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君へ「ありがとう」 作者:要徹
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五 怪物黒田


     五 

 特訓の開始から一週間と少しが経過した。鹿島の筋肉痛は黒田の治療の甲斐もあって、三日で完治した。今ではいくら飛び跳ねても、全力で駆けても痛みはない。筋肉痛が完治してからというもの、鹿島は今までの分を取り戻すかのように特訓に励んだ。
 二人が河原でランニングをしていると、ぱらぱらと雨が降り始めた。大粒な雨ではなく、霧のような雨、霧雨だった。細かい水が体に付着して、とても気持ちが悪い。持参していたタオルも、すっかり湿気を吸ってしまって使い物にならない。

「降ってきたね」
 灰色一色に染められた空を見上げ、藤堂が言う。それにつられて鹿島も空を見上げる。霧雨が目の中に入った。鹿島は目を(しばた)いた。
「本当だな。でもこれくらいの雨ならなんてことないさ」
 鹿島は体育で使う帽子を被った。せめてもの雨よけだ。

 二人は雨などものともせずに走り続けた。
 河原はまだ夕方だというのに薄暗く、俗な言い方をすれば『何か出そうな雰囲気』であった。いつもこのくらいの時間に犬の散歩に来る女性も、ランニングをしている中年の男性も、今日は見当たらない。河原には、まぎれもなく鹿島と藤堂の二人しか存在していなかった。まるで河原だけが異世界に飛ばされてしまったかのような錯覚を受ける。

「よし、次は一〇〇メートルダッシュだよ」
「来い!」
 藤堂の言葉に返事する鹿島は、一週間前の鹿島とは思えないほどの生気に満ちていた。少なくとも、以前よりかは走ることが出来るようになっていたし、着実に体力も増していた。もちろん、この力の源泉は『勝ちたい』という意志だ。

 藤堂がゴール地点に立ち、ストップウォッチを構える。そして、右手が大きく振り降ろされた。これがスタートの合図だ。
 その合図と同時に、鹿島は駆けた。雨にぬれて路面が滑りやすくなっているが、鹿島は転ばなかった。霧雨を切り裂き、鹿島がゴール地点を全力で目指す。両腕と両脚が汽車のパドルのように素早く動く。ゴールに引かれた白いラインはもうすぐそこだ。鹿島の胸がラインを超す。

「十七秒! 凄いよ鹿島君。前はずっとギリギリ十九秒だったのに。特訓の成果が出ているみたいだね」

 鹿島は息を切らしていない。着実に進歩している。
「まだ一本目だろ? それに十七秒じゃあいつらには勝てないよ。せめて後一秒は短縮しないと。僕は人一倍頑張って人並みなんだ。次行くぞ! 次!」
 スタート地点まで足早に戻った鹿島は、左手を上げて準備完了の合図を出した。藤堂もそれに応え、右手を振り下ろした。ストップウォッチが時を刻み始める。
 また鹿島が霧雨を切り裂いて駆ける。不思議と体が思うように動く。鉛のように重かった体では、もうない。
「十七・七秒! ちょっと遅くなってるよ。まだまだ頑張って!」
「当たり前だ!」
 その後、鹿島は三本、一〇〇メートルを全力で走った。そう、丁度五本で収まったのだ。ペナルティは一本もない。

「はぁ……どうだ! やったぞ」
 大きく体を上下させて、肩で息をする。
「やったね! 初めてじゃないか。五本全部二十秒を切るなんて」
 緊張の糸が切れた鹿島は、濡れることも気にせずにその場に崩れ落ちた。達成感が彼の体を満たしていく。
「やっぱり無駄じゃない。無駄じゃないんだ!」
 思わず鹿島は歓喜の叫びを上げた。自分の成果を噛みしめた。

