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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 73 四凶 其の弐 梼杌④

 サトが悲鳴を上げた。

 その悲鳴は次第に泣き声に変わり、最後には号泣となった。

「ひょっとして、さっきの地震で、梼杌(とうこつ)が…?」

 身悶えして泣き叫ぶサトの肩を抱いて、光が言った。

 なるほど…。

 そういうことか。

 僕は、洞穴の入り口に転がる藤野の生首を茫然と眺めながら、心の中でひとりごちた。

 藤野は、眠りから覚めた梼杌(とうこつ)にやられたのだ。

 今の状況からして、それ以外は考えられないではないか。

「ひどいことをしやがる」

 僕は歯ぎしりした。

 胸の底がしんと冷えるような恐怖と、熱く煮えたぎるような怒りの両方が、僕の中で矛盾することなく激しく渦を巻いていた。

「さて、どうするかな」

 コートのポケットから細身のシガレットを取り出すと、一本を薄い唇にくわえ、光がつぶやいた。

「行動に移るのがちょっと遅かったみたいね。今外に出たら、間違いなく梼杌(とうこつ)の餌食になるわ」

 その光のつぶやきに応えるように、洞穴の外で獣じみた咆哮が轟いた。

 びりびりと岸壁が振動し、細かい砂埃が朝陽の中に舞い上がる。

 それは、ライオンの叫び声を何十倍にも増幅したかのような、とてつもなく凶暴な咆哮だった。

「副番頭さが…」

 咆哮が収まると、サトのすすり泣きが聞こえてきた。

 あれほど頼もしかったサトが、今や幼女のように身を震わせ、光の胸に顔をうずめてただひたすら泣きじゃくっている。

 梼杌(とうこつ)を倒すには、サトの弓の腕が必要なのだが、これではうまくいきそうもない。

「お兄ちゃん」

 ふいに肩をつかまれ、僕は現実に引き戻された。

 振り返ると、あずみが包帯に手をかけ、僕を見つめていた。

「ん?」

「あずみが行くから」

 そう宣言するなり、いきなり包帯をずらして、胸を突き出した。

 釣り鐘型の大きな乳房がポロンとこぼれ出し、つんと尖ったふたつの桜色の乳首がぐいと僕のほうを向く。 

「揉んで」

 強い口調であずみが言った。

「え?」

「何度も言わせないで。揉んで、それから吸って」

 それはもはや、有無を言わさぬ命令だった。

「で、でも…」

 僕は耳の付け根まで赤くなり、背後の光とサトをチラ見した。

「でないとあずみ、負けちゃうよ」

 真顔であずみが言いつのる。

「いいから、やりなさい」

 光の声がした。

「見ないふりしててあげるから、アキラ君、あずみちゃんの言う通りにしてあげて」

「は、はあ」

 光のお墨付きとあれば、しかたなかった。

 僕は、若干左右を向いて突き出ているあずみの乳房にそっと顔を近づけた。

 いい匂いがした。

 幻臭なのかもしれないが、あずみの乳房はほのかなミルクの匂いがするのだ。

 人差し指の腹で左の蕾に触れると、

「あんっ」

 あずみが喉の奥から甘い声を漏らした。

 掌をかぶせ、熱い肉を5本の指でゆっくりと揉みしだく。

「あふぅ」

 あずみの息が荒くなる。

 掌からはみ出るほど大きなその乳房には芯といえるものがなく、どこまで揉んでもひどくやわらかい。

「…こっちも、お願い」

 あずみが右の乳房を指さした。

 まだ触れてもいないのに硬く尖っている乳首を、おもむろに舌で舐めてやる。

「い、いい…」

 あずみが喘ぎ、胸を更に突き出してきた。

 乳首を口に含み、飴玉を舐めるように舌先で乳頭を転げ回す。

「だ、だめ…」

 と、耐えかねたように、スカートの上から股間を押さえ、あずみがぱっと後退した。

 濡れたような瞳で僕を睨みつけると、

「んもう、お兄ちゃん、上手(うま)過ぎだよ」

