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生贄少女と彼女の転生騎士 作者:遠出八千代

第二章 精霊王編

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第11話


 フランシア大陸の対岸の丘に、その王城はある。
 海に近いため流通が便利で、海運業が発展していった。
 そしてその城門は敵からの攻撃に対処するため、とても高く、堀は何重にも設置されている。城壁は広大で、それを支える城下町も同じように広い。城下町から城まで、歩いてゆうに三時間ほど必要だった。 

 クラウたち一行は王城に訪れるため城下町に着き、一度荷物を宿舎に預け、王城を訪れることになった。幸い城下町には明け方に到着したため、まずは宿に荷物を置き、そのまま王城に向かう。朝日が出たこの時間であるなら、昼ごろには王城につく計算だ。

「…スノード、魔王の娘と悪いが、宿で待っててもらえるか」
「分かってるって、何かあった時のためだろう」

 事前の打ち合わせで、ベルは宿で待機することになった。当初の目的である王と対面することと違うが、それは王城の人間が下手に警戒しないようにするためだ。魔王との融和を拒むものが貴族の中に現れても、自体を穏便に済ませることができる。それに急に魔王の娘を城内に連れてきたとなれば、パニックを起こしても不思議ではない。まずはクラウ達だけで向かい、緩和剤の役目を担おうという考えだ。そして何かあった時のために、スノードはベルと宿で待機することとなった。

 クラウ、ライラック、ロベリアを見送り、二人は宿の中に戻ろうとした。
 けれど、ベルはじっとその場に立ち止まり、城下町の市場のほうを見ていた。鶏の声が聞こえ始める時間だ、店はどこも開いていない。いくつかのテントにシーツがかけられ、埃がかぶらないようにしていた。それらを物珍しそうに、自分の手では届かない遠くのものを眺めるように見るのだから、スノードは彼女の様子に、どうしたものかと考えていた。

「なぁ、ベル?もしかして市場を見に行きたいのか?」

 皆だけで城に行くのは、ベルの素性を隠すためだ。
 本当は彼女を外に連れ出すのはいけない事だとは分かっているのだが…彼女のあの表情を見て、スノードはそんなことを尋ねた。
「…ううん、私は魔族だし、この角があるもの…」
「その角、魔法で何とかできないか?」
 魔法は非常に便利なものだ、何だってできる。だが、人間に使えない様に、魔族でも固有の種しか使えない。また個体によっても能力は違うらしく、そう言った魔法もベルに使えないか尋ねてみた。

「そんな便利なことは出来ないよ。私の魔法は自然現象に順ずるものしか操作できないし」
 そう言って彼女は、残念そうに頭を振った。どうやら検討が外れたらしい。他に何かないだろうか?スノードは心当たりを探し、丁度いいのを思いついたので、彼女に尋ねた。
「む、そうか…なら、誰も来ない古い砦で、町の景色でも見ないか…そこなら、問題ないだろ。俺のお気に入りの場所なんだ」

「本当!?」
「うん、本当だ。行こうよ」

 彼女は目を輝かせて、そう答える。
 スノードのお気に入りの場所は、城下町の端にある、古い見張り台のことだった。まだ、クラウたちと旅をする前、城下町に買い出しに来た時見つけたのだ。王城の見張り台はつい最近新しくなり、古い砦は取り壊される予定となっていたが、未だその作業は行われていない。人も来ないので、買出しを終えたスノードは良くそこから町の景色を眺めていた。場所もそこまで離れていない。彼らがここに戻るのは往復の時間を考え、少なくとも昼を越えた三時くらいだ。
 それまでに戻れば、問題はない。
 スノードは置手紙を残し、人に見つからないよう宿を後にした。




 クラウたちは3時間かけて、王城に着いた。
 日はすっかりのぼり、太陽の日差しが王城に降り注ぐ。
 兵士たちが城門を開け、クラウ達はその道を進んでいく、騎士たちが何人も頭を下げ、皆の出迎えを歓迎しているようだった。クラウ達はそれに高揚感を覚えた。もうすぐ、戦いは終わるのだ。皆の足取りは軽やかだった。

 皆が謁見の間の入り口にたどり着く、そこは王が普段、兵達や貴族達と謁見を行う場所だ。
クラウたちも王に報告するときに、良く訪れた場所だ。
 クラウは謁見の間の扉を開く。
 自分の背の何倍もあるその扉は重く、ゆっくりと音を出し、開かれていった。
 だが、おかしい。
 クラウたちがそこの中央に進むと、普段とは違う光景に違和感を覚えた。
 奥の玉座には王が座っている。
 だが、警護や騎士も近くにいない。

 その横には見慣れない奇妙な男が一人佇んでいる。

 クラウたちは何度か城を訪れ、王に拝謁している。
 彼の様な貴族や部下はいなかったはずだ。
 その男は白髪を携え、優男のように温和な顔をしている。スラッとしていて、触れたら壊れそうな儚ない男だ。そして魔王の娘とどこか似ている雰囲気を醸し出している。彼の両目は漆黒を称え、見続けたら、飲み込まれそうなほど暗い色をしている。彼はきっと人間ではない。彼はまずい、クラウの勇者としての直感がそういっていた。彼女が一歩引こうと足を動かそうとした時、ライラックは彼に敬礼した。
「おっしゃる通り、自分達だけで王城に訪れました、これでよろしかったですか?」
 戸惑っているクラウとロベリアを尻目に、ライラックはその男にひざをつく。


「ええ、ありがとうございます。ライラックさん。どうしてもお二人と話をしておきたかったのです。我が愛しい…そう、彼女に会う前にね…」


「どういう事!ライラック」
「彼は私達と協力関係にあるんだ。あの魔王の娘と同じでね」
「王よ!!!彼は魔物だ!まさか奴に騙されて…」

「違いますよ、クラウさん、ロベリアさん。彼らは心から協力してくれているだけです。私に魅了魔法など高等な魔法は使えませんから」
 その男は答えた。その姿があまりに演技のようで、なんてわざとらしいのだろうとクラウは思う。なぜなら彼はこれっぽっちも残念がってないからだ。

「ああ、あなた達も私と協力したくなりますよ…確かクラウ様。あなたには幼馴染がいたはずだ。彼の気持ちを手に入れたいと思いませんか?自分の思いに気付かない愛する人の気持ちを…」

 どうしてそのことを彼が知っているのか。クラウは言葉が出なかった。もしかしたらライラックはそのことを彼に言っていたのかもしれない。

「ふふ、なぜって顔をしていますね…ライラックさんから教えてもらったわけじゃないですよ。でも分かるんですよ、同じ片思いだからかな」
 わざとらしく、その男は笑う。その笑顔はまるで三日月のようで――今までの人生で見たこともない、とても邪悪な笑みだと、クラウは思った。


 玉座のそばからゆっくりと、一歩一歩、その男は歩み寄ってきた。


 その男の名前は、センペルビウム。 
 魔王軍の副王にして、後に精霊王という存在を風潮し、各島々から生贄を出させるように仕向けた男。

 精霊王に実態はない。
 あれは500年後も生贄を出させるための方便だ。
 その男は幽霊や幽鬼を従える力も、強大な魔力も持たない。自慢の武器は策謀とその口先だけだ。それのみで弱小魔族でありながら、副王にまで上り詰めた。
 そして彼自身、500年後の未来も生きていれば、自分は精霊王ではないと否定しただろう。

 だが、皆の言葉を借りれば。
 やはり彼こそが遠い未来。
 精霊王と呼ばれる男。その人だ。

 
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