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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 77 四凶 其の参 混沌③

 混沌が、女…?

 僕はあんぐりと口を開けたままだった。

 ありえない。

 開いた口がふさがらないとはこのことだ。

 しかも、なんだ、このアニメから抜け出してきたようなコスチュームは。

 身長は160センチくらいだろうか。

 あずみより少し低めである。

 胸もあずみのほうがひと回り以上大きいが、形の良さはいい勝負だった。

「でも、よく見ると、あんたムチャ可愛いわね。もしかしてあたしの好みかも」

 混沌が、後ろに尻を突き出し、翼のように開いた掌を腰に当て、身を乗り出してあずみのほうを見た。

「あなた、名前、なんていったっけ? えーと、そうそう、確か出雲あずみだよね。こんにちは、あずみちゃん。改めて、初めましてだね。あたし、四凶の紅一点、混沌っていいまーす!」

 ふざけているのだろうか。

 それとも、混沌という名前の通り、頭の中がカオスと化しているのだろうか。

 さすがのあずみも、ただ呆気に取られて緑の髪の美少女を見つめるばかりだ。

 あずみの顔や体をじろじろ眺めながら、その混沌が言った。

「うーん、なんだか殺すの惜しくなっちゃったなあ。いっそここでハグしたいぐらいだよ」

「遠慮させていただきます」

 相手をじっと睨みつけ、あずみがようやく切り返した。

 ふたりが対峙する光景は、ぞくぞくするほどサマになっていた。

 銀色のボディアーマーとショーツに身を包んだ混沌。

 セクシーなブラとパンティだけを身につけて仁王立ちになったあずみ。

 美少女VS美少女の、世紀の対決である。

 できれば記念に写メでも撮っておきたいところだったが、さすがに不謹慎だろうと思い、我慢した。

「あなた、言葉がわかるなら、私のいうことを聞いて。私たちは、この壁の向こうに大事な用があるの。できれば戦わずして通りたい。だからそこを開けてほしい。あなたが通してくれたことは誰にも言わないから。もちろん、あなたの仕えている骨車にも」

 諭すように、あずみが言った。

「気持ちはわかるんだけどねー。でも、そうは問屋がおろさないんだなあ」

 小首をかしげてあずみを下から覗き込むようにしていた混沌が、そう言うなり、ぱっと後ろに飛び退った。

 門の間に黒々とわだかまっている煙みたいなものの真ん中に手を突っ込むと、何か大きな筒のようなものを取り出した。

「ねえ、これなんだかわかる?」

 混沌が筒を肩に担いで、あずみに問いかけた。

「大砲?」

 あずみがじりっと一歩後ろに下がる。

「惜しい!」

 混沌が二カっと笑った。

「これはね、名付けて”カオスキャノン”。ま、漢字表記だと、『混沌砲』とでもいったところなんだけど」

 カオスキャノン?

 混沌砲?

 僕は少女の肩の黒光りする金属製の筒を見つめた。

 それは年代物の大砲に似ていた。

 幕末に、外国船攻撃のため、長州藩が設置した下関砲台の大砲そっくりである。

 南部鉄器でつくった鋳物のようにも見える。

 ますますありえない。

「それと、普通の大砲と、どこが違うの?」

 好奇心旺盛な年頃だからなのか、あずみはのん気にそんなことを訊いている。

 それとも、何か理由があって、時間を稼いでいるのだろうか。

「これはね、たとえばこんなふうに使うの」

 混沌が言って、カオスキャノンなるものの筒先を、対面の崖から伸びた木の枝に向けた。

「行くよ」

 ドンと鈍い音がして、筒から黒い煙の球が飛び出した。

 前後に開いた混沌の足が、衝撃でずずっと後ろに下がった。

 宙を飛んだ煙の球が、木の枝を包み込む。

 そこに、風が吹いた。

 煙が晴れると、木の枝の先が断ち切ったように消えていた。

 ちょうど煙の球に包まれていたあたりである。

「どうなったの?」

「カオスに飲み込まれたのよ」

 混沌が、背後のもやもやを指さした。

「カオスキャノンの球に当たったものは、すべてこのカオスの中に取り込まれるの。そうして二度と出られなくなる。でも、綺麗な方法だと思わない? 血も出ないし、痛くもないしさあ」

「その中はどうなってるの?」

「宇宙のね、ずうっと奥にまでつながってるんだと思うよ。深宇宙の、光も音もない、星の墓場みたいな絶対零度の世界に」

「なんか寒そう」

 あずみが両手で肩を抱いて、ぶるっと身体を震わせた。

「そうだね。あたしもあそこは嫌いだな」

 混沌がキャノンを抱え直して、苦笑した。

「それであなたは、私たちをそれで宇宙の墓場に葬るつもり?」

「そういうことになるかなあ」

 混沌が肩をすくめた。

「骨車さまの命令は絶対だから」

「嫌だと言ったら?」

「うーん、こうするしかないよね」

 混沌が、よっこらしょとかけ声をかけて、キャノン砲をあずみに向けた。

 ドン!

 いきなり発砲した。

 が、その先には、すでにあずみの姿はなかった。

 鳥のような影が一瞬頭上を横切ったかと思うと、次の瞬間、あずみが混沌の背後にすっくと立っていた。

「可愛い女の子にこんなことしたくなかったんだけど」

 混沌の細い首にあずみの腕が巻きついた。

「ごめんね。これも友達を助けるためだから」

 混沌の首のつけ根あたりで、ごきりと鈍い音がした。










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