「鹿島君。次は僕の番だよ。はい、ストップウォッチ」
「うん。分かった。しっかり五本で収まるように頑張れよ」
 藤堂は軽く頷いて、スタート地点へと歩を進めた。スタート地点へ向かう彼の背は大きく、学校内での気弱そうな雰囲気は微塵も感じられない。それほどまでに運動会に燃やす闘志が大きいのだ。
 スタート地点へ辿りついた藤堂が振り返った。霧雨と遠目でよく見えないが、藤堂の目が鋭く変化していた。表情も、無表情ではない。なんとも形容しがたい、凛々しい顔だ。

 藤堂が左手を上げる。鹿島が右手を振り下ろす。ストップウォッチが平等に時を刻み始める。デジタル数字が、見る見るうちに『1』『2』『3』……と変化していく。

 ストップウォッチから目を離し、藤堂の方へ向ける。両腕、両足を素早く動かし、前傾姿勢で駆けていた。学校での練習ではまったく見られない姿勢だ。そして、ゴール地点へと辿りつく。それと同時にストップウォッチの『STOP』ボタンを押す。小さな画面を覗き込むと、『十六・八』と記されていた。

「すごい! 本当にすごいぞ!」

 鹿島は自分のことのように喜んだ。藤堂はまだその喜びのわけを知らない。藤堂が鹿島の持つストップウォッチを横から覗き込むと、同じように喜んだ。
「信じられない! 十七秒を切った! 少し前までは二十秒近かったのに……」
 特訓の成果は、藤堂にも公平に現れていた。努力は、みんなに公平な成果を与えてくれる。決して裏切らない。

 雨が二人を祝福するかのように降り注ぐ。汗が洗い流されて、少しだけ清々しい気持ちなる。二人は、しばらく各々の成果に酔いしれ、自分の世界に陶酔した。

 二人がぼんやりしていると、雨が大粒のものに変化し始めた。体に当たると少々痛い。熱い二人の体を、雨が急激に冷却していく。雨に打たれていると、二人は自分の世界から脱出し、雨宿りが出来る場所を探した。藤堂はランドセルを背負って狼狽している。
「どうしよう! この雨はやばいよ。どこか濡れない場所は……」
 鹿島は雨に塞がれた視界を必死で広げようとした。そして、川にかかる大きな橋を小さく発見した。あの下ならば濡れることはない。

 二人は全力で走った。恐らく、さっきのタイムよりも早い。その橋に辿りつくまで、二分というところか。距離にすれば五〇〇メートルか六〇〇メートル程度。
 大粒の雨が二人の体を打つ。走るスピードも相まって、雨が体に衝突する衝撃も相当なものだ。ばちばちという雨が弾ける音が耳元で鳴る。

「ああー……もうびしょ濡れだ」
 ようやく橋の下へと到着した。そこは薄暗く、すぐそこの暗がりから世にも恐ろしい怪物が飛び出してきそうだ。
 鹿島はTシャツを絞り、水気を切った。藤堂は無言でその場にへたり込んでいる。
「おおい、大丈夫か?」

 藤堂に近寄り、手を差し伸べようとした瞬間、ぴかっと遠くの空で何かが光った。それに一瞬鹿島は動きを止めた。そして間もなく、暗雲を裂く閃光と轟音が周囲に満ちる。

「わあああああ!」

 へたり込んでいた藤堂が跳ね上がる。鹿島が始めて見る、藤堂の恐れる顔だ。少しだけ嬉しい。
「ただの雷だろ?」
「それでも怖いものは怖いんだよ」
「怖がりだなあ」
 怖がる藤堂に構うことなく雷は鳴る。何度も光る。その度に藤堂の身が震える。腕にはランドセルを抱きかかえている。

 その姿を見た鹿島は、何かを忘れている気がしていた。こめかみに指を当て、考え込む。

 ――さっきから、やけに体が軽い……。軽い?

