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ゴシカ (Gothica) 作者:2bFYiQ

第 1 章 ―― 現存する悪の純粋和であるような がむしゃらな矢めいた狂犬は, 例えば, 三門公会 (cf. 古代プロパティー - GX 期) が述べざる理由としての レギスタ実線を開封できた影だ

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第 6 部分

一輪の便利さに合ったゆったりした外套は, 6 時が打たれて以来, しばらく 12 時を通過している. ギーゼラは夜に立ちつくしていた. 木々の茂る そして広場内の一区画である山間部の, この深邃しんすいなる夜のすべての雰囲気で, 肺からなにからなにまでを満たしている風であった. しかしながら, その顔はあい変わらず憂鬱に暗く, なにか一々を確かめでもしているかのごとく, 口は硬く意思的に閉じられていた. 張りつめた立ち姿. Aeras の真意を (マルスがのちに非現実アンリアルの空を完成させた, 例えば原生の白く水素のようなる蒼林へ行くには) 十分なところまで汲みとった今, 果たしてそれは必要な緊迫であったのか.

実のところ, 複数広場の山間部に対し, 彼にはもうひとつの背景があった ――「斜檣バウスプリットの嵐」だ. それは, かつてある一夜を襲った記録的な大嵐だ. なにに対してであれ無差別に吹きすさぶ暴風, 横殴りの雨. だとしても, なにかを知っている ―― そう考えるようになった明確さが, どのような不審なシステムを, 契りから E の白い川底に至るまで, 明るく〈全体のスピーチを〉撮影しだしたのか. コンマ数秒の応答速度で, 時代はただちに, この大嵐を "傾斜" に格納しようと試みた. 具体的な描像として,「世界の, 此岸しがんへの ―― こちら側への急勾配な食いこみ」と解したひとびともいた. この暴風雨によって, 警報機の大半が鋭角的に立ちかえったし, ジリコの熱音響でさえ頭打ちになった. M. S. D.. あの大嵐の中で, 自分が自分を管轄している ほかならない当事者であることに思いあたらなかったひとが, 果たしていたであろうか. あらゆるものの, 豪雨が打ちつけてくる危機的な惨状の感覚は, 孤立した, それは, "私はここだ" という内なる告白にまで高まった. 土砂降りの雨中, それは確かにひとつの迸る表白の形を取ったのだ.

斜檣バウスプリットの嵐について, ここではまとまった見解に代えて, 幾つか寸評を載せておくに止めたい:「即席のゴミ収集車がたける. 『今日の棚の幾つが四角形から出ていったのか』」「高架道路の 1 基の橋脚がそびえていた」「この有事にあっては, あらゆる目的語が占有された. 第 1 東半区が黒い原因の帽子を脱ぐことになった」「これら並走する窓は, 私ではなくあなたのものです」このような嵐を, しかしひとびとは「災害」と呼ぼうとはしなかった. それが彼らなりのぎりぎりの表明であった. アルゴリズムでさえ時刻を突きさすようになった実験を, 朝からずっと, この 2 階の手すりから見まもっている. 事実として建物はすべて開けはなされていても, 配膳してもらった料理を目のまえにしていても, 夜の午前中に添えられた紺色の麦藁帽が, 初めて部屋を見てとる (そしてテーブルの上で, 厳かな古さと冷たいシステムとが, 占める面積を最小とするように固まっていたとしたら?). 古来, 災害は他称されてのみ, そこへ入室できたのであろう.

斜檣バウスプリットの嵐に関し書くべきことはまだまだあるが, それはのちの機会にすることとしよう. ここでは, 今この山間部にいるギーゼラに影を落としているであろう,「くさびの森」でのできごとについて述べたいのだから (尤も, こちらも改めて触れる機会があろう).

