閑話:病室を出た後
2人が病室を出た後ーーーーーー
私は明里と病院を歩いていた。
あの男が怖くてひよこをおいて帰ってしまったけれど大丈夫かしら?
「比奈大丈夫かな?」
明里も私と同じことを考えていたらしい。
「ひよこなら大丈夫よ。あの男がひよこをいじめることなんてしないわ、きっと」
「そうだといいけどね」
さっきまで心配していた私の口から出てきた言葉は大丈夫だという確信のことばだった。
自分でなぜこの言葉がでてきたのか不思議でしょうがない。
なんとなく沈黙が続いてしまう。
今日はいろいろなことがあったせいで私も明里も疲れていた。
明里が口を開く。
「比奈、私たちのこと忘れちゃったんだね」
それを聞いて心が痛くなってきた。
けれどひよこがなぜ忘れてしまったのかなんとなく察しはついている。それは明里も同じだと思う。
「しょうがないよ。ひよこが忘れてしまったことも。…あの日のことは私だって忘れてしまいたくなる」
そう、あのことと関係ない私ですらその記憶をなくしてしまいたいと思うほどだった。
それに関わっていたひよこは私以上に強く願ったと思う。
「…たしかに比奈は辛い思いをしたと思う。けれど私たちまで忘れちゃうなんて!!」
あかりの目にうっすらと涙がでてきた。
私だってかなりショックだった。これでもずっと仲良くしてきたし、そうとう長いつきあいだ。私も、明里も……あの男だって。
ひよこは誰にも頼らなかった。こんなにも長いつきあいをしている親友にも、彼氏にも。
1人で重荷を抱えてこっちには悟らせないでそれでいて耐えかねて記憶を忘れる。
私たちとも関係がなくなってしまったというように。
いつの間にか歩いていた足が止まっていた。
急に明里が顔を上げた。
「私絶対に比奈が記憶を取り戻すまで嫌だと言ってもくっつきまわってやるんだから!」
耳がキーンとなった。声がかなり大きい。もう少し声を抑えろ。
けれどそれをきいて私も決意した。
私も一緒になってくっつきまわってやる、って。
「なに言っているのよ明里。記憶を取り戻すまでじゃなくてその後も、でしょ?」
私は微笑んだ。
それをみて明里もだんだんと笑顔になっていく。
「よっしゃー!それじゃこれから病室にでも戻る?」
もうすっかりと元気を取り戻したみたいだ。この笑顔を見ていると私まで笑顔になってくる。
けれども明里は一つ忘れていたみたいだった。
「あの男がいるけど、明里はもどるの?」
とたんに明里が凍り付いてしまった。
元気になってこれからすることが決まったのはいいけれど、私はあの男がいると分かっているところに飛び込んでいきたくないわ。
計画は今日これから立てて、明日ひよこの病室にいくことにしましょうか。
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