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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 80 四凶 其の四 窮奇③

 眼前の風景が壮絶な速さで下へ下へと動き、気がつくと僕は窮奇の真上で宙ぶらりんになっていた。

 黄色に黒の縞のある尾が腰に絡みつき、ものすごい力で締め上げてくる。

 窮奇の怪力で体を真っ二つにされる恐怖に顔をゆがめた時、視野の隅に動くものが見えた。

 サトと光である。

 遮るもののない上空から見下ろすと、周囲の様子が手に取るようにわかった。

 門の近くに、僕が回収し損ねた”あれ”が落ちている。

 そこから十数メートル手前に戻ったあたり、外輪山の対面の岸壁の裾に、玄武の矢を握ったままのあずみの右腕が転がっていた。

 僕の視野に入ってきたのは、光があずみの腕に、サトが”あれ”に駆け寄る姿だった。

 先に目標物にたどり着いたのは光のほうだ。

 あずみの右腕が握った玄武の矢。

 光はそれをあずみの指をこじ開けて回収すると、コートの左袖から取り出したヨーヨーの丸い部分に挟みこんだ。

 光は二刀流である。

 いつもヨーヨーを左右の手にひとつずつ持っている。

 その予備のほうを使おうというわけだ。

 振り向きざま、光が左腕のアンダースローでヨーヨーを投げた。

 ヨーヨーは見えない糸を引きながらあっという間に数メートルを飛び、窮奇の脇腹にぶち当たった。

 そのとたんだった。

 僕の腰に絡みついている魔獣の尾に変化が起きた。

 どこがどうなったのか、具体的にはわからない。

 例えてみれば、こんな感じだろうか。

 魔獣の尻尾をコーティングしていた透明なワックスが、急にパラパラと剥がれ落ちて空中に四散したような、そんな微妙な感触…。

 ヨーヨーに仕込まれた玄武の矢が、窮奇のバリアを破った証拠に違いなかった。

 光が跳ね起きて岩陰のほうに戻るのと入れ替わるように、今度はサトが”あれ”のところに辿りついていた。

「あずみちゃん! その化け物から離れるだ!」

 ”あれ”-。

 すなわち、混沌が残していった混沌砲(カオスキャノン)を右肩に担ぎあげて、サトが叫んだ。

 ナイス連係プレー!

 僕は胸の奥底で快哉を叫んでいた。

 まさしく、持つべきものは、最良の仲間である。

 サトと光は、僕の意図を真っ先にくみ取ってくれたのだ。

「お兄ちゃんに、手を出すな!」

 窮奇の下で、あずみの声がした。

「うわあああああああ!」

 大音量の叫び声とともに、窮奇の頭がせり上がってくる。

 あずみが左腕一本で、下から持ち上げているのだろう。

 尾がのたうち、身体ががくんと高度を下げた。

 あっと思った瞬間、僕は大地に投げ出されていた。

 反転して岸壁のほうに逃げ、身を起こすと、あずみが窮奇の喉を左手で掴み、両脚をくの字に折り曲げて足の裏を魔獣の腹に押し当てているところだった。

「ええいっ!」

 次の一瞬、あずみの裸の下半身がバネのように伸び、窮奇の巨体を蹴り飛ばした。

 外輪山の岩肌に背中から叩きつけられ、ぎゃおう! と魔獣が呻いた。

 その下からあずみが転げ出た瞬間である。

 ボスッと鈍い音が響いた。

 サトが混沌砲をぶっ放したのだ。

 カオスの弾丸が黒い尾を引いて飛んだ。

 窮奇は岸壁に背中を打ちつけて、腹をこちらに曝け出す格好になっている。

 その白い毛皮に覆われた腹に、漆黒の靄がべちゃりと貼りついた。

 激しく身悶えする窮奇。

 その全身を、混沌の靄が見る見るうちに蝕んでいった。

 やがてすっかり黒い煙に包まれると、窮奇は急速に収縮し、最後にポン!と軽い音を残して消えてしまった。

 崖に生えた木の枝が消えたのと同じ現象だった。

 混沌砲の弾丸が、魔獣を深宇宙の星の墓場に引きずり込んでしまったに違いない。

「ありがとう、みんな」

 ふらふらと立ち上がって、あずみが言った。

 映画のフィルムを逆回しするみたいに、だんだんと身体のサイズが元に戻っていく。

 そこに混沌砲を担いだサトと、あずみの右腕を胸に抱えた光が現れた。

 切断された際にひと足早く変身が解けたのか、腕のほうのサイズも元通りになっている。

「あずみちゃん、おつかれさま」

 光が血まみれのあずみを抱きしめた。

「それからサトちゃんとアキラ君も」

「大丈夫か」

 僕はあずみに駆け寄った。

 我ながら愚問だと思った。

 腕が千切れて平気なはずがない。

「あんまり大丈夫じゃないけど」

 光が抱擁を解くと、あずみが僕を見て弱々しく微笑んだ。

「でも、あずみにはお兄ちゃんがいるから、なんとか頑張れたよ」

「あずみ…おまえ」

 その冷たい裸身を抱きしめると、涙があふれてきた。

「さ、まずはいったんキャンプに戻って、あずみちゃんの腕をなんとかしましょう。切断されてまだそんなに時間が経っていないから、アキラ君の奇跡の治癒能力をもってすれば、今ならまだくっつけることができるかもしれない」

 あずみの右腕を大事そうに撫でさすりながら、光が言った。

「きっとうまくいくべ」

 大きくうなずくサト。

「ほら、あずみちゃん、うちの肩につかまるだ」

 僕は目をしばたたかせて、光を見た。

 腕を、くっつける…?

 人形じゃあるまいし…そんなに簡単にいくだろうか?

 が、できるはずだ、と思い直す。

 前回のサバイバルゲームの終盤。

 ルシフェルに溶かされたあずみが、奇跡の復活を遂げた時のことを思い出したのだ。

 あれに比べれば、腕の一本くらい、なんとでもなるに決まっている。

「急ぎましょう。せっかく門が開いたんだし、このチャンスを逃す手はないわ」

 改めて、光が言った。

 その時になってようやく、実感が沸いてきた。

 僕らは、あの四凶を…。

 4頭の魔獣を、すべて倒したのだ。











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