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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第1章 因習の島

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scene 8 侵蝕②

前回のサブタイトルを変更しました。
 イオンモールナゴヤドーム1階、イタリアンレストランの片隅。

 僕とあずみは料理を前に、向かい合っていた。

 店内は家族連れや女性のグループなどで、けっこう賑わっている。

 バイキング形式でリーズナブルだから、人気の高い店なのだ。

 あずみの前にあるのは、唐揚げを30個ほど、ピラミッドよろしく積み上げた皿。

 それから同じく山盛りのポテトサラダに、これまだ20個はあるだろうと思われるハンバーグ。

 いくらバイキングの店だからといって、これはないだろうと思うのだが、彼女はいつもこうである。

 やたら燃料を食う、大排気量のアメ車のエンジン。

 そんなものを想像してもらえばいい。

「出発を前に、島に関する情報を整理してみる」

 僕は自分の分の皿をどけ、タブレットをあずみに見えるように置いた。

「荒神島は、三重県鳥羽市に属する離島。東西約5キロメートル、南北約1.3キロメートル。面積約6平方キロメートルで、伊勢湾の島の中では、答志島に次いで、2番目の大きさだ。不思議なのは青柳氏の話にもあったように、島の中央に外輪山に囲まれたカルデラがあること。この地方に存在する唯一の休火山を持ってるんだ」

 あずみは珍しく無言で、ひたすら唐揚げを口の中に放り込んでいる。

 早く食べ終えて、次の分を取ってきたくて仕方がないのだろう。

「島の人口はおよそ200人。だが、これは鳥羽市役所に登録されている戸籍から算出した数であって、おそらくこのカルデラ内の集落の住人は含まれていないと考えられる。青柳氏の話が正しければ、この中は化け物の巣になっている可能性が高いからな」

 タブレットの画面をスクロールすると、伊勢湾の地図から航空写真に切り替わった。

 ひょうたん型の島の真ん中には、確かに浅い噴火口状のくぼみがあり、その中に何軒か家が建っているのが見える。

 画像が不鮮明で細部までは見えないが、家々のつくりは、なんだか縄文時代の竪穴住居に似ている。

「さて、問題の荒神祭だが、これについてはほとんど資料が残っていなかった。なんせ50年に一度の祭りらしいから、実際に見た者があまり残っていないんだろうな。だから儀式の詳細は不明だけど、唯ちゃんと青柳氏の話によれば、青柳一族の血を引く巫女が舞を舞うことで、闇虫に取り憑かれた”外道”たちを”根の国”に返すってのが、その目的らしい」

「本当は、唯のお母さんがその役を担うはずだったんだよね。でも、幼い唯を連れて、10年前に島を逃げ出してしまった」

 唐揚げを一皿食べ終えて少し落ち着いたのか、あずみが反応した。

「そうだ。そして5年後に呪い殺されてしまった」

 呪い殺された…。

 そう、あのとき青柳氏は、確かにそういったのである。

「でも、おかしいよね。唯は、『行方不明になった母の代わりに』って、お兄ちゃんに言ったんでしょ」

 野菜ジュースをストローですすりながら、なかなか鋭い点を突いてきた。

「うん。なぜふたりの話が食い違ってるのか、ちょっとした謎ではある。他人の家のことだから、あんまり詳しく聞けなかったけど」

「それから、青柳さんと唯のお母さん、本当の兄妹じゃないよね。だって、唯のお母さんは本家の出身で、青栁さんは分家なんでしょう? 従兄妹ってことなのかな?」

「そうかもしれない。あるいは俺たちみたいに、腹違いの兄妹ということなのか」

「じゃ、あずみとお兄ちゃんみたいに、愛し合ってたのかもね」

「変なこというな」

 小声で叱って、周囲を見回した。

 幸い、あずみの暴言には誰も気がつかなかったようだった。

「それより問題は、由紀夫のやつが言ってた”四凶”だ。四つの凶で、四凶。凶は、凶悪犯罪の凶」

「由紀夫って、東大に行った洗場くん?」

「ああ。今は夏休みで、こっちに戻ってきてるんだが」

「シキョウなんて、聞いたことないよ。四神なら知ってるけど」

「wikによるとだな、四凶とは、

 大きな犬の姿をした、渾沌こんとん

 羊身人面で目がわきの下にある、とうてつ

 翼の生えた虎、窮奇きゅうき

 人面虎足で猪の牙を持つ、檮杌とうこつ

 の四体の魔物らしい。『春秋左氏伝』って中国の書物に出てくる、中国の古代の妖怪みたいなもんかな。王都を守る四神に対抗する、邪悪なる存在だ。由紀夫によると、その四凶が荒神島を守ってるっていうんだよ」

「変なの。ここ、日本なのにね」

「確かにな。で、写真見てて思ったんだが、ひょっとしてその四凶が守ってるのって、島全体じゃなくて、あのカルデラの中の集落なんじゃないかって気がするんだ。まあ、これはその四凶とやらが、実在するとしての話だけど」

「”離れ”って、青栁さん、呼んでたよね。闇虫に取り憑かれた人間が巣くう、謎の村…か」

「行く前からこんなこというのもなんだが、かなりヤバそうな気がしてきた」

 僕が沈んだ声でつぶやくと、

「大丈夫だよ」

 あずみがにっこり笑った。

「お兄ちゃんのことは、あずみが絶対に守ってあげるから」

「それ、反対だろ」

 僕はムッとした。

「妹を守るのは兄の務め。妹に守られるなんて、そんな情けない兄は願い下げだね」

 あずみが吹き出した。

「何がおかしい?」

「う、ううん、なんでもない。あ、それより早く水着買うのつき合ってよ。胸が大きくなりすぎちゃってさ、去年のビキニじゃ、もう入りきらないの」

 入り切らない…?

 僕はあずみの白いワンピースを押し上げる丸い胸の膨らみに目をやった。

 それはそうだろう。と思う。

 同時に疑問がわいてきた。

 それは、

 これが収まる水着が、果たしてこの世に存在するのだろうか…?

 という、ある意味きわめて素朴な疑問だった。






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