当時ギーゼラはまだ生徒の身分で, 少年と青年とのはざまといえる年であった. 嵐が襲ったその夜, 彼はほかの生徒らとおなじように, 楔の森への避難を決行した. "制御せよ" ―― 黒板に教師が書きつけた言葉だ. 生徒たちは散り散りに別れ, 荒れくるう暴風雨に対し, 自分ひとりで身を処することを選んだ. 叩きつける雨の矢にしだかれた道が音圧を上げきり, 踵の潰れた靴はいっせいに複数の言語をぶち撒けた. 目を開けていられないほどの豪雨が, まえへ進めないほどの暴風に相乗して襲いくる. 引っきり無しの重低音, 暗いマンホールに殺到してちあって消えていったなにか. なるほど ―― 手を握ろうと思えば, 手を握ることができた. こうした嵐をまえにしては無力すぎる体を, 自分の意思のみによって裁量しなければならなかった. 果たしてこの逃避行は倒錯的であったか. 何時間かかったであろう, どうにか雨風を切りぬけて楔の森に辿りつくと, ギーゼラはその奥へと入っていった. 楔の森は木々が鬱蒼と茂る大森林だ. 常緑樹の幾重にも重なった枝葉が厚い林冠 (葉の集まる森上層) をなし, 日中であっても静謐な暗さを保っている. 密生した木々に こうした葉々の厚い天蓋が暴風雨を防いでくれて, 今は森全体がシェルターとして働いていた.

だから, 楔の森に辿りついたら気を抜いて良い筈なのに, ギーゼラよりも早くに着いていた生徒らの中には, 陣形を組み, 激越的に森へ突入したひとたちもあったそうだ. 彼らは謀叛のために体験を持ちよった. 事物が移ろいの殻を自覚したときに, その時計を止めておいてほしい. ギーゼラはあとで知った話だが, 体験名はハイタリスカ, 対象を斜檣バウスプリットの嵐とし, 逆写像を立ちあげようとした企てであったらしい (現在でも, 探せば殻のかけらが見つかるであろう. そしてときには, 内的に押しころしたような手記に, 気づかなかった振りをしなければならないであろう). すでに計画書は雨に濡れそぼり, 文字は滲んで読めるものではなくなった中, それは絶望的に立案された. こうした事態に例示されているように, ギーゼラを含め 彼ら生徒たちにとっては, 楔の森に入ってからがメインであったのかも知れない. 豪雨や暴風といった ―― 要件定義に供される, 欠くべからざる表象たる ―― 自然的な猛威を切りぬけたあとの, 楔の森での振るまいにおいて, この嵐の荒ぶる雨風は真に問われたのであろう.

では, 当のギーゼラはどうであったのか. 彼が楔の森に来たのは初めてであった. 彼は森を奥へ奥へと進んでいった. なにか目的地や当てがあるわけでもないのに, ためらい無く (ちょうど, 複数広場の山間部を分けいって行っていたときのように) まえへまえへと踏みすすんでいく. だけれど, それは全体として虚ろであった. 嵐を逃れてこの森にやってきたことさえも, もはや意識外にあるようであった. 低木の枝葉が顔に当たったり 走り根に足を取られたりしながらも, いっこう意に介さず, その鬱然として口をつぐんだ顔をまえに上げ 奥へと進んでいくさまは, 実のところ, ある一語を致命的に欠いていた. 頭上では, 暴風でしだかれた枝葉が絶えまなくどよめき, そこをときおり雷音がつんざく. パラパラと落ちてくる雨. ひとときの意味を抱えて自らに耐える語の姿勢に, ギーゼラのそれは似ていたかも知れない. いっぽうで, 自分をもとめて自らの内部をさ迷いつづけているうちに, 逆説的にも, 自分から果てしも無く逸脱していってしまったような, 破綻した雰囲気があった.

彼は空漠たる想念に憑かれていた. 異様な想念であった. それは, 一々が錯誤的に連関しあい, 彼自身にも把握しようが無いほどに巨大化した, 雲煙模糊とした壊滅的な総体であった. ような点に関していえば, ギーゼラの観念系はこの当時の時点で, 大きさや量といった面では (未熟ながらも) ほぼ完成されていた. しかし, 入り口から 4 番目の渇きが自覚していたように ―― いわく, "この送料は構造にしかあたうまい, 加圧せよ. 恐れはじめたコンクリートを解釈したい" ――, 彼もまた自覚していた. 端的には例えば, 彼には自分の部屋の意味が分からなかった. 行き場の無い過剰量. 当時の彼は, 自分という枠を超えて溢れつづける外因に ……, そうして醸成された巨大な暗がりに, 圧迫的に押しうごかされているも同然であった. つまり, 自分の膨大な暗黒量を持ちあぐねていた. 虚ろな印象はそこに発するに違い無かった.

