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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 69 四凶 其の壱 饕餮⑥

 僕の舌先で、あずみの乳首が硬くなっていくのがわかった。

 指でつまんでいるほうも見る間に大きくなり、ピンク色がより濃くなっているようだ。

 同時にあずみの全身に力が漲り始めた。

 よじり合わさった縄のように、上腕部と太腿に太い筋肉の束が浮き出てきた。

「うううやあ!」

 あずみが右肩を饕餮の下顎に当て、すごい力で押し上げた。

 あずみの肩から牙が外れ、ひときわ激しく血しぶきが吹き出した。

「負けないっ!」

 饕餮の上顎を左手につかむと、あずみが大きく右腕を肩の高さに振りかぶる。

 続いて繰り出したストレートは、しかし、怪物の口の中の顔を捕らえる寸前で止まってしまっていた。

 バリアである。

 おそらくあずみは口の中の真の貌を攻撃することで、バリアを解除しようと考えたのだろう。

 が、いかんせん、その顏すらもバリアで保護されてしまっているのだった。

 ぐおおおおっ!

 饕餮が吼え、あずみの上にのしかかる。

 体勢を崩し、地面に仰向けに倒れ込むあずみ。

 僕は間一髪のところで飛びのくと、背後のサトを振り返って叫んだ。

「サト、今だ! 白虎の矢だ!」

「え?」

 混乱したサトの返事が聞こえてきた。

「だども、まだ弱点の目ん玉、出てきてねえだ」

「いいから撃つんだ! バリアさえ消えれば、後はあずみがなんとかするから!」

「ほ、ほい」

 弓を構えるサト。

 たくましい右腕で、矢をつがえた弦をぎりぎりとひきしぼる。

 シュッと空気を切る音がして、放たれた矢が放物線を描いて宙を飛んだ。

 サトの狙いは正確だった。

 矢が饕餮の大きいほうの口の鼻面に、垂直に突き立った。

 その瞬間、饕餮の全身が突然ぼうっと燐光に包まれた。

 そのおぼろな輝きが消えると同時に、

「もーらいっ!」

 あずみが高らかに叫んだ。

 仰向けのまま右腕を伸ばすと、饕餮の口の中に突っ込んだ。

 ぐしゃ。

 肉のひしゃげる音が響いた。

 次にあずみが引きずりだしたのは、潰れた青い鬼の頭だった。

 林檎をも軽く砕く握力で、怪物の頭部を一気に握り潰したのに違いない。

 馬がいななくような声を上げて、饕餮が後ろ足で立ち上がった。

 転がるようにその下から這い出るあずみ。

 とっさに体勢を立て直したその右手には、怪物の鼻面から抜いた白虎の矢を握っている。

「とりゃ!」

 立ち上がるなり、強烈な回し蹴りを放った。

 あずみのつま先が饕餮の脇腹の袋に突き刺さる。

 どっと黝い体液が吹き出して、ベロリと皮が垂れ下がった。

 その下から現れたものを見て、光がつぶやいた。

「あれだね。饕餮の”わきの下にある目”って」

「あずみ! 眼だ!」

 僕は叫んだ。

「白虎の矢で、あの目を狙うんだ!」

「はあい」

 明るくそう返事をするなり、腰をかがめ、あずみがジャンプした。

 しなやかな裸身が伸び、奇跡のように宙を飛ぶ。

 あずみの姿を見失い、怪物の動きが一瞬止まった。

 次の瞬間、あずみは饕餮の背後に着地していた。

 逆手に白虎の矢を握り、大きく振りかぶる。

 饕餮がその気配に気づいて振り返るのと、あずみの腕が垂直に振り下ろされるのとが、ほとんど同時だった。

 何かが爆ぜるような音がして、饕餮のわき腹あたりから体液が噴出した。

 見ると、右の前足のつけ根あたりから、潰れた白い眼球が垂れ下がっている。

 バレーボールほどもありそうな、特大の目玉だった。

 それをあずみが、神経線維ごとひきちぎった。

 紐みたいな視神経の先を握ってぶんぶん振り回すと、

「飛んでけ!」

 ハンマー投げよろしく、崖の上に放り投げた。

 目玉と頭部を失くした饕餮は、もはや剥製のようなものだった。

 ただ4本足で突っ立っているだけで、びくとも動かない。

「やったね」

 光が言った。

「さすがあずみちゃん」

 あずみが戻ってきた。

 足を進めるたびに身体のサイズが小さくなり、遠近法の絵画の中から抜け出てきたみたいに、僕の前に立つと元の身長に戻っていた。

 変身が解けた直後だから、もちろん一糸まとわぬオールヌードである。

「お兄ちゃん、それからサトさん、光さんも、ほんとにありがとう」

 泣き笑いのような表情で言うと、あずみがぺこりと頭を下げた。

「藤野さんも来てくれたんだ」

 あずみの裸体をセーラー服で隠しながら、僕は言った。

「お、おう」

 照れくさそうに声をかけたのは、その藤野である。

「なんでもいいけど、早く服着ろよ」

 困ったような表情をして、苦笑いする。

「いったんキャンプに戻りましょう。まずはあずみちゃんの怪我の手当てをしなきゃね。とりあえず入り口は確保できたから、後は急ぐ必要もなさそうだし」

 光の言葉に、僕はあずみを抱きかかえたまま饕餮の出てきたほうを見た。

 外輪山の一部に埋め込まれた2本の門柱の間に、アフリカ象が通れるほどの大きな穴が開いている。

 中は暗くて見えないが、あそこを通り抜けさえすれば、唯と一平に会えるのだ。

「あずみのことはいいの。こんなの大した怪我じゃないから」

 そう言いつつも、僕の腕の中であずみは小刻みに体を震わせている。

 両肩の血は乾き始めているが、痛々しいほどひどく皮膚が裂けていた。

「できれば暗いうちに先に進んでおきたかったけど、あずみちゃんがいなければ、計画自体無理だから」

 光がなだめるようにそう言った時である。

 突然、足元が揺れた。

 地震?

 僕はぎゅっとあずみを抱きしめた。

「お、おい、あれを見ろ! 外輪山が!」

 岩壁のほうを指さして、藤野が叫んだ。

 その声につられてこうべをめぐらせた僕は、見た。

 外輪山が、動いている。

 岸壁が、ゆっくりとスライドしていくのだ。

「これは…つまり、そういうことなのね」

 その信じがたい光景を眺めながら、光がうんざりしたような口調でつぶやいた。

「私たち、あくまであと3匹とも、戦わなくてはならないんだわ」

















 
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