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最強少年と喪失彼女 作者:草田林檎
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月明りの下で

戦闘が終わり、かなりの時間が経つと、皆が落ち着きを取り戻し、一先ずの安全を得た。
今はもう夕方。どうやらオレは戦闘の後、疲れてそのまま寝てしまったようだ。帰りの時間になっていて、もう生徒のほとんどは下校をすでに完了させている。華音や咲、秀一達はオレが起きるのを待っていてくれていた。
未だ先生が出した石は存在していた。あの光弾によりその石にはグラウンドと同じようにクレーターのようなへこみがある。
ビーストから戻った緑帽羽地は、ビーストに変化していたので大した外傷は無いが、一応念のため、ということで病院に運ばれた。
先生が能力者と知った生徒の皆は、最初は戸惑っていたが、そのうち先生に群がって尊敬のまなざしで、先生を質問攻めにしたようだ。華音はその光景にデジャヴを感じて先生を憐れんでいたらしい。どうやら、先生の能力は『石を出す』能力のようだ。
だが、先生はそれ以上は何も話さなかった。先生が自発的に目覚めたのか、外から能力が入ってきたのかは分からないが、先生が望んで能力に目覚めたようではないようだ。
先生達も帰ろうとしていた時、グラウンドに入ってくる人がいた。あのニートのほうの影山さんだった。息を切らして真っ直ぐこっちに来ている。
「大丈夫か!? 二人とも、心配したぞ! テレビを見たらここにビーストはいるわ、ローブを被った変な男がいるわで、急いでここに来たんだ!」
先生の夫婦はアハハと笑い、事が終わったことを話した。ニートの影山さんがそのことを聞いてホッと息を漏らした。
すると、ニートの影山さんに向かって華音が近寄って、まじまじと観察をし始めた。
「・・・影山さん、どこか変わりました?」
「・・・なに言ってんだお前?」
華音の質問があまりにもよく分からないものだったので、オレはその言葉の意味を訊く。どうも華音が言うには、どこか昨日会ったときと違うような気がする、とのこと。
だが、あまり信ぴょう性は無い。第一、何か変わったところでオレ達にはあまり関係無い。実際にどこが変わったか訊いてみると、華音は曖昧な答えしか出せなかった。多分、華音の気のせいだろう。
・・・。
本当にそうなのか?
何かがおかしい。何か、オレは大切なことを見落としている気がする。考えろ、今までに違和感を感じたところ、そこに何かがある。
口に手を当て、必死に思考を巡らせる。辺りを観察すると、ローブが残したものに、オレは注目した。グラウンドの穴とへこみに、石にできたへこみ。その三つの光弾の跡は、まったく大きさが異なっていた。
一つ目にできた、レーザーが貫通したかのような穴。その穴の大きさは直径が10センチ程度のものだった。
二つ目にできたクレーターのようなへこみ。大きさは先ほどのとは桁違いで、直径が3メートルほどあった。あいつ、よくこんなもん避けれたな。
三つ目は石にできたくぼみ。これは先生が出した縦の長さが大人一人分の石の全体にあり、おそらく、石よりも大きい光弾だったのだろう。こちらも直径3メートルはある。これで全部か。
・・・いや、違う。
「秀一、ちょっと頼みたいことがある。」
右手の人差し指をクイクイッと曲げて、秀一を呼ぶ。要件を伝えると、秀一は手をbの形にした。
「あと・・・秋山だったか? 今度から無茶すんなよ。」
秋山は沈んだ顔でゆっくり頷いた。こいつ、弱虫だと思ってたのに、ビーストに向かっていける勇気はあるんだな。無謀とも言うが。
バイクに乗って、学校を後にする。


