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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 6 因習の島③

 荒神島へ同行するための条件として、僕があずみに提示したのは、以下の5ヶ条である。

①裸同然の格好で、家の中をうろうろしない。

②夜中に勝手に僕のベッドに入ってこない。

③僕が入浴中に、勝手に風呂に入ってこない。

④僕の勉強中は、何があっても話しかけてこない。

⑤起きているときは、必ずブラジャーをつける。



「えー! こんなの、いくらなんでも厳しすぎるでしょ!」

 B4サイズの紙にマジックで書いてキッチンの壁に貼り出すと、早速あずみはぷうっと頬を膨らませた。

「特に②から④はどういうことなの? これじゃ、愛し合う者同士、一つ屋根の下に居る意味ないじゃない!」

「いいか、よく聞け」

 僕らはいつものように、キッチンの丸いテーブルをはさんで向かい合っていた。

 青柳氏と交代して、家に帰ってきたのは午後9時過ぎ。

 それから更に1時間は経っているから、正直腹も空いたし、疲れてもいた。

「確かに血はつながっていないけど、俺とおまえは兄妹なんだぞ。愛し合う者同士って、新婚夫婦じゃないんだから、ここは兄と妹としての一線というものを、もう一度確認…」

「あのね、お兄ちゃん」

 両肘をテーブルにつき、チューリップの花の形に開いた両掌の上に顎を乗せて、あずみが僕を睨んだ。

「そんなふうにやせ我慢ばかりしてて、人生楽しい? そんなんじゃ、早死にしちゃうよ? だいたい、お兄ちゃんだって、ほんとは喜んでるくせに。あずみがベッドにもぐりこむと、寝ぼけたふりしておっぱい触ってくるし、この前お風呂一緒に入った時なんか、あずみの裸見た途端、ちゃんとあっちのほうも健康的に反応…」

「おっと、それ以上言うんじゃない」

 僕は椅子を鳴らして立ち上がった。

「もうその話はよそう。あずみ、おまえ、空腹で気が立ってるんだ。今から何か作ってやるから、俺が呼ぶまでおとなしく自分の部屋で待ってろ。いいな」

「ふああい」

 あずみの好物は、肉である。

 本来は生肉がいちばん好きらしいのだが、それではいくらなんでもアレなので、僕が適当に調理してやることにしている。

 僕が妹に勝っているのは、料理ができる、というただ一点なのだ。

 カレーを煮込みながら、ふと思い立ってスマホを取り出した。

 かけた先は、高校の時の同級生、洗場由紀夫の番号だった。

 いつものように、ツーコールで相手が出た。

『なんだアキラか』

 これまたいつものように、愛想のない声で由紀夫がいった。

 由紀夫とは、高校だけでなく、小学校も中学校も一緒だったという、いわば腐れ縁の仲である。

 といっても、親友というわけでもない。

 なんとなくつるんでいた仲間の中に、由紀夫もいたという程度の間柄だ。

 由紀夫は現在、東京大学理工学部の2年生。

 コンプレックスを必要以上に刺激されるので、できるだけ接点を持たないようにしているのだが、由紀夫は僕にとって貴重な情報源だ。

 本人が東大生ということもさりながら、父親が霞が関の高級官僚なのだ。

 だから、Wikに載っていないこともいろいろ知っている。

「あのさ、由紀夫、おまえの父ちゃん、確か国土交通省だったよな」

『まあそうだが、いきなり何だ?』

「だったら息子のおまえも日本地理に詳しいはずだよな」

『おそらくアキラ、おまえよりはな』

「伊勢湾にある、荒神島って聞いたことあるか?」

 ふいに由紀夫が黙り込んだ。

「もしもーし、聞いてるか?」

『アキラ、おまえさ、何かヤバいことに首突っ込んでない?』

 ややあって、囁くような口調で由紀夫が言った。

「ヤバいこと?」

 ”闇虫”だの”離れ”だののことを言っているのだろうか。

 だとすれば、意外に有名な島なのかもしれない。

「報道管制が敷かれててな、テレビのニュースにはなってないんだけど、実はおまえのいう荒神島って、マスコミ関係者や識者の間では結構ヤバいって有名なんだよ』

 識者というのが誰を指すのかイマイチぴんとこなかったが、そうか、やっぱり有名なのか。

「だからどういうふうにだよ」

『去年の今頃だったかな、心霊スポット探検を売りにするローカル局のTVクルーがあの島に撮影に行ったんだが、5人のうち4人が行方不明。たったひとり生還したリポーターの女性も、病院で狂い死にしたらしい』

「…おまえ、やけに詳しいな」

 僕は背筋に氷の塊を当てられたように、ぞくっとなった。

『こう見えても俺、東大のオカルト研副部長だから』

「東大にそんなくだらないものがあるのか」

『あるよ。オカルトは別にくだらなくはない。いわば人類のロマンだ』

「まあ、それはいいとして、またなんで報道管制なんだ」

『生き残ったレポーターなんだが、狂い死にというか、ゾンビみたいなものに変身して暴れ出したんで、それで警官に撃ち殺されたらしいんだ』

「ゾンビ?」

『ゾンビも頭を撃てば、死ぬ』

「いや、そういうことじゃなくて…」

『だって、考えてもみろ。この世にゾンビが実在するなんてことが世間に知れたら、それこそ大パニックだろう。それでいち早く政府機関が動いたのさ』

 むう。

 僕は呻いた。

 確かに僕らがきょう、イオンで出くわしたのもゾンビみたいなこの世の者ならぬ存在である。

 ということは、トラックにあれが轢かれた事件も、報道管制でニュースにならなかった可能性もある。

『それで俺も少し調べてみたんだが、そしたら色々わかってきたことがあってな』

「もったいぶらずに、早く教えろって」

『四神って、知ってるか?』

「朱雀や玄武っていう、神獣のこと? 古代の都を守ったっていう」

『そう。風水の陰陽五行説だな。元は中国なんだが、日本でも平城京や平安京には応用されていた』

「それがどうしたんだ?」

『じゃ、四凶って知ってるか?』

「シキョウ? 何だそれ」

『四神に対立する概念。つまり、人類に害を為すもの』

「ほう…」

 初耳だったが、なんとなくいやな予感がした。

 すると由紀夫が、僕のその予感をことばにするような感じで、言った。

『荒神島は、どうやらその”四凶”に守られているらしいんだ」















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