第十話 内なる修羅その一
内なる修羅
トウマは偵察の用意に当たっていた。皆それは知っていたがあえて見に行きはしない。ただ静かな沈黙を彼の前では守るだけだった。しかし彼の前以外では。
「あったまくるんだよ!」
シンであった。激昂する声をあげる。
「何だよ本当にあの態度!」
そう叫ぶ。見ればカガリも同じである。
「全くだ!」
今回はシンに対して怒ってはいない。ミナキに対してである。
「トウマを何だと思っている!そして何様だ!」
「珍しく意見が合うな」
それにシンも気付いた。
「御前も頭にきてんのかよ」
「当然だ!」
カガリはその激昂した声で応える。
「ぶん殴ってやる。本当に」
「ああ、俺もだ!」
シンもそれに同意する。
「今から!この手でな!」
「私も行くぞ!」
「だから待つんだ」
そんな二人をアスランが止める。彼は冷静な顔を作っている。作っているのだ。
「幾ら何でも暴力は」
「何甘いこと言ってるんだよ、アスラン」
しかしシンはその言葉に賛成しようとしない。
「御前だってあの女には頭にきてる筈だぞ」
「だったらどうしてだ!」
「確かに俺もミナキさんには不愉快なものを感じている」
アスランもそれは認めた。
「シンともカガリとも同じさ、それは」
「だったらどうして!」
「私達を止める!」
「ミナキさんを殴って何か解決するか?」
アスランはそう二人に問うてきた。
「何っ!?」
「それで二人共気が晴れるか?晴れないな」
「あ、ああ」
「それはな」
二人はその言葉を聞いて俯いた。そのその通りだからだ。
「それでも」
「あんな女。許せる筈がない」
「だからそれはわかるんだ」
アスランはあくまで彼等に同意する。しかし。
「俺だって殴りたいものだ、ミナキさんを」
「だろ!?」
「だったら今から」
「だからそれで何も解決しないんだ」
アスランは暗い顔で二人に語る。
「トウマさんの心だって救われない」
「トウマさんの」
「問題はそこなんだ」
暗い顔のまま語る。
「ミナキさんはどうでもいいんだ。トウマさんこそが」
「そうだったな」
カガリも今それに気付いた。彼女とて愚かではない。
「トウマがどうにかならないと結局は」
「わかったな。だからここは堪えるんだ」
「くっ」
「シン、御前は間違ってはいない」
アスランは壁を殴りつけたシンに対して言った。
「トウマさんが心配なんだな」
「ああ」
シンもその言葉に頷く。
「あんなふうに言われて追い出されてって。何なんだよ」
「確かに酷い話さ」
アスランも俯いた。顔もさらに暗くなっていた。
「けれどな。今ここで俺達がミナキさんをどうにかしても」
「トウマさんはどうにもならないんだよな」
「そうだ。あのままだ」
また言った。
「どうにもなりはしないんだ」
「じゃあどうすればいいんだ」
カガリがアスランに顔を向けて問うた。
「このままトウマが消えていいのか!?」
「・・・・・・そう思っているのはミナキさんだけだ」
アスランは苦い声を吐き出した。
「ミナキさんだけだ。他には誰も」
「そうか」
「カガリは。絶対に嫌なんだな」
「御前と同じだ」
「そういうことだ。俺はトウマさんを知っているつもりだ」
アスランは今壁を見ている。しかし見ているのは壁だけではなかった。
「ミナキさんよりもな。頑張ってるよ」
「頑張ってるだけじゃ駄目とは言わないんだ」
「俺はそんなに偉くない」
アスランはシンに告げた。
「それに努力していれば報われる。誰かが言ったな」
「それが人間だってな」
シンも言う。
「実際にトウマさんは実力出してきている。それでどうして」
「だからわかっていないのはあの女だけだ!」
カガリはまた激昂した。
「あの女・・・・・・私は許さないぞ!」
「また騒ぎになる」
アスランは言う。
「その時にまたミナキさんは言うだろうな」
「どうせな」
シンの言葉は嫌悪感をこれ以上はないという程に露わにさせていた。
「だからこそあの女だけは」
「自分では気付いていないんだよ」
それまで椅子に座り一言も発していなかったキラがシンに言った。
「キラ・・・・・・」
「あの人は。自分が何を言っているのか」
「だからといって許されるのか!?」
シンはそれを問うた。
「トウマさんに対する言葉は」
「いや、それはないよ」
それはキラも言う。
「あんなことを言っていい人なんて誰もいないから」
「けれど御前はそれを受け入れるのか」
「アスランと同じだよ」
キラも言った。
「それでトウマさんがどうかなるわけじゃないから」
「トウマ君が救われればそれでいいんだよ」
ユウナがまだ怒っているシンとカガリに対して言葉をかけてきた。
「それでね。それだけでいい」
「だからね。今は彼女を今よりも硬化させないことも大事なんだよ」