目的の場所にはすぐに着いた。白い壁にできた大穴。その穴は直径1メートルぐらいだが、壁にある穴を見ると、その先の幾つもの壁にも同じ穴が開いている。違和感があったのは、ここだ。
最初は、穴が開いたとき、パンチの牛野郎が暴れていたから、そいつがやったと思っていた。だが、あいつが攻撃してたのは赤い物限定だった。しかも攻撃した物はどれも粉々に粉砕されていた。ということは、この穴はあいつの仕業ではないってことだ。そもそもある程度の貫通力がある飛び道具でないと、こんな芸当は出来ない。
となると、この大穴を開けたのは、あのローブだろうか。あいつの能力が『光弾を発射する』なのは間違いない。光弾の大きさが小さくなるほど、光弾はレーザーのようになっていく。つまり、光弾の大きさで威力と貫通力が変わっている。おそらく能力の対価は・・・
「・・・『大きさを変えることで威力と貫通力が変化する』ってところか。」
あいつの対価は大体分かった。次は何故こんな穴を開けたのか、だ。この攻撃は誰かを殺そうとした訳でもない。もし誰かを殺そうとしたなら、死体か何かが残るはずだ。
・・・まさか、この穴はあの能力の試し撃ち? するとあのローブは、最近能力に目覚めたのか? あくまでもオレの憶測だけど。
そういやあのローブはビーストを操ってたな。ひょっとしてビーストの影響で能力に目覚めたのか? だとしたらかなりの間、ビーストの近くにいたことになるが。それになんでビーストを操れるのかが分からん。
おかしいと感じたのは、この前のビースト。あの鞭のやつだ。あんな行動をするビーストは見たことがない。ビーストは優先的にオレを攻撃する。逃げ出したり、角で待ち伏せしたりなどはしないはずだ。つまりあのビーストもローブに操られていた、ということになる。
あいつは逃げたりはしたが、オレが近くにいる際、オレ以外のやつを攻撃はしなかった。あいつはまだビーストの本能が残っていたんだ。だが、今回のはそれがなかった。あのローブが二体のビーストに何かした、と仮定すると、僅か二日でコントロール技術を上げたことになる。そんなことが可能なのか? もし出来たとするなら、かなりの時間と労力が必要だろう。いったい誰がそんなことが出来る?
・・・いや、本当は分かっている。あの人になら、それが可能だ。しかし証拠がない。だからこそ、秀一に足止めを頼んだのだ。真相を確かめに行く。


『202』以外の部屋。そこは物置に見せかけた、研究室だった。隠すための段ボールだとか、布切れを剥がせばすぐに本性を現した。ややこしい機械だとか、材料のような物が巧妙に隠されている。あの人の兄だ、頭は相当いいだろう。
こんなところで実験を行う理由は、すぐに分かった。二階の『203』号室に入ると、明らかに非人道的な機械と、人間であったものであろう死体が転がっていた。もう体は腐敗仕切っており、辺りに吐き気を催す悪臭を放つ。何を実験していたのか、それは分からなかった。どうやら研究結果などは全てパソコンに記録していたようだ。だが、おおよその検討はつく。ここで能力者、そしてビーストについて調べていたのだろう。兄妹二人で。そしてビーストを操れるものを開発した、ということだろう。
今すぐに警察に通報したいところだが、相手が能力者じゃ逆に足手まといか。無駄に犠牲者が増えるだけだ。
・・・そういや結局、どっちが能力者だったんだ? ここでビーストについて調べていた内に能力に目覚めたのは分かるが。
どこか、どこかにヒントがあるはずだ。ローブの仕草、華音が感じた違和感、そして──
あの人のあの言葉。
・・・!
出来れば、そうであって欲しくなかった。だが、そうとしか考えられない。学校の皆には知らせないでおこう。。
これは、オレだけでなんとかするべきことだ──


深夜11時、もう小学生は寝ているだろう。
私は、風呂を浴びて、浴室からでていた。リビングには、妻がソファに座ってテレビを見ている。
「それにも驚いたよ、君が能力者だったなんて。」
私の言葉に、彼女は照れながら話し出す。
「結構前からそうだったの。すごい能力じゃなかったから、秘密にしておきたかったけど。」
「いや、それは違うさ。」
君のおかげで、私は能力者になれたのだから──
私は彼女に観賞のお供にと、紅茶を入れて、彼女の目の前のテーブルに置いた。
自分の自室に戻ると、兄の部屋に誰か来客がいるようだった。監視カメラの映像を見てみると、胸倉掴まれている兄と、何かを怒りの顔で話す龍騎拓也がいた。
私はほくそ笑んでアパートに向かった。


