11話:脱出劇
白い世界が広がる……。
しかし、荒ぶる竜の砲哮だけは響いていた。
そして、光に溶けた世界が、再び元通りに復元する……。
すなわち命がけの勝負が始まる瞬間だ。
まず、目の前……一番どうにかしたい桜色の亜種。
こいつの動きさえ止まれば、出口まで突っ走るだけ。
後ろの二匹は警戒しなければならないが、とにかく生存するためにはこいつが問題だ。
(行ける……!!)
しかし、俺は確信的にそう思った。
なぜなら、閃光玉を投げるタイミングはこの桜色をしたレイアの動きに合わせたものだからだ。
他の二匹はどうなったかは知らないがこいつの動きだけは止めたという自信があった。
案の定、桜色をしたレイアは見当違いの方向を向いて、砲哮をあげながら暴れている。
「よし!! 行けるぞ、アレン!!」
俺は出口めがけて一目散に駆け出した。
後ろの二匹は閃光玉の影響下にあろうが、なかろうが関係ない。
「リオウ!!」
しかし突然、すぐ後ろからアレンの警告の意を感じさせる声が響いた。
何だと思い、俺は走りるスピードを落とし、半身を捻りながら顔を後方へと向ける。
「な……ッ!?」
目の前まで迫ってきている緑の火竜……。
一番始めに動き出した一匹、それが俺に狙いを定めていたのだ。
逃げ切れると思ったが、その見解は甘かった。
しかし、そのことを後悔したところで、時間が戻るわけでもない。
俺はリオレイアに背中を向けたまま、その巨体の突進をもろに受けた……。
背骨が軋む嫌な音が響く……、いや、痛みがはしったのが先だったか……、衝撃で呼吸ができなくなったのが先だったかもしれない。
わけも分からないまま、天地が二度、三度逆転した……。
が、しかし、なにも飛竜の突進をくらうのはこれが初めてではない。
たった4年……、たった4年のハンター人生だが、その4年の中でも何度かあったことだ。
(頑張れ……、俺!!)
俺は歯を食いしばって意識を繋ぐ。
固い地面の何とも言えない嫌な感触はすぐにやってきた。
強打した背骨にまで響く衝撃が体を貫く。
うつ伏せに落ちたため、今度はあばら骨の辺りがキツかった。
まさに痛みのサンドイッチ状態……、なんてバカなことを考えられるということは大丈夫ということだろう。
「俺としたことが……、迂濶だったぜ。」
俺はすぐさま痛みを押さえつけて立ち上がる。
『嫌なことは長く感じる』とはよく言ったものだ。
地面に叩きつけられるまでずいぶん長く感じたが、実際に起こったことはほぼ一瞬だ。
その証拠に辺りの空間での動きというものはほとんど変わりなかった。
起き上がった俺を心配と安堵の混ざった表情で見ているアレン。
突進の勢いで体勢を崩し、地面に倒れこむリオレイア。
相変わらず明後日の方向に向かって砲哮を上げる桜色のリオレイア亜種。
しかし、残り一匹のリオレイアがここで動きを見せていた。
体勢を低く落としたそのレイアの口から吐き出される、灼熱の火球……。
その狙いは正確……、閃光玉の影響を受けていないことがこれでハッキリと分かる。
その射線上にいた俺は、地面を前転するように転がり、その燃え盛る炎の塊をかわす。
(閃光玉の当たりは3分の1かよ……!? マジで最低限度とはついてないぜ!!)
俺は自分のツキのなさを嘆くが、どんな状況でも決して諦めないのがハンターだ。
「アレン!!」
俺はアレンの名前を呼ぶ。
「何だよ!?」
「出口に向かって走れ!! 俺がオトリになる!!」
二匹のリオレイアの攻撃を避けながら、さらに、混乱しているとはいえ凶暴な亜種の脇を潜り抜けて出口まで行くのは困難だ。
そこで俺が考えついたのは、オトリを使うことだった。
「何言ってやがるんだ!? そんなこと許せるわけないだろ!!」
アレンは怒った時のような剣幕と口調で俺の考えを否定した。
しかし、俺も引き下がらない。
「とにかく行ってくれ、アレン!! 俺は大丈夫だから!!」
「大丈夫なわけないだろ!!」
俺はアレンがかたくなに反対するので、今度は諭すようにアレンに言う。
「俺は脚には自信があるって言っただろ? だから大丈夫だ。お前が逃げのびたら俺も逃げるからさ……。」
すると、あくまでも譲らない俺の意思にアレンは一瞬、困ったような表情を見せた後、諦めたのかため息を一つ吐いて言った。
「分かった……。絶対に生き延びてくれよ!!」
そして、アレンは駆け出す。
出口に向けて、可能な限りのスピードで……。
「後でまた会おうぜ!!」
そして、俺もすぐさまアレンと正反対の方向へと駆け出し、リオレイア達の注意を引き付けるべく、その中央へと踊り出た。
それに対して、問題となる閃光玉の影響を受けていない二匹のリオレイアはそれぞれに動いていた。
その片方……先ほど俺を跳ね飛ばした方は、再び大地を踏み鳴らし、土ぼこりを巻き上げながら突進してくる。
もう一方……俺の進行方向で待ち構える方もまた、砲哮をあげ、強靭な脚で駆け出してきた。
どちらも俺の挑発的な立ち位置に誘発されたのか、その狙いは俺へと向いている。
俺を挟み撃ちにするつもりだろう。
(単純な奴らだ……!!)