 そうだ、ランドセルだ。教科書など、学校生活には欠かせない道具が入ったあの黒いランドセルだ。突然の雨をかわすことだけを考えていたために、持ってくるのを忘れてしまっていた。ランドセルは今も五〇〇メートルほど離れたベンチの上だ。雨が強まって、さっきまで見えていたベンチはもう見えない。

 鹿島は思わず地団駄を踏んだ。それに気付いた藤堂が言う。

「どうしたの?」
「……ランドセル忘れた」
「え?」
 鹿島の言うことを信じられない、というような顔で藤堂は見つめた。呆れていると言ってもいい。
「取りに行かないとまずいんじゃ」
「そうだよ。取りに行かなきゃまずいよ。あぁーもう! どうにでもなれ!」
 鹿島はまた元来た道を戻る。藤堂はぼうっとした顔つきで鹿島の背中を目で追っていた。

 走る。走る。走る。これが運動会本番であればいいのに、と鹿島は何度も頭の中で反芻した。

 きっと今の百メートルのタイムは十七秒を切っているに違いない、と思えるほどに全力疾走する。

 間もなく、ベンチに辿りつく。木で出来たボロ椅子の上で、表面に水の波紋を広げながら置かれていた。鹿島はそれを素早く手に取り背負う。ずっしりとした重みが両肩にかかる。おそらく、教科書に水が吸い込まれ、さらに重量を増しているのだろう。

 早く藤堂の所へ帰ろう。そう思った時。

 何やら生ぬるい風が吹く。

 気味が悪い。

 閃光が空間を貫く。

 鹿島は恐る恐る後ろを振り返る。

 何もいないでくれ、そう願う。


 後ろを振り返ると、怪物がこちらを睨みつけていた。

 鋭い目に、長い髪。

 髪は雨に濡れて顔に張り付いている。

 怪物は大きな手を鹿島の方へ伸ばし、肩を掴んだ。

 鹿島は怪物の手を払いのけ、叫びをあげて走り出した。

「助けて! 怪物だ!」

「待て……」
 怪物が鹿島を呼ぶ。立ち止まるはずがない。いや、立ち止まれるはずがない。後ろには人を殺しそうな顔つきの怪物がいるのだ。この状況で立ち止まることは死を意味する。

 ――殺される! 殺される!

 鹿島は走る。今までに体験したことのないスピードで。死の恐怖はドーピング剤だ。検査にも引っかからず、それでいて凄い効力を発揮する。生物の本能はすばらしい。

 ――なんで俺が襲われなくちゃならないんだ!
 鹿島は意味が分からなかった。が、その意味を考えている余裕は一切ない。心を無に帰し、走ることだけに専念する。橋はもうすぐだ。早く藤堂に知らせて逃げないと――二人とも殺される――

 橋に辿りつき、危機を告げる。
「藤堂! 早く逃げるぞ、怪物だ!」
「え? 鹿島君、何言って……」
「もうそこまで来てる! あ…………」

 鹿島が振り返ると、すぐ後ろに怪物の姿があった。また大きな手を伸ばし、鹿島を掴もうとする。怪物の姿はさっきよりもひどく、醜くなっていた。
 もうここまでか。鹿島は声を無くし、怪物を目を見開いて眺めた。必死に見開いた目から涙が落ちる。終わりだ。

 そして、怪物の魔手が鹿島にかかる。


「おい、鹿島。誰が怪物だって?」
 その声には聞きおぼえがあった。しかし、脳がマヒして思考が出来ない。脳は恐怖で硬直している。
「あれ? 黒田先生じゃないですか?」
 黒田先生じゃないですか? 藤堂のその一言が、鹿島の脳の硬直を解いた。
「エッ? 黒田先生……?」
「俺以外に誰がいる?」
 怪物は顔に張り付いた髪を後ろに撫でつけ、深いため息をついた。
「あ、ああ……」
 鹿島を縛りつけていた緊張の糸がぷつりと切れ、そのまま冷たいコンクリートの上へと寝ころんだ。
 ひんやりとした感触が心を落ち着ける。
「まったく。川原にお前らを見つけたと思ったら走り出して、ランドセルを見つけたと思ったらまた走りだして。挙句の果てには俺を怪物扱いか?」