 突然、怒ったように言った。

「どこで練習したの? ひょっとして、浮気してるんじゃない?」

「はあ?」

「きのう、触ってもらった時も、おかしいと思ったんだ。なんだか、すっごく慣れてる感じだったんだもの。さては…あずみのほかに、彼女いるんでしょ?」

 不思議なことに、本気で怒っているようだ。

「ていうか、おまえは妹だし…」

 言わずもがなのことをつい口走ったのが、まずかった。

「あー、白状したね。ひどいよ、お兄ちゃんったら、ひどい!」

 長いまつ毛に縁どられたあずみの瞳に、ぼわっと涙の粒が盛り上がる。

「他の女に触った手で、あずみの大事な所触るなんて! お兄ちゃんったら、けがらわしい!」

 僕は呆気にとられた。

 どうしてこうなるのだ?

 僕が何をした?

 言われた通り、ちょっと気持ちよくしてやっただけじゃないか…?

「ば、馬鹿な。誰もそんなこと言ってないだろ?」

 泡を食って言い返した時、光の冷たい叱責が飛んできた。

「ちょっと何してんのよ、あんたたち。藤野さんの遺体の前で痴話喧嘩? いい加減にしなさい。少しはサトちゃんの気持ちも考えてあげなよ」

「ごめんなさい」

 あずみがうなだれた。

 そして僕をじろりとひと睨みしてから、泣きじゃくるサトに歩み寄ると、

「サトさんごめんね。でも、あずみが藤野さんの仇、必ず討つから」

 サトの足元の矢筒から赤い矢を取り上げた。

 梼杌の結界を破る、朱雀の矢である。

「これ、借りるね」

 サトの肩をそっと抱くと、涙で濡れたサトの頬に、自分の頬をくっつけた。

 役に立つとは思えなかったが、僕もリュックからM&Wを引っ張り出し、弾倉を点検した。

 残ったマグナム弾は2発。

 予備弾倉に6発あるものの、のちのことを考えると無駄遣いは禁物だ。

 勝機があるとすれば、朱雀の矢で梼杌のバリアが破られた後だが、あずみの助力なしで弾を的に当てる自信は正直なところ、これっぽっちもない。

 しかし、と思う。

 あずみひとりに行かせるわけにはいかないのだ。

 なぜって、あずみの身は、僕が守ると決めたのだから。

 非力でヘタレな僕だが、非力でヘタレなりに何かできることはあるはずだ。

 そうではないか?



 あずみがスカートを脱ぎ、下着姿になった。

 正確に言うと、上半身はすでに裸になっているので、小さなパンティ一枚の超セクシースタイルである。

 妹の名誉のためにひと言申し添えておくと、これは彼女が露出狂だからではない。

 魔獣と互角に戦えるサイズに変身するためなのだ。

「あずみ、気をつけろ。まだ肩の傷は治り切ってないんだからな」

 何か言わずにはいられなくなり、朝陽をオーラのように(まと)った神々しい裸身に向かって、僕はそう声をかけた。

「ふんだ」

 あずみがつんとそっぽを向いた。

 絶対許さないから。

 と、横顔が主張している。

 仕方なく、光たちに聞こえないくらいの小声で、僕は囁いた。

「しょうがない。俺の秘密を、教えてやる。俺の『おっぱいマッサージ』の練習台はな、あずみ、おまえなんだ。おまえが寝てる間に、いつも我慢できなくなって、それでつい…。だから、残念ながら、カノジョなんていないんだよ。おまえ以外にはね」

 その瞬間だった。

 あずみの表情が、ぱっと明るくなった。

 ちょうどそこだけ、陽が射したみたいに。

 そして、胸の前で両手を組むと、ぴょんと飛び上がった。

「そうなんだ!」

 少女漫画のキャラみたいに、瞳に星が飛んでいる。

 藤野さん、悪い。

 あずみの後ろに転がる生首に向かって、僕は胸の底深くでつぶやいた。

 この自己中な小娘を許してやってくれ。

 でも、あんたの仇なら、彼女が必ず討ってくれると思うから…。






















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