しかし、俺は迫りくる二匹のリオレイアを限界まで引き付け、そして、可能な限りの力で跳躍した。
上にではない、身を投げ出す様に横に跳んだのだ。
跳び退いた俺の背後スレスレを、猛進するリオレイアが掠めていく……。
俺は際どいタイミングだったが、二匹のリオレイアの挟撃から抜け出ることに成功した。
「がはっ……!!」
その代わり、不自然な姿勢のまま、腹から地面に着地……もとい激突したため、先ほど痛めた肋骨と背骨にかなり響いた。
たまらず苦しみのうめき声が漏れる。
しかし、それと同時に何かが激しくぶつかった、凄まじい衝突音が聞こえた。
何が起こったかは見ずとも分かる。
俺を挟み撃ちにしようと突進してきていたリオレイア同士が、愚かしくも頭から正面衝突したのだ……。
二つの巨体は絡み合うようにしながら転倒し、短い鳴き声を何度も響かせている。
立ち上がろうともがいてはいるが、お互いの無駄に大きな身体が邪魔で、なかなかうまくはいっていないようだ。
俺はアレンの走り去った方にチラリと視線をやる。
(うまく逃げたか……。)
そこにアレンの姿はなく、桜色の亜種が唸り声にも似た鳴き声を出しているだけだった。
(今のうちに俺も……!!)
そう思い、俺はもつれ合う二匹のレイアを飛び越え、出口へと走り出す。
しかし、ここで思いもよらぬ事態が起こった……。
桜色の亜種が視界を失ったまま、俺とは正反対の方向に向けて猛烈な勢いで走りだしたのだ。
それ行動自体は狙いも見当違いなうえに、全く問題ではない。
が、その突進の方向には問題があった……。
次の瞬間に激突音と、破砕音、そして何かが崩れ落ちる音が洞窟中に響き渡り、俺もその事態に気がついた。
「なっ……!? 出口が……!!」
崩れた……。
実は岩で覆われた壁は外に向かって開いた穴から吹き込んでくる風や、滝壺から生じる湿気で風化が進んでおり、それがレイアの突進によって一気に崩壊を起こしたのだ。
桜色の亜種はその下敷きになり、しばらく苦しみの砲哮を響かせていたが、遂には動かなくなる。
しかし、その代わりに出口は崩れた無数の岩で塞がれてしまった……。
俺は想定外の事態に驚きの声すら出すことができず、ただ見開た目で崩れた岩壁を見つめるしかなかった……。
これで逃げ道を失った……。
しかし、背後のリオレイア二匹は今ゆっくりと立ち上がり、並び立っている。
「マズイな……。」
冷や汗が頬をつたうのが分かった。
まさに袋の中の鼠といった状況……。
しかし、俺は二匹のレイアの背後に、とあるものを見つけた。
「あ……あれは……?」
向こう、反対側の壁に開いた穴……。
俺達が来た道から、さらに先へと進むことができる入口だ。
気づけば、俺は無言で駆け出していた。
(一か八かの賭けだ!! 先へ進んでみるか!!)
脱出口が塞がれてしまった今、単純な考えではあるが、それしかないと俺は考えたのだ。
その先に何があるかは分からない。
行き止まりかもしれないし、ひょっとすると抜け道になっているかもしれない。
少なくとも今のこの状況よりはマシにはなるだろう。
しかし、立ちはだかるのは二匹のリオレイアだ。
どちらも口から火をこぼし、怒りを露にしている。
「止めてみやがれ!! 俺は絶対に逃げ延びてやる!!」
俺はそんなことおかまいなしに一度鞘にしまった天下無双刀を再び抜き放ち、立ちはだかる強敵へと挑んだ……。
《続く》
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