝ているので、ついつい声が押さえ気味になる。青に変わった信号にサイドブレーキを解除しながら、俺は少し窓を開けた。冷たいけど、澄んだ空気が車内に流れ込む。ちなみに、古式ゆかしい手回しのハンドルだ。
「ああ、まだ大丈夫。もう少し道なり。右手にファミレス見えてきたらその先の十字路を左だな」
「ほい」
 ラジオのトークが途切れ、一層ひどいノイズに混じって知らない洋楽が流れた。それにうなされるように、さーちゃんがもぞっと何か言うのが聞こえた。
「何かおっしゃいました?」
「……うん。さーちゃんが夢の中でトーキング」
「あ、そ」
 本気で寝てらっしゃる。
 まあ、俺らが忙しいってことはさーちゃんは、それ以上に忙しいだろうし。何せ、四人分のケアしてるわけだから。
 事務所の人間だから、いろいろ考えてるだろうし……。
 ……。
「本気で寝てる?」
「この微かな地響きは俺の左隣が震源地」
 ふうん。
 関係ないけど、和希の右隣―― 一矢ってのは寝相だけは凄く良い。鼾とかも全然かかない。死んでるのかと思うような寝方をするので静かだ。こうして見ると武人も静かに寝るよな。微かな寝息だけが俺の隣から聞こえてくる。
「無言電話は健在?」
 外からの薄明かりを頼りに、誌面をぱらぱらと繰る音が聞こえる。俺はため息で答えた。
「健在」
「頑張るね」
「どっちが?」
「先方」
 そんな頑張りは欲しくない。
「和希こそ、まだ違うアパート帰ってるの?」
「や、俺はないよ。二回くらいで終了」
「あ、そ」
 そっちは和希のファンなんだろうかって気がする。
 自分の好きなアーティストの家がこの辺にあるって思えば、知りたくなる気持ちもわかるわけじゃないけど、予想はつく。
「和希さあ」
「うん」
「意見、聞きたいんだけど」
「何?」
 バックミラー越しに和希が目を上げた。
「何読んでるの?」
「……改めてそんなことが聞きたいの?」
 じゃないけど。
「『REC SOUND』」
「何そのマニアックそうな雑誌」
「レコーディングの話がね、いろいろ載ってる。アーティストじゃなくてエンジニア系の人向けの雑誌かな? 有名なエンジニアの話だとか新しい機材の講釈だとか」
 ……あなたはアーティストでしょ?
「ホント好きだよね、そういうの」
「勉強になるでしょ。……んで、何?」
「ああ、うん」
 ちょっと、口篭もる。バックミラーの和希から目線を外して、その隣のさーちゃんにちらりと目を向けた。本当に眠っていることをもう一度確認して、声を落とす。
「あのさ、ここだけの話にして欲しいんだけど」
「ここだけってクロス関係の話だったらここに主要メンバーみんなそろっちゃってるけど」
「寝てるでしょー」
「まあね」
 そうやっていじめてくれなくて良い。
「あのさ、澤野井さんから昨日電話があってさ……ファミレスって、あれ?」
「かな?」
「おっけー。十字路、右だっけ」
「……本当にお馬鹿さんなの? 橋谷さん」
「……左でした」
 くそう。
「んで、澤野井さん?」
 ミラーの中で、和希が雑誌を閉じるような仕草をするのが見える。手元までは、見えない。
「うん。……これ、まだブレインに話が行ってるかわからないし、アーティスト直で変にもめると嫌だから、まるごとブレインには伏せて欲しいんだけど。あと、三科さんに変に何かいくと嫌だし」
「三科さん? ソリティアの?」
「そう」
 前の車が左折するのをウィンカーで確認して、続いて車を少し左に寄せて十字路の信号で引っ掛かる。サイドブレーキを引いて、その隙に煙草を咥えて火をつけた。間もなく信号が青に変わる。
「携帯のサイトで特集がどーとかって話を持って来てくれてさ。澤野井さんが」
「ふうん?」
 煙草をくわえたまんまでサイドブレーキを解除して、ハンドルを左にきった。曲がりきって直線に入ったところで、備え付けの灰皿に左手を伸ばす。
「その時に澤野井さんが言ってたんだけど。……道なり?」
「道なり」
 確認して、灰を落とした煙草をまたくわえる。視界の隅で、煙がゆるゆると窓の外へ流れて行くのが見えた。
「ソリティアの三科さんに、『Crystal Moon』のジャケ写、もらったら誌面の方にも使っていーか聞いたんだって。あの……俺と武人で行ったサイトの件だけじゃなくて」
「ああ、うん」
 頷く和希を見ながら、俺はもう一度鏡越しにさーちゃんを見た。和希もつられたように隣に視線を向ける。大丈夫、と言うように頷いて俺を促した。
「で?」
「うん。そしたらさ」
 澤野井さんから聞いた三科さんの言葉を、そっくりそのまま伝える。バックミラーの中、反面でも整った和希の顔に、驚きが広がっていった。
「どう思う?」
「……うーん」
「俺、良くわからないんだけど、少なくともCDに関してはレコード会社の方が立場が強いんじゃないのかな、普通は。とは言っても、アーティストのイメージとかそう言うのもあるから、事務所の意向と食い違うようなところにレコード会社が使いたがった場合は口出ししたりするのかもしれないけど」




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