針葉樹が鬱蒼と生いたつ森を, そのような空虚さをいてギーゼラは進んでいた. すると, 不意に視界が開けた. 木々の生えていない, ぽっかりと空いたはらに出たのであった. かつてシナイゼという人物が, たったひとりで開けた連続住宅の扉 ……. たちまち, 物質的な立体は引き波のごとく薄れていった. 原の中央には, 石造建築物の廃墟があった. 荒廃し崩壊が著しいが, その形状は祭壇を思わせたし, 周りには, 象形文字の刻まれたいしぶみらしき石柱が折りかさなって倒れているから, なにか原史の遺跡に違い無かった. 遺跡が中心する原っぱの空間全体が, 空から降りおちる青い静かな光で満たされている. そしてなによりも, 祭壇の頂上に, ひとりの少年 ―― ギーゼラよりも 1, 2 歳年下に見える ―― が夜を見あげて立っていた. 果たして嵐の暴風雨は, 事物にまとわりついていた夾雑きょうざつを力強く洗いながしたのか. 私たちにとっての夜も, 硬質な手触りでいてすぐに割れてしまいそうで, その底を揺らぐ隔てがすべての世界をかたどるものだし, 不思議な青い光を身に浴びるように受けながら, 今ここに最近接している夜を, 知念をなげうつように仰ぎみているその少年の姿は, なにか契約を交わさんとして見えた. ギーゼラはまったく偶然に, そうした厳粛なる契りの場に立ちあってしまった.

"〈嵐〉が明けるとき, すべては命名されてるであろう"

少年の, 情動的になお毅然とした契約の神秘な光景が, それを原のふちから眺めていたギーゼラを, 体の芯から衝撃した. 鮮烈ないかずちが一瞬あかあかと全景を照らしだすのに似ていた. 彼は, 自分の使命をありありと体感的に悟った. その数瞬あとに, 次いで言語化された意識的な理解が追いついた.

(―― 答えだ)

嵐の中を冷えわたる, 確かに確信的な囁き. ばらばらに好きな方向を私意していた暗黒が, 結託し その総力を上げて潰れこむべきところを, ついに見つけた瞬間であった. 彼の暗黒を真に空虚たらしめていた欠落に, 分かってしまえば それ以外にはありえない一意的な神託に思われるほど, その一語 ―― 答え ―― は完璧に嵌まりこんだ.〈決まって灰色の気まぐれで会社員たちは会い,「身長, 身長」と騒ぎたてて, ぶらさがった新工場の盗用に失敗して墜ちていく感覚を, いつも深くで共有するふたりだ〉ギーゼラを霊的に震撼させた少年が閃かせるところの斜立しゃりつは, 聾するごとく畳みかけてくるこの嵐の傾斜の, 最も純一な判例であったのかも知れない. そういうものに人間が耐えうることを, 彼は初めて知る思いがした. 少年のほうは彼に気づいていなかったが, 暗く破綻した巨大な観念連合をバックに控えもつギーゼラだからであろう, 遠目からにも関わらず彼は, その少年が, 夜よりもさらに深くきらめくような底抜けの漆黒に根ざしていることを, ひと目のうちに見てとっていた. ともかく, 雷撃的に到来した「答え」は, ギーゼラをざわざわと伝播していった. わけの分からない重量級電算機がブウウ ―― ンと低く唸ったかと思うと, その前面の赤い非常ランプが初めてともった. あらゆる機構が今や熾烈な黙示に突きうごかされ, ひとつの出口目がけて殺到する予感に, 彼はわななきどうしようも無く立ちつくす.

しかし, そのせいで掛けがえの無い機会を逸してしまったのかも知れない. 未だ衝撃を嚥下しきれず半ば放心しつつも, 勇気を出して少年に問おうと決心したときには, 雨でしおんだ清光が降りそそぐ祭壇の頂上に, もうその少年の姿は無かったのだ. 夢心地の消失劇であった. 初めから終わりまで単独の神秘であったといえた. 少年の消失に気づき はっとするかしないかのうちに被さってきた, 激しい横殴りの豪雨や〈市場価格をいうために来た裁判官が, 先月オルソーのほうで子音を手に入れた部屋で, 24 時間よりも珍しい不満をいうべき部屋を回りはじめたので, 翌日の新聞では「Bô wa SHI SA ni ytt at」などの無意味な文字列が踊ることになった〉Vo, Vo, Vo を両腕で防ぎながらも, ギーゼラのその闇をたたえた暗渠のごとき瞳には, 今までとは決定的に異なる蠢動が, 確かに宿っていた.
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