第八話 混沌の大地その五
「今度こそ貴様を散らせてやろう」
「そうか。ではやってみせるがいい」
「ではな」
ロフは部下を連れて撤退した。こうして戦いは終わった。ハマーンはそれを見届けながらグワダンに帰るのだった。着艦するとすぐに艦橋に呼ばれた。
「来たわねハマーン」
すぐにミネバが彼女に声をかけてきた。心配する顔だった。
「ミネバ様、どうされたのですか」
「ずっと見ていたわよ」
彼女はそうハマーンに告げた。
「先程の戦闘をですか」
「まずは見事だったわ」
最初は褒めた。
「けれど」
「けれど」
「あまり無理はしないで」
それがミネバの本音であった。
「無理をですか」
「そうよ。ハマーンに何かあれば」
顔を不安の色がさらに包み込む。
「私は。誰を頼りにすれば」
「御安心下さい」
ハマーンは不安げな顔になるミネバに対して穏やかに笑って言うのだった。
「私は常にミネバ様のお側にいますので」
「万が一ということもないのね」
「そうです。ですから」
そう言って彼女を安心させる。
「御心配なく。ただ」
「ただ?」
「殿下を不安にさせたことは謝罪致します」
こう述べて片膝を折ってきた。
「ミネバ様をその様な御気持ちにさせたこと。御赦し下さい」
「ハマーン、そんなことは」
ミネバはそんなハマーンを見て慌てた顔になった。
「顔を上げて。いいから」
「ミネバ様」
「私はハマーンが無事だったらそれでいいの」
また本音を語る。
「それだけだから。だから」
「左様ですか」
「だから。顔を上げて」
またハマーンに言う。するとハマーンはようやく顔を上げたのだった。
「そして。一緒に何か食べましょう」
「それでしたらミネバ様」
ハマーンの笑みが母親か姉のようなものになった。家庭的な優しい笑みであった。
「もう用意しております」
「何を?」
「今日はプリン=アラモードを作っておきました」
ミネバに言うのだった。
「プリンを」
「はい。冷蔵庫に冷やしています」
意外と家庭的なハマーンであった。
「私の分もありますので。それでは二人で」
「うん、二人で」
二人で食べると聞いて上機嫌になるミネバであった。
「食べましょう。けれど」
「他の者もですか」
「プリンは二人分だけかしら」
ミネバはそのことを考えて少し困った顔になる。
「まだあればいいけれど」
「それについては御安心下さい」
ハマーンはまた言うのだった。
「冷蔵庫にかなりありますのでそれで」
「そう。皆食べられるのね」
「そうです。それでは」
「ええ」
ミネバは笑顔で応える。こうして戦いが終わり皆でデザートとなったのであった。
デザートは好評だった。皆ハマーンのプリンを褒め称える。
「また腕あげられましたね」
ファがそう言って彼女を褒める。
「凄く甘くてそれでいて」
「あっさりしているわ」
フォウも言う。
「口触りが凄くよくて。これなら幾らでも」
「私とて女なのだ」
ハマーンは笑って彼女達に言葉を返す。
「料理もする。いやむしろ」
「ハマーン様はミネバ様の料理を常に作ってこられたのだ」
イリアが皆に説明してきた。
「だからこうしたことはお手の物なのだ」
「そうだったんだ」
「それで」
「けれどそれって凄いことよ」
セシリーはそれを聞いたうえでハマーンを褒める。
「いつも作っていたなんて。やっぱり」
「アクシズは寂しいものだったからな」
ハマーンの笑みに寂しげなものが含まれた。
「ミネバ様と二人で。多くの時間を過ごした」
「ハマーンも。色々あったんだな」
「そうしたところは御前と同じだ」
ハマーンは今度はカミーユに言葉を返した。
「寂しいことには。慣れている」
「そうか」
「だが。好きにはなれない」
笑みの中の寂しさを増した顔になっていた。
「これだけはな」
「御前には申し訳ないことをしたが」
クワトロはそう語るハマーンから微妙に顔を逸らしていた。
「だが私は。こうするしか」
「御前にも御前の都合がある」
ハマーンもそれがわかってきていたのだ。
「もう終わったことだ。気にすることはない」
「済まない」
「私とて。女になったのだ」
寂しさをそのままに語る。
「もう少女ではないのだからな」
「いえ、ハマーンさんはまだ少女だよ」
ここでヒメが言った。
「どういうことだ?」
「だってとても純粋だから」
「純粋。私が」
「うん。ハマーンさんの心はとても奇麗」
ハマーンに対して告げる。
「だから。少女だよ」
「ふふふ、何か照れ臭いな」
アクシズの時には誰にも見せたことのない笑顔だった。
「そう言われるとな」
「そもそもハマーンさんってまだ二十一じゃない」
