もう、1年たった。あのときに比べれば、だいぶ気持ちが落ち着いてきたと思う。私はまた、この橋を渡り、彼はもう当分の間渡ることのない橋。
私たちは妙に気があった。異性だったのに、中学生だったのに不思議と2人でいた。どちらかといえば、双子のようだった。家は少し離れてて、この橋を渡って左へ行くのが私で、右へ行くのは彼だった。
でも、話したいことがいっぱいあって、どうも別れられず、橋の上で大抵30分は話していた。部活は同じだったから、帰る時間も、待ち合わせ場所も困らなかった。
一時、付き合っていると噂された。そのときは、自分の中に恋だとか、付き合うだとかそんな物はなかった。
思い違いかもしれないけど、彼は私をそう見ていた、と思う。いつだったか、そういう話をされた事がある。もともとさばさばしていた私にとって、そんな物、どうでも良かった。半年後、後悔するなんて考えても見なかった。
冬休みに、この橋の下に呼び出された。小雪が降っていた。受験期だったから、正直嬉しくなかった。彼はカメラを取り出して、一本の木を撮っていた。私の事なんて、すっかり忘れているようだった。
一段落したとき、こっちを向いて笑っていた。「木も生きてるんだよな。」なんていいながら。その笑顔が私の頭の中のアルバムに、しっかりと刻み込まれた。彼は行きたい高校が遠いので、祖父の家に住む事、合格したら、引っ越すことを教えてくれた。
「ふうん。」という自分で言った軽い一言に、自分で傷ついた。
彼は合格した。私も近所の高校に合格した。運命だった。「当然」だった。
彼の引っ越すその日、二人で橋で話した。なんでもない話だった。桜は咲いてなかった。つぼみのまま、寒さに耐えていた。もうすぐ、咲くと思っていた。その日も私は左の道へ、彼は右の道へと帰っていった。
彼の愛したその木は、大きすぎて危険という理由で、桜を咲かすことなく、命を絶たされた。それは一時間と掛からなく、あっさりとしていた。彼には伝えられなかった。
その桜の後ろに立っていた家のおばあちゃんが教えてくれた。
「この桜は人と人を結ぶ桜なんだ。」と。
橋の下は今日も、散歩している人でいっぱいだった。一人の青年が、カメラを片手に、あの木に座っていた。彼だった。
時間が戻った気がした。彼も、橋の上の少女に気がついた。驚いたようだったが、彼は叫んだ。
「桜!」
と。少女の名を。 |