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生贄少女と彼女の転生騎士 作者:遠出八千代

第二章 精霊王編

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第12話


 スノードとベルは裏道を通り、宿舎に戻ろうとしていた。
 裏道なら人通りも少なく、ベルをことをバレにくいと思ったからだ。今、彼女の角を誰かに見られたら一大事どころの話ではない。二人は道を進み、何人かの人間とすれ違ったが、その度にスノードがベルの前に出て見られないようにした。時刻は正午、結局、スノードの懸念はずれ、すんなりと宿屋の近くまで付いた。

「ね、また来れるかな」
「絶対に行こう。次着た時は魔族と人間が仲良くなってたらいいのにな」
「きっとそうなるよ…」
「うん…」

 二人がそんな会話をして歩いていると、宿の近くは人通りが増えていた。どうもおかしい。宿屋といっても町はずれにあり、ここまでくれば、そこまで人はいないはずなのだが…人が来るたびにスノードは彼女を庇うのだが、あまりに大勢いるため、一旦二人はつまれた木箱の後ろに隠れた。ベルを連れて、人ごみには出られないし、そこからなら目の前の人間が多い理由が分かるだろうと考えていた。

 ――だが、そんな思考は、すぐ間違っていたことをスノードは痛感する。宿の前には、大勢の民衆にまぎれて、何人かの兵が宿舎の周りを囲んでいたからだ。彼らは手に槍をもち、連携を取り合っている。ある兵は入り口や裏口を囲み、まるで獲物を捕まえるための行動だった。

(クラウたちがミスったのか?)
 明らかに彼らは誰かを探しているようだった。兵士があの宿を囲んでい心当たりは一つしかない。
 ベルだ。もしかしたら、クラウたちの話は破談になったのかもしれない。皆と連絡を取れれば、少なくとも状況だけは分かるのだが…
 一度ここを離れて体勢を整える必要がある。念のため、財布を持ってきていてよかった。どうあれ、自分が彼女を守らなければならない。今彼女の力になれるのは自分だけなのだから。

「ベル、一旦ここを離れよう。事前に打ち合わせていたルートを使う」
「う、うん」


 二人は宿のそばを離れ、城下町の城門近くまで歩いてきた。
 打ち合わせていたルートとは城下町のスラム街を抜けて、そのまま城門まで近寄るルートだ。スラム街は普段兵士の見回りが多いが、広場などでなにかあった時、そちらのほうに警戒、護衛の兵がさかれてしまい、緊急時に兵士が手薄になる。
 それを知っていて、彼らはそのルートを選んだ。
 人ごみを避けるため、迂回して裏道を通り、かなり時間が過ぎてしまったが、それでもあと少しで外に出られる。ここまでは問題ない。城から出たら、目立たない街道の下で合流する手はずになっていた。

 もう少しだ。そうスノードは思い、彼女の手を握った。
 ベルも無言で、握り返す。


 だが、二人が城門の近くまでよると、兵士達が目の前の物陰から現れた。
 気付けば、自分達の後ろにも、何人かの兵が迫っている。

 待ち伏せされていたのだ。スノードは焦り、彼女の手を握り走り始めるがもう、遅かった。
 自分達を中心に何十人もの兵が囲んだ。
 どうして…このルートは、城の人間が裏切った時のためのルートだ。決してパーティの皆も、このルートのことだけは捕まってもしゃべらないように話し合っていたのに!スノードは困惑の表情を浮かべる。誰かが、裏切ったとしか思えない。でも、そんなこと――


 自分達を囲んでいた兵達が目の前の人物のために道を明け渡した。

「そ、そんな」

 そこにはあの三人が立っていた。
 クラウ、ロベリア、ライラック。見知った旅仲間達。
 もしかしたら、誰かが裏切ったかもしれないと思っていたが、まさか、全員なんて…ベルが加わるまで、ずっと4人で旅をしてきた。嫌な思いもしてきたけど、こんなことをする連中だとは思っていなかった。


「スノード…彼女を引き渡すんだ…」
「お願い…スノード」
 クラウとロベリアはうつむきながら、要求する。二人はためらっているようで、何か事情があるのかもしれない。王からそう命令を受けたのか。もしかしたら彼らが正しくて、魔王の娘のそばにいる自分が間違っているかもしれない。それでも、スノードはたまらず彼らに質問していた。

