第十五話 血の狼煙その七
その彼にアイビスが声をかけてきた。
「なあ」
「何だ?」
そのアイビスに顔を向ける。表情を変えずに。
「あんた、何が好きなんだ?」
「何が?」
「だから食べ物だよ」
そうクォヴレーに言う。
「何が好きなんだ、そちらは」
「そうだな」
何故かここで考え込む顔になるのであった。
「何だろうな」
「何だろうっておい」
これはアイビスも予想していなかった。
「ないってわけはないだろ、幾ら何でも」
「そうなのか?」
それでもクォヴレーの調子は相変わらずであった。
「そうなのかっておい」
「まあまあ」
そこにツグミが入る。
「じゃあクォヴレー君も食べてみたらいいわ」
「何を食べればいいんだ?」
「例えばこれ」
たまたま側にあったアキトのラーメンを出す。
「食べてみたらいいわ」
「わかった」
その言葉に頷き丼を手に取る。そうして食べてみると。
「これは」
「どうかしら」
「何と言えばいいのかわからない」
こう言うのだった。
「これは」
「美味しいっていうのよ」
にこりと笑って彼に告げた。
「それはね」
「そうなのか」
「これも食べるといいぞ」
今度はディアッカの作った炒飯を出す。アイビスが出していた。
「どうだ?」
「これも美味しいというのか」
「あとこれもどうだ?」
スレイは自分の側にあったクリスのサンドイッチを差し出した。クォヴレーはそれも手に取って口に入れるのであった。
「いいな」
これにもいい評価を下した。
「美味しい」
「それが美味しいっていうのよ」
ツグミはにこりと笑って彼に述べる。
「わかってくれたわね」
「ああ、いいものだな」
クォヴレーは微かにだが笑った。
「美味しいというのは」
「それじゃあクォヴレー君」
出てはいけない人間が出て来た。
「これなんかどう!?」
「げっ」
「まずい」
皆彼女を見て声をあげた。
「私が作ったジュースだけれど」
クスハであった。彼女は自分の作ったジュースを差し出していた。
「どうぞ」
「私も」
悪いことというものは実によく続くものである。ミナキは自分のお握りを差し出していた。
「召し上がれ」
「わかった」
「わかったってちょっと」
「あの、クォヴレーさん」
アラドとゼオラが慌ててクォヴレーを止める。
「もういいんじゃないかな」
「そうよね、そうよ」
ゼオラがかなり焦っていた。
「満腹しましたよね。ですから」
「いや」
しかしクォヴレーは何もわかってはいなかった。
「まだだ。エネルギー補給は万全ではない」
「よかった。それじゃあ」
「どうぞ」
二人はここぞとばかりに差し出す。クォヴレーもそれを受け取る。
「では」
口に入れる。すると。
「・・・・・・・・・」
倒れた。予想通りであった。
「やっぱりなあ」
トウマは怯えた顔で倒れ伏したクォヴレーを見ていた。
「そうなっちまったか」
「おい、担架だ担架」
アイビスが周りに言う。
「このまま放っておくわけにはいかないぞ」
「しかしよお」
ここでトウマは首を傾げて言う。
「何でアズラエルさんとか例の三人はこれ食っても平気なんだ?それどころか」
「美味しそうにねえ」
エクセレンも言う。
「食べちゃってるけれど」
「味覚が違うようだ」
キョウスケが述べた。
「彼等はな」
「そうなんだ」
「味覚だ」
皆それに納得する。
「それに身体の頑丈さが違う」
アズラエルもあの三人もそうであるらしい。
「だから平気なのだ」
「ということはつまり」
アクアはそれを聞いて述べる。
「議長も普通の人じゃないってことね」
「何か納得」
やけに納得できる話であった。アズラエルならば。
「道理で尋常じゃない人だと思っていたら」
「そういうことだったのね」
「しかしよ」
トウマは大きな謎について気付いた。
「GGGの連中ですら倒れるクスハやミナキの料理を食べて平気なんてどういうことなんだ?」
「そうだな」
ヒューゴが彼の言葉に頷く。
「普通では有り得ない」
「いや、有り得ないってものじゃ」
「ロボットよりも身体が頑丈なんて」
アラドとゼオラがそれに突っ込みを入れる。
「どういうことなんだよ」
「あの三人も。そういえば」
もう一人の超人に気付いた。
「バサラさんも」
「あの人たちどうなってるのよ」
「何気にうちって超人が多いな」
マサキもそれに気付いた。
「BF団と変わらねえんじゃねえのか?」
「お兄ちゃん、それはちょっと」
プレセアが兄に囁く。
「人間じゃない人ばかりになるわよ」
「それもそうか。しかしよお」
それでもマサキは言わずにはいられなかった。
「ここまでとんでもねえのばかり揃っていたらよ」
「そういえばシュウ様も毒は全然効かなかったわ」
サフィーネはそのことを思い出した。
「どんな毒も」
「あいつも訳わかんねえとこがあるからな」
マサキは自分のライバルをボロクソに言った。
「まあそれもありだろうな」
「世の中奇人変人が多いわね」
ミリアリアは言葉を失っていた。
「何か」
「そうだね」
トールが彼女の言葉に頷く。
「どうにも」
「それはそうとクォヴレーは大丈夫なのか?」
サイは彼を心配していた。
「あれだけの劇物を一気に流し込んで」
「危ないんじゃないかな」
カズイはそう見ていた。
「ラクスさんは平気だったけれど」
ここにも超人がいたのだった。
「まあ大丈夫だと思っておこう」
バルトフェルドはかなり強引に場を収めにかかった。
「運がよければ彼も助かる」
「運がよければ、ですか」
ダコスタがそれに突っ込みを入れる。
「またそれは」
「人間一番肝心なのはそれさ」
バルトフェルドの人生哲学であった。
「そもそも運がいいからこの世に生まれたんだしね」
「はあ」
「じゃあアンディ」
アイシャがバルトフェルドに囁きかけてきた。
「私達も運がよかったから」
「こうして巡り合えたのさ」
「皆さん御安心下さい」
ここでラクスが言う。
「クォヴレーさんは私がこの身にかえて看護致しますので」
「これはいよいよ」154
「駄目かも知れないわね」
皆ラクスの清らかな笑みを見て覚悟を決めた。何気に今生命の危機に立っているクォヴレーであった。
第十五話 完
2007・10・10
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