深夜10時30分、華音が自分の部屋で眠ったことを確認すると、オレはバイクを走らせ、ボロアパートに向かった。
華音がチラリと見ていた電気メーターは、今もかなりの速さで回っていた。
階段を上って、『202』のドアをノックせずに開ける。そこには突然の来客に驚くニートの影山がいた。オレは相手が何か行動する隙を与えず、顔を隠して話し出す。
「なあ、なんであんた、今日学校に来たんだ?」
「・・・何を言ってる? ビーストが現れたからに決まっているだろう。」
「・・・なんで学校にビーストが来ていたのを知ってるんだ?」
「それはテレビを見た・・・から・・・」
言葉を話すと共に顔が青ざめていく影山。オレは畳みかけるように今まで隠していた怒りの顔を相手に向けた。その目には薄っすらと紫が混じっている。
「なんであんたが、テレビなんてもん見れてんだ!」
返す言葉もなく、ただオレに怯える影山の胸倉を掴んだ。
「おかしいと思ったんだ! 華音は影山先生が変だって言うし、今日来たあんたはローブの中身が男だって分かってた!」
ただひたすらにオレから逃れようとする影山を、オレは小学生ではあり得ない力で握りしめる。下手すりゃ窒息するかもしれない。
「多分あんたは、影山先生に化けて、今日学校に来たんだろ!? あんたを見慣れてるオレ達は判らなかったが、新参者の華音にはバレてたよ!」
オレはその勢いのまま、グイッと影山の顔を引き寄せ、さらに手に力を込める。
「言え! あんたが影山先生に化けたってことは、あのローブの中身は・・・」
そのとき、オレは影山と共に横に避けた。オレたちがいた場所には、レーザーに貫かれたような穴ができた。影山がオレを突き放すと、レーザーが影山の心臓部をぶち抜いた。
──arrow──
オレは窓から攻撃があった方向に向かって、光の矢を放つ。そこにはローブが高いビルの屋上にいて、矢が頬をかすめた。オレの反撃によってローブはその顔を月夜に晒す。
そこには、月を背にする、影山先生がいた。


アパートの屋上に上がり、敵を睨みつける。アパートとビルの距離は道路を挟んでいた。射撃戦をするのには丁度いい距離だ。ビルの高さは、アパートより少し高い程度だった。
「・・・なんであの人を殺した?」
影山はオレの言葉に笑い出し、淡々と話し出した。未だ、オレの目には、薄っすらと紫色が混じっていた。
「必要なくなったのさ。薬の開発は成功、完成したからね。」
「・・・その薬が、ビーストを操る物か?」
「そう。ビーストは中々に面白い物だからね。人間が変貌したのにも関わらず、その姿形が他の動物に酷似しており、その動物の特徴を受け継いでいる。実に興味深い。」
「だから自分の物にしたかった、とでも?」
「まあね。もっとも、今最も興味深いのは、君のガールフレンドだがね。」
「・・・華音のことか?」
「whipのビーストのデータを取っていたとき、彼女が光って君に力を授けたのを目撃してね。彼女を攻撃すれば、またそれが見れるかも、と思ったのだが。」
相手はため息をついて、残念そうな顔でオレを見下ろす。
「・・・あんたは最初から霧島先生が能力者だって知ってたのか?」
「いいや? だけど、今日ので確信したよ。私が能力に目覚めることが出来たのは、彼女のおかげだとね。」
「なんで、霧島先生に近づいたんだ?」
「覚えてないね。彼女と結婚したのが3年前、ビーストが発生し始めたのが1年前。きっとビーストが早く発生していれば、こんな事にはならなかっただろうね。」
「・・・ああ、そうだろうなぁ!」
オレの目が完全に鮮やかな紫色に変わり、殺気を放つ。
ひょっとしたら、この人はビーストの影響を受け、性格が変わってしまったのかもしれない。ビーストが現れなかったら、二人は幸せな毎日を送れたのかもしれない。
だから、こうなったのは、オレの責任だ。
オレが悪いんだ。
オレがもっと早く、ビーストを倒していれば、こんなことには。
オレがもっと頑張っていれば、こんなことには。
オレが──
・・・だから、せめてこの人は、オレが、絶対に止める。
右手をスナップさせた。