「クラウ!ロベリアどうして!!」
「スノード、その女をこちらに渡せ」

「……ライラック!!」
 二人とは代わり、ライラックは決して表情を崩そうとはしなかった。
 まるで、いつもの仕事の一環であるように見える。ライラックは少なくとも、目の前の二人とは違う。厳格な意図があり、自分達に相対している。
 スノードは傷ついていた。彼が騎士を目指し始めたのも、彼の背中を見てきたからだ。ライラックのような騎士になりたい、彼の真似をして剣を握り始めた。なのに…


「彼女を渡せば、お前は本物の騎士になれる。私も公爵職が約束された。後ろ盾がない我がランド家がだぞ。すごいことだ。しかもお前がなるのは…ただの騎士じゃない近衛騎士だ」

「だからって…裏切るのか!!ライラック!!!」
 勧誘するライラックに向けて、スノードは衝動的に手斧を向けた。自分の憧れた彼の、こんな姿を見ていたくなかった。

 だが、ベルはそれを制する。
 スノードがベルのほうを見ると、ベルはスノードに小さい声で耳打ちした。
「私は大丈夫だからスノード、絶対に逃げ切るから。だから今は彼の味方をして…魔族を集めて、もう一度人間との関係を構築してみせる。たとえ、何十年かかっても…」
 彼女が一番ショックだろうに、スノードはベルの目を見た。彼女の瞳は長いまつげの奥の瞳の中に、確かに力強いものだった。信じていた人間から裏切られてまだ、彼女はそんなことが言えるのか――

 
 「何をおっしゃられるベル様」


 そう考えていたが、その時ライラックたちの奥のほうから声がした。
 「キングだけで…チェスは出来ませんよ。我が愛しい姫君」

 スノードにとっては初めて聞く声だ。
 男が目の前に立っていた。スノードは彼を見る。優男のような外見をしているのに、この世のものとは思えないドス黒い目をしていた。ベルと同じ雰囲気をしているのに、本当に対照的だった。
 その男がまた口を開く。

「おかしいとは思いませんでした?大事な魔王の娘が…いつ裏切るかもしれない勇者に同行するのを魔族たちが何故、許可したのか…何故、私が人間達と一緒にいるのか…何故、あなたのお父上が死んだのか」


「センペル……あ、あなたがどうして…そうなの、あなたが全て仕掛けていたの!!!センペル!レオン将軍はどうしたの?彼が裏切るはずがない!!!」
 ベルは叫んだ。
 何週間か一緒に旅をしてきたが、こんな取り乱した彼女をはじめて、スノードは見た。そしてこの状況になってようやく理解した。今がどれだけ、危機的状況なのか。

「レオン将軍はね、貴女が出て行ってすぐ…死にましたよ。貴方のお父上と同じように」
「な、なんてことを」

「む、これでは私が何かしたかのように思われてしまうな。レオン将軍はね、病死したお父上とは違い…階段で、滑って転んで、角に頭を打ち付けて、無様に死にましたよ。それがことの顛末なのです」

「セ、センペル!この外道が!!」
「酷い。私はね、愛しい愛しい貴方のために、ここまで頑張ったのに」
 わざとらしく答える彼にスノードは焦りを感じていた。この男はやばい。今まであってきた誰よりも、危険だ。絶対に逃げなければ。

「人間たちと結託してか!何をしようというの!!」

「それをお伝えする前に、ベル様、私の仲間になってはくれませんか?私の目的はあなたと同じなのです。あなたの単細胞でバカな父上とは違う、名君であるあなたのお考えに心酔しています。同じ志を持ち、私も行動しているのですよ。ただアプローチが違うだけなのです。現に知性がある上級の魔族は全て私の意見に賛同しています。」

「そ、そんな…」
 ベルの瞳は揺らいでいた。彼女は小さく振るえ、茫然とする。当たり前だろう、センペルという男の言葉が本当であるのなら、もう精霊島にベルの味方はいない。人間にも、魔族にも…スノードはそう考えて、彼女には自分がいることを思い出す。今彼女を助け出せるのは自分だけだ。どんなに敵が強大でも、多くても、立ち向かわなければならない。

「あきらめちゃ…あきらめちゃ駄目だ…ベル。逃げるぞ!!!」


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