 黒田がワイシャツの水気を絞る。ぽたぽたと吸収されていた水がコンクリートへ落ちる。小さな水玉模様がコンクリート上に広がっていく。その模様が、不思議と何かの顔に見える。
「藤堂君は俺と二度しか会っていないのに気付いてくれたんだぞ? それなのにお前は何なんだ。去年から事あるごとに保健室に顔を出しておいて、未だに俺の顔が覚えられてないか」

 黒田は鹿島の頭を脇の下にはさみ、頭のてっぺんを拳でこすった。ごりごりとした拳が少し痛い。鹿島は手で黒田の背中を二度叩いた。降参の合図だ。鹿島は解放される。

「ところで、黒田先生は何でこんな所にいるんですか?」
「そうだよ。何でこんな所に。俺たちが特訓してるってこと、言ってないだろ?」
 二人で黒田の方へ詰め寄る。藤堂は純粋な気持ちで質問していたが、鹿島は何とかして脅かした仕返しをしてやろうと企んでいた。が、その企みは永久に実現することはない。
「俺は帰りにこの川の堤防を通るんだ。これで満足か?」
黒田はにやりと不敵な笑みを浮かべて話を続ける。
「それに……特訓していたのか。まあ、前から見ていたし、薄々気付いてはいたがな。お前は筋肉痛で俺の治療を受けた。お前がこれ程真剣に運動に打ち込むには理由がある。まあ、運動会しかないがな。絶対に勝ちたい。去年の恨みを晴らしてやる。これだけだ。違うか?」
 特訓の理由まで言い当てられた鹿島は頬膨らませてそっぽを向いた。藤堂だけはまっすぐに黒田を見ている。黒田はしてやったりという風な顔をしている。何とも大人げない。

「せっかくお前らの為に差し入れを持ってきてやったというのに。怪物扱いされるんじゃ、やめだな」

 黒田が背中に回していたショルダーバッグを前に回して、手をかける。ショルダーバッグには何やら筒状のものが入っているらしい。黒田の表情は優しいものに変化している。
「なになに? いいもの?」
 興味津々にショルダーバッグへと目をやる。
「お前らの態度次第で良いものに変わる」
「怪物だなんて言ってごめんなさい」
「よし」

 黒田はショルダーバッグのフタを開き、二本の飲料水が入った瓶を取り出して、二人に手渡した。冷たい瓶が火照った体を冷やす。

「これって、サイダー?」

 鹿島の言うとおり、黒田が手渡したものはサイダーだった。当時の子供たちが清涼飲料水を飲むなど、滅多になかった。飲めて麦茶だ。それに、炭酸を飲むと骨が溶けるんだ、と根拠のないことを言われて買ってもらえなかった。買ってもらえたとしても、月に一回がせいぜいだった。鹿島にとって、サイダーは憧れだった。その憧れが今、目の前に存在するのだ。小さな気泡が瓶の中で楽しそうに踊っている。見ているだけで幸せになる。

「黒田先生。ありがとうございます!」

 二人揃って礼を言う。黒田は思い出したかのように栓抜きをショルダーバッグから取り出し、鹿島に手渡した。鹿島は嬉しそうに栓抜きで瓶のフタを抜いた。すると、勢いよく中身が飛び出し、泡と共にコンクリートへと流れた。これで少しだけではあるが飲むことの出来る量が減った。

「ああ、もったいない。藤堂、もう少し置いてからフタ開けた方がいいぞ」
 藤堂はくすくすと笑い、サイダーをコンクリートの地面へと置いた。瓶が置かれるとき、澄んだ音がした。鹿島はこぼれそうになるサイダーを喉へと流し込む。清涼な感覚が彼の喉をうるおしていく。
「黒田先生」
「ん? 何だ」
 藤堂はおずおずと、小さく口を開いた。
「以前、保健室で治療を受けた時にも気になっていたんですけど、鹿島君、去年に何かあったんですか?」
「ああ。こいつは去年の運動会で――」