遮蔽物が無い射撃戦が、真夜中の道路を挟んだ二つの建物で行われていた。その道路を通る車は、数えるほどしかない。誰かが戦っていることに気付ける人はほぼいないだろう。
相手は、大きな光弾を発射した。オレも矢を光弾にぶつけたが、光弾に掻き消されてしまった。素早く回避すると、アパートの三分の一が消え、庭がえぐれた。
オレは手数で勝負する。何本も矢を放ち、相手がそれを回避することで、避けられない位置へ誘導し、そこに矢を射ち込んだ。
が、その矢は相手の光弾で無意味になった。どうやら回避をしてる間にチャージが完了したようだ。その光弾を避けると、またもアパートの三分の一がなくなり、どんどんオレの足場がなくなっていく。
「そんなものかい? 君の力は。」
もう一度、相手を矢で誘導する。同じ手だと分かった影山浩二は、嘲笑ってヒョイヒョイと避ける。またも避けられないところに誘導し、矢を放った。
「甘い!」
相手は光弾で掻き消す。
「お前がな!」
──homing──
続けてオレの放った矢は、光弾を曲がって避けた。相手は直撃を食らう。
「なに、誘導弾!?」
──jump──
最後のオレの足場を狙った光弾を跳ぶことで避け、ビルまで跳躍する。相手は直撃を受けて怯んだことで、空中にいるオレを叩き落とせなかった。
ビルの屋上はもちろん、影山の目の前まで跳躍したオレは、跳んだ勢いのまま相手に回し蹴りを叩きこんだ。その威力はかなり大きく、相手はビルの屋上から道路まで落ちそうだ。
──shoot──
容赦なくオレは影山に標準を合わせる。相手は落下中なので、回避ができない。
悪あがきをするように影山は大きな光弾を発射した。
オレはその光弾を紙一重で避ける。光弾がオレの頭の横を過ぎ去った。それと同時に矢を放ち、空中にいる影山に当たり、大きく吹き飛ばした。
攻撃により、影山の落下地点が庭に変更する。オレはスマホで警察と救急車、バイクを呼んだ。飛行形態のバイクに乗って、庭に落下した影山の元に向かった。


「・・・やはり甘いね、君は。」
能力を奪われ、大きなダメージを受けた影山は、身動きが取れずにいた。庭に寝そべり、起き上がることなく、空を見上げながら話し出した。
「あのまま道路に落としておけば、私は死んでいただろう。それを、君は追撃によって落下のダメージを最小限にした。何故そんなことをした?」
「死なせやしねぇよ。あんたは生きて自分の罪を理解して、償う義務があるんだ。」
「罪、か。」
その言葉に反応し、影山は高らかに笑い出した。
「私は罪など犯してはいない。能力によって人を更に進化させる、いずれ誰かが見る夢だ。」
影山は誇らしげに語り出す。その瞳は、空の向こう側の先を見通しているかのようだった。歴史上の科学者も、こんな感じだったのだろうか。
「そして私は、遂にその偉業を成し遂げた! あの薬を開発したことによって! 人は更なる高みに到達する! 人は人を超えるんだ!」
「人が、人を超える?」
なんだ? 何か嫌な予感がする
思考を張り巡らせた。その答えはすぐに出たが、認めたくなかった。
「薬を服用した能力者は、あの禍々しくも美しい獣の姿になる! 知性を残し、身体能力を向上させ、能力が強化された、完璧なビーストに!」
影山は狂気に満ちた声を響かせる。
やめろ、言わないでくれ。
「私はすぐに薬を試したかった! 人類が正しく進化した姿を! 幸いにも・・・」
認められない、認めたくない! その先は言わないでくれ!
「モルモットは、すぐ近くにいたのだから。」
その後で、おやっさんから電話が来るのに、時間はかからなかった──


