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第十話 内なる修羅その六
「トウマ君、返事は?」
「・・・・・・・・・」
 返事はなかった。明らかにおかしい。
「どうしたのかしら。ちょっと」
 また声をかける。だがやはり返事はなかった。
「応えてよ。どうしたの!?」
「絶対におかしいですよ」
 それを見てハーリーが言った。
「トウマさん、返答して下さい、早く」
「危険です」
 ルリはすぐに異変を察した。
「トウマさんに何か起こっています」
「何かが!?」
 見れば雷鳳は異常な暴れ方を見せていた。周りの敵を叩き潰している。それは今までのトウマの戦い方とは明らかに違っていた。
「あれは一体」
「くっ、何だあれは!」
 ヒドラーもそれを見て声をあげた。
「異常な強さではないか!あいつに攻撃を集中させよ!」
「あれにですか」
「そうだ!全力でだ!」
 残りの全ての予備戦力を向けさせようとする。
「よいな!」
「わ、わかりました」
「それでは」
 部下達もそれに頷く。そうして予備戦力を全て向けたが。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
 普段のトウマではなかった。すぐにその向けられた戦力も粉砕してしまったのだった。さしものヒドラーもそれを見て顔を強張らせるのだった。
「駄目だ」
 すぐに決断を下した。
「あのマシンは倒せはできぬ」
「では閣下」
 それを受けて参謀達が問う。
「ここは撤退ですか」
「無人の機体だけ残しておけ」
 足止めの為であるのは言うまでもない。
「よいな」
「はっ」
「わかりました。それでは」
 部下達もそれに頷く。こうして百鬼帝国は無人機だけ残して撤退したのだった。
 その無人機が問題だった。トウマに攻撃を集中させてきたのだ。トウマはその無人機を相手に奮闘していた。その奮闘自体には問題はなかった。
 だが彼自身は異変に気付いてはいなかった。雷鳳自体の異変に。
「うおおおおおおおおおおっ!」
 倒せば倒す程雷鳳の力が増していく。まさに鬼神の様になってきていた。
 それに皆気付きだした。まずレーツェルが言った。
「まずいな」
「うむ」
 ゼンガーがそれに頷く。
「このままでは彼が持たないぞ」
「トウマ!」
 ゼンガーが彼の名を呼んだ。
「落ち着け!気を鎮めよ!」
 だが返答はない。鬼の如く敵を殴り倒し蹴り倒すだけであった。そして敵を倒し終えると今度はゼンガー達に向かって来たのであった。
「来たか」
「ならば!」
 ゼンガーがそれを見てすっと前に出た。
「えっ、何」
 ミナキはそれを見て血相を変えた。
「何するの、一体」
「何するのって決まってるでしょ」 
 ミサトが横から言った。
「このままだとトウマ君が」
「駄目よ、そんなの!」
 ミナキはミサトの言葉を聞いて叫んだ。
「雷鳳が!このままじゃ!」
「ちょっと待ちなさい!」
 今の言葉は流石に聞き捨てならなかった。
「貴女トウマ君がどうなってもいいの!?」
「そんなことより雷鳳が!」
 彼のことは完全にどうでもいいといった感じだった。
「壊れたら!お父様が!」
「いい加減にしなさい!」
 今度はリツコが叫んだ。
「えっ・・・・・・」
「貴女は彼が見えないの!」
 普段はクールな彼女が叫んだのは効果があった。ミナキも動きを止めてしまった。
「彼は貴女にあんなこと言われてもまだ頑張っていたのよ!」
「けれどそれでも彼は」
「不適格とでも言うつもり!?」
 ミサトもミナキを睨んでいた。
「だから切り捨てる。そう言うつもり?」
「私は別に」
 そう言われるとミナキも反論できない。自覚していなかっただけなのだから。
「そんなことは」
「言っていたわ」
 ミサトはミナキを睨み据えて言うのだった。
「あの時。だから皆怒ったのよ」
「・・・・・・そうだったの」
「貴女、人として最低よ」
 ミサトもこれまでにないきつい言葉を口にする。
「最低・・・・・・私が」
「そうよ」
 また言う。
「そうして人の努力も気持ちも見られない人間ってのはね。最低なのよ」
「シンジ君いるわね」
 リツコはシンジを出してきた。
「ええ」
「彼なんか最初はどうしようもなかったわ」
「シンジ君が」
 今では立派なロンド=ベルの一員の彼もである。かつては気弱でとても戦えない少年だったのだ。今ではロンド=ベルの中で心優しい少年として頑張っているが。
