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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 75 四凶 其の参 混沌➀

「ふう」

 キャンプにしている洞穴に戻ると、あずみはじきに意識を取り戻した。

 見た感じ、今回はそれほどのダメージはないらしい。

 ただ首の周りに紐で絞められたような痣が残っていて、それが見るからに痛々しかった。

 光が敷いてくれたバスマットの上で上体を起こすと、

「やだ」

 自分が全裸であることに気づいて、あずみは頬を朱に染めた。

「あっち向いてて、お兄ちゃん。あんまりじろじろ見ないで」

 何を今更、と思ったけれど、あえて僕はそれには言及せず、あずみのビーナスのそれを思わせる裸身から視線を逸らし、明るい外の世界を眺めた。

 とんでもない夏休みになってしまった、と思う。

 イオンで唯に会って、この荒神島の話を聞いたのは、つい先日のことである。

 それがあれよあれよという間に化け物どもとの戦いに巻き込まれ、気がつくと人が何人も死んでいた。

 今度コースケに会ったら、思いっきり文句を言ってやりたかった。

 そもそも、神は何をしているのだ?

 神が実在するなら、どうしてこんな不条理な出来事ばかり起こるのだ?

 あんたの目的は、いったい何なんだ? 

 そんなことを考えながらぼうっと外を眺めていると、ごそごそ着替える音がして、

「もういいよ」

 僕の背中にあずみが声をかけてきた。

 振り向くと、あずみはパンティとブラジャーだけを身につけ、横坐りの姿勢でこっちを見ていた。

「服はどうせ、すぐ脱がなきゃいけなくなるから」

 泣き笑いのような表情で小さく首を振ると、言い訳するようにそうつぶやいた。

「でも、おまえ、その格好…」

 あずみの下着は、新しいものに替えるたびに面積が狭くなっていくようだった。

 今度のパンティは、腰のところが完全に紐状になっていて、かろうじて局部を隠す役に立っているだけなのだ。

 ブラも下乳を支えるだけの面積しかなく、ピンクの乳輪がほとんど見えそうなくらいカップが浅い。

 下着の色がなまじ白いだけに、たまらなくセクシーに見える。

「ごめん、あとは勝負下着しか残ってなくって…」

 あずみがはにかんだように笑った。

「勝負下着って…誰と勝負するつもりだったんだよ?」

 呆れて問いかけると、

「お兄ちゃんに決まってるでしょ」

 あずみが頬を膨らませた。

「お兄ちゃん、全部終わったら、あずみのこと、愛してくれるって言ったじゃない」

「そ、そうだったな」

 ズボンの前がきつくなり始めていた。

 今更いうまでもないが、僕はあずみを愛している。

 だから、あずみの言葉はどれも嬉しいし、快楽中枢にびんびん響いてくる。

 だが、問題は、今はそんなのどかな会話を交わしている場合ではないということだった。

 その証拠に、後ろでコホンと軽い咳払いが聞こえたかと思うと、光の声がした。

「禁断の語らいはそれくらいにして、あずみちゃん、ちょっと立ってみてくれる?」

「え? あ、はい」

 光に言われた通り、ふらふらとあずみが立ち上がる。

 素晴らしい眺めだった。

 しかし、である。

 外から差し込む陽射しに照らされて陰影が濃くなった分、身体の線がくっきりし過ぎていて、正直とても見ていられない。

 コート姿の光があずみに歩み寄る。

「うーん、思った通りだね」

 肩に手をかけ、あずみの身体を一周回して点検すると、いささか沈んだ声音で光が言った。

「肩と脇腹の傷が開いてきてる。体が大きくなると、傷口に負担がかかるのかもね」

 包帯と湿布は変身すると千切れてしまうから、こうも戦いが続くとゆっくり治している暇もないというわけだ。

「アキラ君、またいいかな?」

 光が剃刀を差し出した。

「まだ耐えられるなら、あずみちゃんに”献血”してあげてくれない?」

「あ、俺なら平気です。あとで何か食べさせてくれるなら」

「そういえば、朝ごはん、まだだったわね」

「こんなものしか、ねえだけど」

 サトがリュックから乾パンとチューブ入りのゼリーを取り出し、すまなさそうに言った。

「OK。それで上等よ。じゃ、アキラ君、これに血を浸してくれる?」

 光から受け取った脱脂綿を膝の上に置き、さっきと同じ要領で、今度は右手首の静脈を切る。

 まるでリスカの常習犯になった気分だった。

 たっぷり鮮血を染み込ませた脱脂綿を二つにちぎり、それぞれをあずみの肩に当てると、光がその上からマジックテープでバツ印に貼った。

「これで少しはもつんじゃないかしら」

「お兄ちゃん、光さん、ありがとう」

 スーパーセクシーボディを惜しげもなく曝したあずみが、ぺこりと可愛らしく頭を下げた。

「さ、あずみちゃんも坐って。朝ごはんにしましょ」

「は、はい」

 サトが食料を4等分してキッチンタオルの上に並べた。

「おまえがいちばんおなかすいてるだろ? これ、やるよ」

 僕は乾パンだけで我慢することにして、栄養ドリンク入りのチューブゼリーをあずみに渡した。

「私のもどうぞ」

 光が自分の分をあずみの前に置く。

「でも…」

 あずみが困ったように僕らを見つめた。

「いいの、私は元々少食だし、アキラ君も少しダイエットしたほうが良さそうだから」

「サトのも食べてくだせえ」

 サトも僕らに習った。

「サトも、ダイエット中だから」

「みんな…」

 あずみがうつむいたまま、つぶやいた。

 丸い肩が震え出し、裸の膝小僧の上に、透明な涙の滴がぽたぽた落ちた。

「終わったらさ、みんなでおいしいもの食べに行こうよ。私がおごってあげるから」

 明るい声で、光が言った。

「いいですね」

 僕はうなずいた。

「ここはやっぱり焼き肉食べ放題ですか」

「賛成だべ」

「その前に、次の混沌戦の対策を」

 真顔に帰って光が言った。

 あずみはよほど腹が減っていたのか、4人分のチューブゼリーを次々に空にしていく。

「まず、その混沌ってのは、どんなやつだべ?」

 サトが訊くと、光が話し始めた。

「混沌ってのはね、たとえばウィキでは、こんなふうに説明されてる。『犬のような姿で長い毛が生えており、爪の無い脚は熊に似ている。目があるが見えず、耳もあるが聞こえない。脚はあるのだが、いつも自分の尻尾を咥えてグルグル回っているだけで前に進むことは無く、空を見ては笑っていたとされる。そして、カオスを司る』と」





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