第九話 立ち上がれ!勇気ある者達その三
「匂いも半端じゃないしな」
「そうなのかよ」
甲児はそれを聞いて複雑な顔を見せてきた。
「やっぱり納豆なんだな、それじゃあ」
「あのレベルじゃないかも知れない」
鉄也は彼にも言う。
「だから。注意しておいてくれ」
「楽しみですね」
全てを知った上で好きなアズラエルはこう言う。
「本場のあれが食べられるとは」
「だがまずはだ」
凱は話を締めるようにして言った。
「敵を倒してからだな、そういうのも」
「そうだな」
トウマは彼のその言葉に頷いた。
「じゃあ俺もやるか」
「トウマ、焦らないでいい」
そんな彼に鉄也が言う。
「御前は少しずつ雷鳳の力を引き出してきているからな」
「そうか」
「そうだ。かえって焦ると駄目だ」
「わかった」
トウマも彼の今の言葉に頷いた。
「じゃあ」
「彼はいいのですが」
そんな彼の側でアズラエルは呟く。
「彼女はどうですかね」
「何がだ?」
「いえ、ミナキさんですよ」
凱にも述べる。声が似ているのでどちらがどちらかわかりにくい。
「彼女が今のLIOHの状況を見てどう思うかですが」
「それか」
「ええ。君はどう思いますか?」
「焦っているな、彼女は」
凱は自分の目でそう述べた。
「何かおかしなことになりそうで嫌だ」
「君もそう思っていますか」
「トウマを見ている」
彼は今度はトウマを話に入れた。
「どうもあいつについて色々思っているみたいだな」
「そうですね」
それはアズラエルもわかっていた。
「だからこそ彼には頑張ってもらいたいのですが」
「トウマが好きみたいだな、あんた」
「少なくとも嫌いではないです」
自分でもそれを肯定した。
「ああした生真面目な性格はね。僕にはないですし」
「そういうことか」
「ここでそれは否定して欲しかったんですがね」
そう笑って返す。
「できませんかね」
「あんたに関してはな」
凱も笑って返す。
「どうにもな」
「やれやれ。困ったことですね」
とは言っても普通に笑っていて特に困った顔を見せてはいない。
「どうも僕は汚れていると思われているようで」
「実際にあまり善人とは言えないような気はするな」
凱も容赦がない。
「まあそのわりに何かと俺達を助けてくれているが」
「何、これも縁です」
同じ笑みで返す。
「これもね。ですから」
「ですから?」
「今後共宜しくを」
「ああ、こちらこそな」
凱も笑ってウィンクで言葉を返す。
「頼むぜ、社長」
「おっと、僕は社長ではありませんよ」
不敵な笑みになっての言葉だった。
「会長です。アズラエルグループの」
「そっちか」
「まあ複数の会社の社長でもありますが。さて」
またトウマを見やる。
「彼に何かあった時の用意でもしておきましょうか」
「何かか」
「はい。用心の為です」
そう凱に述べてからクサナギに戻る。そうしてそこの自室で何かをするのであった。
まずは邪魔大王国が琵琶湖南岸に姿を現わした。それなりの数であった。
「やはり滋賀だったな」
大文字は彼等の姿を認めて言う。
「予想通りだ」
「そうですね。ただ」
その横にいるサコンが言葉を付け加える。
「もう一つの相手がまだですが」
「おそらくは時間差で来る」
大文字はそう呼んでいた。
「だから油断は決してできはしないな」
「そうですね。それじゃあ」
「敵の援軍に警戒しつつ陣を敷いてくれ」
そう全軍に伝える。
「いいな、まずは前方だ」
「わかったぜ」
トウマがそれに応える。
「じゃあ前に出て、と」
「あの、トウマさん」
クスハが彼に声をかけてきた。同じ小隊にいるからである。
「何だ?」
「御気をつけて」
そう彼に言ってきた。
「何か緊張されているみたいですけれど」
「いや、俺は別に」
トウマはクスハの今の言葉に目を少し丸くさせて言葉を返した。
「そんなことはねえけれどな」
「そうですか?」
「ああ。何でそう思ったんだ?」
「いえ、動きが」
「俺もそれは感じました」
ブリットも言ってきた。
「トウマさん、緊張はかえって」
「別にそんな気はねえんだけれどな」
彼にも言われてどうにも不思議な気分になった。
「何か。おかしいのかね」
「私達の気のせいでしょうか」
「それじゃあ」
「俺は別に」
自分ではそう返す。
「何ともねえけれどよ」
「だったらいいんですけれど」
「けれどトウマさん」
ブリットはまだ言う。
「本当に焦ったら駄目ですよ」
「ああ、それはわかっている」
トウマは別に嫌な顔をせずにそう返した。
「だから安心してくれよ」
「わかりました。それじゃあ」
「前方の敵接近してきます」
ここでミドリからオペレートが入った。
「邪魔大王国です」
「よしっ」
トウマは彼等の姿を確認して気合を入れる。しかし。
ミナキは彼のその姿を見て何かを考えていた。だがそれを口に出すことはなくただ彼を見ているだけであった。それはミサトも見ていた。
「これはまずいかもね」
「気付いたのね」
「ええ、まあね」
リツコにも答える。
「責任転嫁ってやつかしら」
またミナキを見て言う。
「よくあることだけれど。あまりいいものじゃないわね」
「そうね。ただ」
今度はリツコが言った。
「本人は気付いていないわ」
「そのことにも」
「よくあることよ」
人生経験がここでは出ていた。二人はそれに基いてミナキを見ていたのである。
「けれど。それを自覚しないと」
「傷つく人が出るわね」
「そうね。どうしたものかしら」
「正直どう思う?」
ミサトはふと話を変えてきた。
「どう思うって?」
「彼よ」
こう言うのだった。
「彼、頑張ってるわよね」
「そうね。それは確かに」
リツコもそれはわかっていた。だからこそ今頷いたのである。しかし。
「少しずつだけれど実力を発揮しているし」
「システムもね。ちゃんと」
そこが問題であり二人もはっきりと認識していた。
「やっていってるけれど」
「気付いていないのは彼女だけね」
リツコはその整った口をいささか歪めさせた。その歪んだ口こそが今の彼女のミナキへの感情を表わしていた。ミナキはそれにも気付いていないが。
「下手すると。あれよ」
「あれ?」
「彼女、取り返しのつかないことをしてしまうわよ」
リツコは大人の女の言葉を出した。
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