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24.期間限定・増殖ギャル 後編

今日は休日。しかも久しぶりに暖かい日となれば、デートスポットは非常に賑やかになる。当然だろう、各地の雑誌でもよく取り上げられているからである。

そんな中で、一組のカップルもここを訪れていた。少々童顔の男性店員からコーヒーを頂きながら、外の陽気を味わっている。


「でさー、あれ凄かったんだよー!」

「ああ分かる分かる、凄かったよなー」


話題は昨日のテレビ、最近流行りのアクセサリ。基本的に一般的な女子はこのような話題が中心だ。正直言って、彼氏には何の興味もなかった。彼はただかっこつけたかっただけなのである。彼女がいれば他の連中が悔しがる、ただそれだけ。それを成功させているのは…


「でもやっぱ顔いいよねー、女だけど多分男に生まれてたら絶対嫉妬してたよー」

「わ、またお世辞言っちゃってー」

「本当だよ、かっこいいもん」


この顔とスタイルである。歌とかではしつこく内面が大事とか歌っているけど、やっぱり最終的に決めるのは外見である事はその歌い手の服装とかを見る限り明らかだ。センスが良ければ世渡りできる。そう彼は思っていた。

それが、彼をうぬぼれさせていた事に気付かなかったのが、ある意味悲劇であった。たくさんの女性を恋に落とさせ、飽きたら別れる。勿論グッズも使い回し。外見は良くても中身はどす黒い男であった…。


「ふーん、でもさーここ混んで来たねー」

「仕方ないよ、休日だもん」

「だよねー。

 前に来た時も、こうだったよねー」


その声に耳を疑い、それを言う顔に目を疑った。目の前にいるはずの「今」の彼女の代わりに、「前」の彼女が座っていたのだ。どこかかったるそうな顔をしながら、自分にまるで心酔したような姿が妙に記憶に残っている。

見間違いだ、と後ろを振り向くと…


「そうやって、私らを騙して来たもんねー」


全く同じ姿の女性がもう一人。どうなっているんだ、と思って周りを見回した時、彼のイケメン面は完全に崩壊した。


「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」「だよねー」


喫茶店にいるのは、全く同じ顔、同じ姿のギャル、ギャル、ギャル…。それが皆、彼の方向へ視線を向けている。


「あ…あはは…」


空笑いをしながら、彼は自分の頬をつねろうとした。こんな非現実な光景、当然、痛くないはずが…


「痛いでしょー」「これが現実だっつーの」


両方の頬を、一気にギャルにつねられてしまった。無理に引っ張ったので相当な痛みが頬から顔に走る。それが離された時、彼の顔は次第に恐怖へと変わっていった。

そして…


「うわあああああああ!!」


彼は喫茶店を急ぎ足で後にした。


…街を駆ける一人の男。しかし、彼の行く先々で、どんどん信じられない事が起こり始めていた。


「あれー、逃げるんだ?」

「うわあああああああ!!」


「「えー、そっち行っちゃうのー?」」

「うわあああああああ!!」

「「「「こっちの方がいいのにー」」」」

「うわあああああああ!!」


「「「「「「「「待ってよー」」」」」」」」

「ひいいいいいいい!!」


どこの方向へ逃げても、そこにいるのは全く同じ姿のギャルばかり。道の横にも、店の中も、エスカレーターも、橋の上も、どこへ行っても。


「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」「待ってよー」

「くぁzwsぇdcrfvtgbyhぬjみk、おlp」


既に彼は正気を失いかけていた。もはや目の前にあるのはギャルだけ。皆全く同じ、何もかも同じ。

そして、僅かに残った思考能力が、このような状態を導いた理由をようやく判別する事が出来た。ただ、少々遅すぎたようだ…。


「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「ゆ、ユルシテクレエエエエエエエエ!!!」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」「あはははは♪」


彼の謝罪は、高笑いをする億万人のギャルによってかき消された。彼のプライドと共に…。


==============

『すっげえ面白かったっすよ!』


デュークは、例の彼女が仕事を終えていった言葉を思い出していた。今回の作戦、考えたのは彼だ。

確かに自分は、彼女に「自分」をいくらでも増やせる力を授けた。しかし、デュークにとってもまさか街中のすべての「生物」を自分に変えてしまうほどあの能力を楽しんでしまう、という選択肢はあまり予想していなかった。後で戻すのが大変、という自分の都合もあるのだが…。

そんな彼女と共に取った作戦。それは、このギャルで埋め尽くされたもう一つの街を作りだし、そこに「元カレ」を誘い出すというものである。二人で打ち合わせをした通り、ある決められた道を順番にたどる事でその異世界への扉を開く。その世界で、最初彼の眼には増殖したギャルの姿は隠し、普段通りの街並みに見えるようにした。その後、どのような順で彼を狂気に陥れたかは前述のとおりである。


最初は不安がっていたこの能力も、最終的に彼女は使いこなしていた。心の中にある誠実さが、無数の自分の連携を可能にしていたようだ。それ故、能力を使えなくする事に対しては嫌がっていた。教えずにそのまま「能力」の記憶ごと消すという方法もあったかもしれないが、真実を知らずに消す事は犯罪に近い、と「魔術師」は考えていたのである。


『今は良いかもしれない。ただ、この後どうなるか、予想は出来るか?』


自分同士に起きるであろう優劣関係、そこから始まる仲間割れ…。現に彼は一度そのような状態を見た事がある。だからこそ、彼女からそれに関する事柄を使えなくさせる必要がある。説得力があるその瞳で見つめられては、さすがのギャルも反論できない様子であった。


『ま、楽しかったからいいっすよ。あざーっす!』

『はは、また困ったらいつでも来な』


…多分、もう来れないかもしれない。彼女から、今回の事件に関する「増殖」の記憶は改変され、探偵局を出た後、彼氏と『自分自身』の力で別れた事になっている。


「ちょっと残念ですニャ…」

「仕方ないさブランチ。これが、超能力の定めさ」


陰でこっそり人々を助ける。全知万能の力を持つデュークが、あくまで裏方でい続ける理由は、その信念があるからである。


「それに、実質あの子が彼氏をやっつけたわけだからね、あながち間違ってはいない」

「ニャるほど…難しいですニャ…」


そう言いながら、結果報告をするために日が暮れ始めた街をデュークとブランチは一路探偵局へと歩き始めた。


そういえば、結局彼女から依頼料の2倍分のお金をもらっていなかった。しかし、デュークやブランチは気にしていないし、恵も実質彼らのお金となるので気にも留めないだろう。今回の報酬は、彼女の芯の通った考え方が見れた事、それだけで十分だ。


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