昼間、雲ひとつ無い秋晴れが広がっていた日の夜、やはり雲もなく、
満天の星空と丸く輝く満月が浮かんでいる。
冷え切った空気も手伝ってか、いつも以上に星が綺麗に見える。
下を見れば、東都の街の様々な色の光が一面に広がり、キラキラと光っているにぎやかな夜。
怪盗は現れた。
ビッグジュエルばかり狙う、夜には似合わない白き戦闘服を着た怪盗は、“確保不能”と謳われており、
この夜も例外ではなく、警察は見当違いの方向を追いかけて行った。
まだ、建物の敷地内に追いかけるべき本人がいるというのに、怪盗によって欺かれ、警察の姿は消え去った。
……そう、警察は。
ところで怪盗は、その見事な手腕と、カリスマ性から“平成のアルセーヌ・ルパン”とも呼ばれている。
それと、相対するように存在しているのが、“平成のホームズ”である。
高校生探偵にして、迷宮なしの名探偵と呼ばれる彼――工藤新一は、一時、全く姿を見せない時が続いていたが、ここ数ヶ月の間で再び登場し、数々の事件を解決に導いている。
そんな彼ですら、未だ勝てない相手こそが、“確保不能の大怪盗”すなわち怪盗キッドである。
今回の予告状を解読するようにキッド逮捕に燃える中森警部から頼まれたのは、3日前のこと。
警察で何日かかっても解けなかった難解なものを、たった1日で解いてしまった新一は、警部に大変気に入られ、現場に連れて来られた。
……そして今、予告された美術館にいるのだ。
その美術館の東側は、全面ガラス張りで、外の景色が見えるようになっている。
その窓の外に、1人だけ追いかけなかった警官がいた。
新一が声をかけようとして外に出た瞬間、彼は走り出し、そのまま駆けていく。
それを追いかけるように、新一もまた美術館の敷地から飛び出した。
追いつけるわけでもなく、離れるわけでもないスピードで走る警官は、東都の街中を走り、杯戸シティビルの中へと入っていった。
5秒程遅れて、新一も中に入り、追いかけて屋上へと向かう。
階段を駆け上り、屋上へ出る扉をバン! と開ける頃には、さすがに息を切らしていた。
正面には、静かに背を向けて佇む1人の警官。
いつかの汐留での出来事を思い出させる光景に、新一は思わずニヤリと笑う。
「こんな所に、呼び出してどういうつもりだ? キッド」
「フッ……。久しぶりですからね」
そう言いつつ振り返り、一気に警官の服を取り去る。
「名探偵とこうして対決するのは……」
そこに現れたのは、風で白いマントをはためかせる怪盗キッドその人。
「お前、ワザとだろ? あの予告状かなり難しくしたの」
「……」
「警部でも解けなかったら、オレのところに持ってくると踏んだんだ」
「……バレてましたか」
「バーロ! んなことすぐ分かるよ! いつもと違ったしな、予告状の難しさが。……何でこんなことしたんだよ?」
「名探偵の復活は、日々のニュースで拝見していましたが、私の現場には来てくださらなかったので、お誘いしたんですよ」
「オレは泥棒は専門外なんでね」
「冷たいですね……」
ワザとなんだろうが、手を目元にやる姿は、女性にも化けることができる怪盗なだけあり、すごく様になっているのだが、今の雰囲気には合わず、かなり違和感を感じる。
「んなことより宝石、返せよ!」
「少々お待ち下さい」
怪盗はポン! と右手で宝石を出し、そのまま頭上に翳す。
相変わらずどこから出てきたのかも、何をしているのかも気になるが、どこか幻想的な雰囲気で話しかけられない。
「ふぅ……。はい、よろしいですよ」
と、ポーンと1億は下らない宝石を軽く投げる。
新一はそれを受け取り、
「さて、それじゃ遠慮なく行くぜ?」
と、ベルトに手をかける。
そこに、
「新一!」
聞きなれた隣家の博士の声。
思わず振り返るも、そこには姿もなく、また騙されたことを悔しく思いながらも、前を向く。
「よそ見してたら危険じゃぞ!」
そこには、トランプ銃を構える怪盗の姿が。
しかし、よそ見をさせたのは怪盗の方ではないか。
だが、そんなところに突っ込む暇もなく、パシュッと音がして、新一が1秒前までいた所にトランプが突き刺さる。
しかし、避けたと同時に、新一はコナンの頃から愛用しているベルトからボールを出し、勢いよく蹴った。
……ものの、難なく避けられる。
くそっと舌打ちする間もなく、トランプはどんどん飛んでくる。
追いつめられ、後ろに下がるも、階段へとつながるドアにぶつかり逃げ場を失う。
「さぁ、どうする? もう前の作戦は使えないぜ?」
そんなことは分かっている。
第一、パラグライダーが無いではないか。
「これで終わりだな、名探偵……」
パシュッとトランプが撃たれ、地面に突き刺さる。
すると、POM! と煙が上がり、辺りは真っ白に。
「なっ……ゴホゴホッ!」
と、新一がむせている間に、怪盗は立ち去った。
煙幕が晴れた頃、屋上には当然怪盗の姿は見当たらず、残っていたのは新一と……1枚のカード。
「くっそ……だから嫌なんだよ、アイツ……ん?」
カードを手に取り、眺めて見れば、それは怪盗からのメッセージ。
『今宵の勝負は
私の敗北
また次なる勝負で
お会いしましょう
怪盗キッド
P.S.麻酔銃で撃たれてはかないませんので』
「バレてたのか、オレが狙ってたこと……」
そう、探偵は密かに狙っていたのだ。
これもまた、コナンの頃から愛用している麻酔銃を撃つ機会を。
博士に改良してもらい、3本連射まで可能になった腕時計型麻酔銃を撃つ機会を。
しかし、使用する前に怪盗に逃げられたのだが。
「だが、オメェが負けを認めるのは監獄の中だぜ、キッド! そして、そこに連れて行くのは―――」
このオレだぜ? 光栄に思えよ?
今宵の勝敗はひとまず保留。
今後、どのように決着が着くのかは―――
空に輝く満月だけが知っている。
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