「彼だってそうだし」
「キラ君だって」
「キラ君まで」
「けれど皆頑張ったのよ」
 ミサトは彼等を出してミナキに言う。
「必死ね。トウマ君だって」
「それは・・・・・・」
「見ていなかったわね、彼の努力を」
 ミサトはわかっていた。今それを突き付けたのだ。
「だからあんなことが言えたのよ」
「それでもシステムLIOHは」
「あれね」
 リツコはそれを何でもないといった感じで言い捨てた。
「あれを見なさい」
「あれを?」
「そうよ」
 モニターを指差していた。ミナキはそれに従いモニターを見た。
「あれがそのシステムLIOHよ」
「嘘・・・・・・」
 ミナキはモニターを見て絶句した。そこにいたのだ。
 敵味方関係なく無差別に攻撃を繰り出す雷鳳だった。敵を倒し終え今度はゼンガーの乗るダイゼンガーに攻撃を仕掛けていたのだ。さながら鬼神の様に。
「おおおおおおおおおおっ!」
「どうして!?どうしてこんな」
「貴女はシステムLIOHのことが何もわかっていなかったのよ」 
 リツコは冷徹とも取れる声でミナキに言うのだった。
「あのシステムは。平和をもたらすものではないわ」
「じゃあ一体」
「狂気をもたらすものよ」
 それがリツコの答えだった。
「今トウマ君はそれに取り込まれているわ」
「嘘よ、じゃあお父様は」
「トオミネ博士ね」
 ミサトがミナキの父について言及してきた。
「お父様を知っているんですか!?」
「ええ、有名だったから」
 あえて今こう述べたのだった。
「確かに優秀だったわ」
「はい」
「けれど」
「えれど?」
 優秀と定義したうえでの言葉であった。
「心がなかったわ」
「心が・・・・・・」
「よくある話ね」
 ミサトはここで一旦溜息をついた。
「優秀であっても心が伴っていないのは」
「どういうことなんですか!?お父様は何を」
「あのシステムLIOHはね」
「はい」
「簡単に言うとバーサーカーシステムなのよ」
 ノーベルガンダムを出してきた。
「アレンビーの話は聞いているわね」
「気持ちが昂ぶると闘争本能に心が捉われて」
「そういうこと。システムLIOHも今は同じね」
「じゃあトウマは」
「そうよ」
 そうミナキに告げた。
「闘争本能に心を奪われているわ。完全に」
「そんな。トウマが・・・・・・」
「トオミネ博士は世に認められなかったわ」
 今度はリツコがミナキに告げた。
「それを恨んでシステムLIOHを開発して」
「じゃあLIOHは」
「人の心を利用して暴走させるシステムだったのよ。それに捉われると」
「まさか!?」
「そうよ、命が危ないわ」
 リツコはモニターを見ながらあえてクールに言う。しかしその目はトウマから離れはしない。彼女もまたトウマを心から心配しているのだ。
「このままだと」
「早く何とかしないと」
 ミナキはここでようやく悟った。システムLIOHの危険さと今まで自分がしてきたことを。
「さもないとトウマが」
「落ち着きなさい」
 ミサトが忠告する。
「けれど」
「落ち着きなさいって言っているのよ!」
 ミサトはまたしても激しい声をあげた。
「今ここで貴女が騒いでも何にもならないわ」
「はい・・・・・・」
「ゼンガーさんに任せなさい」
 強い声のままミナキに告げる。
「いいわね、それで」
「それしかないですか」
「ええ、ないわ」
 ミサトはまた告げた。
「わかったらそこで見ておくの。いいわね」
「わかりました」
 ミナキは俯いて答えた。そう答えるしかなかった。
「今ここで」
「ゼンガーさんを信じるのよ」
 リツコは穏やかな声を出した。
「あの人ならきっと」
「はい」
 ミナキは俯いたままリツコのその言葉に頷くのだった。
「信じます。ゼンガーさんを」
 モニターではトウマが異常なまでに激しい攻撃をゼンガーに浴びせている。その周りではスティング達が戸惑いながら展開していた。
「どうしちゃったんだよトウマさん!」
「返事しろよおい!」
 スティングとアウルが必死にトウマに呼び掛ける。しかし返答はない。
「駄目だ、返答がない」
「いかれたな、絶対に」
「おい、三人共!」
 そこにシンが飛んで来た。文字通り。
「そこにいたら危ないだろ!ステラ!」
「う、うん」
 シンはすぐにステラの前まで来た。彼女を庇っているのは明らかだった。
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