「やめてくれよ!」

 サイダーの瓶から口を離し、雨を裂くような大声で言う。

「鹿島君。僕は君のことが知りたい。運動会で何か失敗したのなら、それを教えてよ。僕に何か出来るかもしれない」
 鹿島は明後日の方を向き、もうどうにでもなれ、といった風な態度をしている。黙ってサイダーを少しずつ飲む。黒田はその姿を見て少し迷ったが、話を続けることにした。

「こいつは、去年も今と同じように特訓をしたことがある。運動会が開催される二ヶ月前からな。いつまでも運動の出来ない馬鹿でいるのは嫌だって。こいつは、過去四年間いつも運動会で活躍できずじまいだ。毎回毎回失敗の連続。誰にも勝てないなんて当たり前。そんな自分に終止符を打ちたい、ってな」

「そうだったんですか……。でも、じゃあ何で今年は自分から特訓しなかったんですか? 仮に少しでも運動をしていたのなら、あんなにひどい筋肉痛には見舞われなかったと思います」

「去年の失敗はひどかった。もう努力なんかしない、って思えるほどに。だから練習をしたくなかったんだろう」

「何があったんですか?」
 藤堂は栓抜きでサイダーのフタを外し、少しだけ飲む。相変わらず鹿島は明後日の方向を向いている。黒田は気にせずに話す。

「負けたんだよ。こっぴどくな。こいつは去年もクラス対抗リレーに出場していた。その時はアンカーだったかな。第三走者までは順調に順位を上げていって、後は逃げ切るだけという状況だった。だが、こいつは負けた。もう勝てる、そう確信した瞬間に負けたんだ」
 黒田は短く生えた髭を撫でる。そして、鹿島の方をちらりと見ると、こちらを向いて、膨れていた。
「なんで……」
「ゴール前での大転倒だ。真っ白な勝利のロープを切る。その直前だ。こいつは何につまずいたのかは知らないが、顔から地面に衝突した。相当痛かっただろうな。けれども、自分がどれだけ痛がっていても時間は止まらない。その間に他の走者がどんどんゴールしていく。自分が切るであろう勝利のロープは他人に切られた。その後のこいつはクラス内で、それはひどく責められたそうだ。そうだったな? 鹿島」

 そうです、と小さくつぶやく。
「そんなことがあったんですか」
「ああ。俺と鹿島が初めて話したのも、その時だった。赤ん坊みたいに泣いていたよ。そりゃあ泣きたくなるだろうな。精いっぱい努力して、それが報われないんだから。それどころか、運動の出来ないやつ、というレッテルを剥がすことすら出来なかった」

 報われない努力というものはただの徒労だ。それを鹿島は小学五年生という幼い頃に味わわされていた。幼い頃に負わされた傷はなかなか消えない。それどころか、時として深さを増すこともある。もう努力なんてしない、そう思うのも当然のことであろう。

「努力なんてしない。俺はそう決めてた。今年も思いっきり負けてやろう、なんて考えてた。多分、藤堂が特訓に誘ってくれなかったら、あの時の悔しさを思い出すことはなかったと思う。俺はずっと負け犬だったと思う」
 鹿島は頭をぽりぽりとかく。照れ隠しだ。

「そうだったんだ」
 藤堂はサイダーの残りを一気に飲み干す。そして立ち上がり、鹿島の方へと歩み寄る。肩を持ち、囁く。
「なら、尚更負けるわけにはいかないね! これからも頑張ろうよ! 後三週間もあるんだからさ」
 鹿島は思わず涙を流した。一時とは言え、藤堂のことを見下していた自分を恥じた。そして、顔を上げて元気よく藤堂の言葉に応える。

「当たり前だ!」

 雨はすっかりあがり、恐ろしいほど真っ赤に染まった空が雲間から顔を出し始めた。夕日の光が二人を照らす。その光は二人の燃え上がる闘志のようにも見える。

 黒田は黙って二人を笑顔で見つめていた。
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