ファンタジーショートショート:甘党魔王様
「と言うわけで俺が…何代目だっけ?」
「…15代目でございます!」
「15代目の魔王です。よろしくねー」
とその玉座に座る少年は気楽に言った。その姿はまだまだ魔王らしい風格を備えておらず、配下達は彼をこれから守り立てねばならぬと気合を入れなおす。だが、先ほど何代目かを答えた側近の魔物は頭を抱えたくなっていた。
「14代目が勇者に討たれてからというもの我らも数を大分人間共に減らされてしまいました。それだというのに今回の15代目は幼すぎる。こんな事で再び再興出来るのだろうか…」
と彼は1人ため息をついていた。
魔王は早速討伐され数を大分減らされていた配下の魔物たちを再び生み出す事に専念した。しかしそこには魔王のある思惑があったのだ。
「な、なんですかこの者たちは!」
側近が驚きの声を上げる。
「何って、俺が作り出した魔物達だよ。一杯出来たでしょ?」
そこには様々な種類の魔物が居たのだ。最早王の間を埋め尽くしかねない勢いで造り続けている魔王に側近は感服した。
「流石は魔王様!しかし私が今まで見たことの無い魔物が多いのですが…これは?」
側近は妙にカラフルなスライム達を摘み上げてみた。若干甘い臭いがする。
「そいつらはねー?色によって味が違うスライムなんだよ?青はソーダ味、赤はイチゴ味、緑は青りんご味、オレンジはそのままオレンジ味、紫はぶどう味なんだー!」
目をキラキラさせて言う魔王。側近は倒れそうになるのを両足を踏ん張る事で耐えた。
「そ、そんなことをして一体どんな意味が…?」
恐る恐る聞いてみる。
「こいつらはね少しかじるくらいなら直ぐ再生するし、小腹がすいたときのおやつ代わりだよ?あ、もちろんそれぞれに属性も付与してあるし、魔法も使えるんだよこの子達!」
えへん!とばかりに胸を張る魔王。側近はクラクラした頭のまま他の魔物についても聞いて見る事にした。
「で、ではあちらにいる魔物達にも…?」
恐る恐る聞いてみる。
「うん!あいつらはね前は石化ブレスとか石化させる眼とか持ってたやつらなんだけどね。それじゃ面白くないからクッキーに変える能力にしてみたよ!」
目の前にいるコカトリスやゴルゴン、メデューサ等全てクッキー化させる能力を身につけていた。側近は今度こそ卒倒する。
「な、何故こんな者たちばかり…」
「だって甘い物が好きなんだもの。こいつらなら戦力にもおかしにも困らない!一石二鳥でしょ?」
側近は意識を手放した。
しかし人間達にとっては正に魔王であった。
復活した魔物、スライムが今まではありえなかった強力な魔法を行使し、クッキー化された仲間は治す事もできないまま魔物にばりばりと喰われてしまう。またそれ以外にも様々なお菓子を生み出す魔物を引き連れていた為『甘いにおいがする時は近くに魔物がいる証拠』等と恐れられていた。
また人間の国でのお菓子は人気が無くなり、お菓子の材料を扱っている業者や農家に打撃を与える事になった。また生活に甘い物をという一種の趣向品的な物が無くなり、人々の生活に若干の陰りが見えてきた。
なんだかんだで人間を苦しめ、そして自分達の領土を拡大していく魔王に
「なんでこんな事で上手く行くんだ…」
と呟きながらも側近は人間で出来たクッキーをばりばりと頬張るのであった。