「ユウナさんの言葉が正しいな」
「そうだね」
アスランの言葉にキラが頷いた。
「だから二人共。今は」
「・・・・・・わかった」
「忌々しいがな」
「カガリ。けれどわかっているだろう?」
ユウナは今度はカガリに声をかけた。
「ここは堪えるしかないんだ」
「それでトウマが追い出されてもなんだな」
「それはさせないよ」
ユウナの声が少し強くなった。
「彼はやっぱりロンド=ベルに必要だからね」
「そうか」
「彼はきっと素晴らしい戦士になります」
アズラエルもいた。珍しくその顔から笑みは消えていた。
「その彼を手放したくはありませんしね」
「それでも今はミナキには何も言えない」
「嫌な状況だ」
シンとカガリはまた言った。
「けれどな。そんなに言うんだったら耐えてやるさ」
「トウマの為にな」
「頼む」
アスランが二人に少し頭を下げた。
「トウマさんの為にも」
「それにしても。トウマさんも大丈夫かな」
キラがふと呟いた。
「落ち込んでいるってことかな」
「いえ、何か少し違うみたいです」
キラはそうユウナに言葉を返した。
「違うって?」
「何かおかしくないですか?今のトウマさん」
キラは不安げな顔で言う。
「変な闘志を感じますし」
「闘志ねえ」
ユウナはキラからその言葉を聞いて眉を顰めさせる。
「そういえば変な感じもするね」
「今までのトウマさんにはなかったですよね」
「うん」
ユウナはその言葉に頷く。
「それまではただ必死なだけだったけれど」
「今日のトウマさんは何か」
「危ないかな、一人だと」
ユウナは怪訝な顔になった。
「どうすればいいかな」
「僕が出ましょうか」
キラが申し出て来た。
「ここは」
「いや、キラ君は残っておいて欲しいな」
「どうしてですか?」
「君も冷静じゃないからだよ」
ユウナはそうキラに告げた。
「自分でわかっていると思うけれど、それは」
「ええ」
ユウナのその言葉に頷く。
「それは認めます。やっぱり」
「そうだね。だから君は待機しておいて欲しいんだ」
「わかりました。それじゃあ」
「当然君達もです」
アズラエルはシン達三人にも言う。
「ここは待機してトレーニングでもしておいて下さい」
「わかりました」
アスランがアズラエルに応える。
「じゃあシン、カガリ」
「・・・・・・ステラ達のところに行って来る」
「ジュドー達と約束がある」
二人はそう理由をつけた。そうして立ち去ろうとする。
「そこでするさ」
「悪いがな」
「そうか。じゃあ俺もディアッカ達のところへ」
「キラ君、そういえば」
「はい」
アスラン達三人が去ろうとしたところでユウナはキラにも声をかけた。
「サイ君達が呼んでたよ」
「サイがですか」
「何でも飲むそうだし。どうかな」
「お酒ですか」
「いつも飲んでるじゃないか」
そうキラに言う。
「何も嫌がる必要はないんじゃないかな」
「わかりました。それじゃあ」
キラも彼の言葉に頷いた。そうしてその場を去るのだった。
アスランもシンもカガリももう部屋にはいなかった。残っているのはユウナとアズラエルだけになっていた。二人もどうにも難しい顔をしたままだった。
「因果なものですね」
アズラエルが先に口を開いた。
「こうしたことを制止しなければいけないとは」
「じゃあアズラエルさんも」
「僕だって感情はありますよ」
笑ってこう述べる。
「ましてや価値観とかモラルもね。ですから」
「ミナキ君には賛成できませんか」6
「全く」
アズラエルははっきりと言い切った。
「正直あの場面はむっときましたね」
「そうですか」
「顔には出さないつもりでしたが。それにしても」
「トウマ君には降りて欲しくはないですが」
「それも一体どうなるか。わかりませんね」
「問題は彼自身です」
ユウナはこう述べた。
「落ち込んでなければ問題はないでしょうけれど」
「今は無理ですね」
アズラエルはシビアなことを言うのだった。
「あれで落ち込まないというのは有り得ません」
「そうですね。やはり」
「誰かが励ましても。果たして」
「難しい話です」
「もっとも彼にロンド=ベルを去ってもらうつもりはありません」
アズラエルはこれに関しても言い切るのだった。むしろこちらの方が言葉も表情もしっかりとしたものであった。かなり強くなっていた。
「決してね」
「では僕もその方針でいきましょう」
実はユウナは最初からそのつもりだった。
「彼にはいてもらわないと」
「そういうことです」
笑顔でそう言い合うのだった。この時トウマは大空魔竜の格納庫から出撃しようとしていた。ここでボルフォッグ達に囲まれた。
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