23:45。
悪ガキの小学生でさえも、外に出ないこの時間に、一体の化け物がいた。
学校のグラウンド。
明らかに人間離れした動きに、石のように硬質化した体。その化け物は、カンガルーを模した体格をしていた。
オレの存在に気付くまで、そいつはこのグラウンドに佇んでいた。何を待っているのか、何を考えているのか。そもそも、そのようなことができる精神が残っているのか。
化け物のほかにあるものは、どこまでも広がっていく漆黒の闇だけだった。ビーストはその闇をじっと見つめていた。
ビーストはオレの気配を感じ取り、振り向いた。その顔は、石でできた仮面のようなものを被って、素顔を隠しているが、漂う悲壮感は隠しきれていなかった。
その姿は、兎に酷似した外見だが、体は石で構成されていた。おそらく、これが奴の言っていた『能力の強化』だろう。
ビーストは、体が石でできているのにも関わらず、素早く跳躍して、オレの頭上まで行き、右手からデカい石を生成した。間一髪で避けたが、オレがいた所に石の柱が出来上がった。ビーストは柱に降り立ち、上からオレを見下ろしている。
──break──
カードをスキャンし、柱に触れる。一瞬で粉々に砕けた。ビーストは反応して飛び降りる。
──fire──
──punch──
──straight flame──
一気に勝負を決める。拳に炎を纏い、ビーストの顔を狙って放つ。が、ビーストはびくともしない。逆に殴った手のほうが痛い。こいつに物理攻撃は効かないようだ。なら・・・
──shot──
さっき影山から奪った能力を発動する。オレの右手に白い光球ができ、右手を突き出すと、その光球からレーザーが発射される。
しかし、その攻撃すらビーストには効かなかった。むしろ・・・
「おわあああああああ!?」
皆さんは反作用を知っているだろうか。前方に力を発射すると、その逆の方向に力が発生する。それが反作用だ。オレはその反作用によって後ろに吹き飛ばされ、グラウンドを転がる。
起き上がったところに、ビーストが石を生成した。石は真っ直ぐオレに突っ込んできて追撃を決める。
そこから先は、防戦一方だった。相手の隙に攻撃を当てても、逆にこっちがダメージを受ける上に、こちらに隙ができるので、返り討ちに遭うだけだった。
ビーストが止めと言わんばかりに、オレに向かって石を突っ込ませる。オレはダメージのせいで意識が朦朧として力がでない。
そのとき、カードデッキが光り輝いた。力を振り絞って避けて、カードと時間を確認する。
0:00。
カードはもう一度使用可能な状態に戻っていた。
カードが使えれば、こいつを倒すことはできるが、一つだけ、問題がある。こいつには、物理攻撃は通用しない。だが、内部からの攻撃ならいけるはずだ。
だが、その場合、二人の命の保証はできない。
・・・けど、やるしかない。
──blizzard──
──break──
──kick──
──crystal break──
オレは手を合わせて、右手を地面につける。すると手をつけた部分を中心として地面が氷に覆われる。そしてビーストが氷の中に閉じ込められた。
オレはいつもの前動作をして、ビーストに向かって走り出す。ビーストがいる氷の柱の中心を目掛けて蹴りを入れた。それと同時にエネルギーを流し込むことで、氷の中にいる奴を氷ごと内部から粉砕する。
氷の柱が粉々になり、ビーストが後ろ向きに倒れた。起き上がろうとしていたが、力尽きて動かなくなった。
──limit──
ビーストにゆっくりとカードをかざして能力を封じる。徐々に怪物の体が人間に戻っていき、仮面の下の素顔を晒した。
霧島耀子だった。
先生は最後の力でオレに顔を向けると、涙を流しながら、無理に笑顔を作り、そして、
粉々に、砕けた。
オレはしばらくの間、先生だった物の残骸を見つめていた。それは例えるなら割れたガラス。先生の体が凍り付いて、エネルギーを流し込まれた結果だ。
それが気まぐれな風に乗って飛んでいく。月明りの下で起きた事を嘲笑うかのように。
深い闇の夜、その静寂を切り裂いて物音がした。残骸の中からだ。
一心不乱に硬質化した血液や内臓の中から動いたものを探し出す。その行為は希望を見出したゆえの行動なのか、狂気に駆られた行動なのか。
中にいたものは、助けを求めたのか、手を伸ばした。その手を握って引っ張り出す。
元気な、赤子だった。
残骸から抜け出した赤ちゃんは泣きだした。息をするためなのに、親を失った悲しみから泣いているようだった。
赤ちゃんを強く抱きしめる。
残骸に背を向け、その場を後にした。
オレは、泣かなかった。
オレのせいでこうなったんだ。オレが泣いちゃいけない。
本当に泣きたいのは、霧島先生と、赤ちゃんだ。
そうだ、オレのせいで、オレのせいで──


「今日から、影山先生と霧島先生は育児休暇です。寂しくなりますね。」
8:25。
代理の先生が二人は育児休暇、という建前で学校に来なくなることを皆に知らせる。本当のことを知っているのは、オレだけだった。
窓から外を見る。曇り空で今にも雨が降りそうだ。
あの後、影山は警察に捕まった。生徒の皆には知らせないようにと、オレが進言した。
あの薬を押収するために警察が家宅捜索したが、完成品はもちろん、試作品や薬のデータまでなかったらしい。・・・恐らく、誰かが先に持って行ったのだ。
赤ちゃんは近くの病院に搬送された。少し時間をおいて様子を見てみると、元気な鳴き声が響いていた。
願うことなら、あの子が両親のようになりませんように。
普通の人間として、生きられますように。
・・・オレみたいに、なりませんように。
その日の帰り道、華音達と適当に別れて一人になり、河川敷にやってきた。
いつもなら夕焼けによって綺麗な景色が出来上がるのだが、今日だけは違った。
オレは先生の能力で石碑のような、墓を作り上げた。何も書かれてなく、きれいにカットされた墓石の下に、石でできたカーペットのような土台。
その土台に花束を添えた。
それは、キンセンカの花束だった。

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