カナンが言ってきた。
「まだまだこれからよ」
「というかはじまったばかりだな」
ヒギンズもそれに加わる。
「今やっとな」
「そういえば」
ナタルもふと思い出す。
「私よりも四つも年下で」
「そうなのよねえ。ちょっちどころじゃないショック」
ミサトは複雑な顔で苦笑いを浮かべていた。
「八つも年下なのにこんなにしっかりしていて純情だから」
「ハマーンさんはこれからいい人がきっとね」
「それはまだ先か」
ハマーンは自分で述べる。
「今はミネバ様をお守りせねばな」
「何かそこのところがお母さんみたいなのよね」
リツコが指摘してきた。
「それか大きいお姉さんか」
「要するにあれだろ?」
またしてもシンが言う。
「おばさん臭いってやつか。まあうちはナタルさんとかマリュー艦長とかミサトさんとか赤木博士とか完全なおばさんが・・・・・・って」
「少年」
既に取り囲まれていた。シンの目の前にはナタルがいる。
「やっぱり・・・・・・死ね」
袋叩きにされる。結局はこうなる運命だった。
シンが医療室に放り込まれている間にもデザートの時間は続く。マリューやユリカの作った怪しいものはオルガ、クロト、シャニが食べて事なきを得た。その後で彼等の方針が決定したのだった。
「これからだが」
ブライトが皆に対して言う。
「まずは地底勢力を叩きたい」
「彼等をか」
「そうだ。ゲストもインスペクターも宇宙から来ている」
そうクワトロに答える。
「その勢力はかなりのものだ。しかもまだ何もわかってはいない」
「そうだな」
その言葉にシナプスが頷く。
「彼等に対してはあまりにも不確定要素が多い。しかし地底の勢力は」
「そうではないということですね」
「その通りだ。彼等の勢力には限りがある」
シナプスはジャクリーンに言葉を返した。
「地底という閉鎖された空間にいるからだ。それならば」
「まずは地底勢力を」
「それでどうだ」
「その通りです」
ブライトはそうシナプスに返した。
「だからこそまずは百鬼帝国と邪魔大王国を」
「よし。ならば日本に戻るか」
彼等の主な活動拠点は日本である。それならば何処に向かうかも自明の理であった。
「すぐにな」
「はい。それでは全軍」
ブライトは一同に対して言う。
「日本に」
「よし」
アムロが一同を代表して頷いてみせてきた。
「行くぞ」
「すぐに日本に向かうぞ」
ブライトはこうも言う。
「わかったな」
「了解」
こうしてロンド=ベルは日本に戻ることになった。ところがその中で一人苦悩に落ちる者がいたのであった。
「おいトウマ」
甲児がトウマに声をかける。
「御前最近どうしたんだ?」
「どうしたって?」
「いや、何か調子悪いじゃねえか」
そう彼に言う。
「何があったんだよ、一体」
「別に何もないさ」
口ではこう返す。
「ただな」
「ただ?」
表情は違っていた。その表情が曇っているのに甲児も気付いた。
「何か雷鳳を使いこなせていないんだ」
「そうなのか」
それを言われて何となく納得する甲児だった。
「そうだろうな。最近の御前の戦い方を見てるとな」
「わかったのか、それが」
「ああ」
甲児はまた答える。
「皆そうなんだよ」
「皆?」
「マシンを上手く操ろうと思ってもな。できないんだ」
「甲児もだったのか?」
「俺だって最初は苦労したさ」
トウマに答える。
「マジンガーをどう使っていいか困ってな」
「そうだったのか」
「それでミナキさんは何て言ってるんだ?」
甲児は今度はミナキの名前を出してきた。
「ミナキ?」
「そうだよ。雷鳳はミナキさんの親父さんが開発したものだったよな」
「ああ」
甲児のその言葉にも答える。
「俺が。偶然乗って」
「そういうこともよくあることさ」
少なくともロンド=ベルにおいてはである。
「アムロさんやキラだってそうだったしな」
「そういえばそうか」
甲児にそれを言われてあらためて気付く。
「アムロさん達だって」
「ああ。だから気にすることはねえよ。それよりな」
「それより?」
「鍛えておけよ」
甲児は笑ってそう述べてきた。
「鍛えるのか」
「そうさ。何はともあれそれだよ」
笑ってまた言うのだった。
「よかったら付き合うぜ」
「ああ、じゃあ頼むぜ」
「鉄也さんも呼んでな」
トウマは何はともあれ訓練に入った。だがそれはあまりにも過酷なトレーニングだった。そしてそれを終えても彼にはまだ試練があるのだった。
第八話 完
2007・9・8
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