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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 67 四凶 其の壱 饕餮④

 エンジン音だった。

 それから、激しく空気の吹き出す音。

 風が巻き起こったかと思うと、サーチライトがあたりを昼間のように照らし出した。

 光の輪の中に、饕餮の牙で肩を串刺しにされ、がっくりと膝をついたあずみの裸身が浮かび上がった。

 血まみれになりながらも、しかし、あずみは怪物の胴を抱え込んだまま、一歩も引こうとしない。

「副番頭さだ」

 サトの声が聞こえて振り向くと、例のホバーバイクが背後の崖のへりから現れ、垂直に下降してくるところだった。

 僕らが通り抜けてきた鍾乳洞の上。

 人の足では踏破不能のガレ場を、副番頭の藤野がホバーバイクで飛んできたというわけだ。

「間に合ったか」

 危なげない操作でバイクを着地させると、胡麻塩頭を汗で光らせた藤野がさっそうと飛び降りた。

「あずみちゃんが大変だべ」

 サトが藤野にすがりついた。

「副番頭さ、なんとかしてくだせえ」

「あ、ああ」

 藤野は饕餮と四つに組んだあずみに目をやると、

「し、しかし、こりゃ、いったいどうなってるんだ?」

 呆気にとられたように、大きく目を見開いた。

「あの子、どうして裸で…。しかも、身体が…」

「詳しく説明してる暇はないんだけど、あずみちゃんは特異体質なのよ。ああして巨大化して、私たちを守ってくれてるってわけ」

 苛立ちの混じった口調で、光が言った。

「なのに私たちには、情けないことに、なすすべがないときてる」

「あの水牛みたいなのが、饕餮だな」

 藤野がつぶやき、背中の布袋を下ろした。

「俺が遅れた理由はサトが話してくれたと思うが…お館様たちがな、思い出してくれたんだ」

「思い出すって、何をですか?」

 すぐそこで苦しんでいるあずみのことが気になってならなかったが、藁にもすがる思いで、僕は尋ねた。

 何十年もの間、離れや骨車と向き合ってきたあのふたりの老婆なら、何か知っているに違いない。

 そんな考えが、ふと脳裏をかすめたからだった。

「おふたりに言わせると、四凶には、ふつうの武器は効かないそうだ。。まずこいつで弱らせてからでないと」

 藤野が眼の高さに掲げたのは、4本の矢だった。

 青、赤、茶、白の4色に塗り分けられた、古色蒼然とした矢である。

「ホテル中探し回ったが、何のことはない、四神の間の、屏風の中に埋め込まれていたよ。これも例の虚空上人が残していったものらしい」

 四神とは、四凶の対立概念。

 古代中国で、都を守るとされた4頭の神獣である。

 東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武。

 現代の日本では、風水の守り神というより、ゲームやアニメの小ネタとしてのほうが有名だろう。

「つまり、この矢が、四凶を弱らせると?」

「ああ。ただし、使い方を間違えると、まったく意味がなくなってしまうそうだ」

「使い方、ですか?」

 矢といえば、ただ弓ににつがえて放つだけではないのか。

 ほかにどんな使い方があるというのだろう?

「おそらく、対応する相手を間違えちゃダメ、ということでしょうね」

 尖った顎を指で撫でさすりながら、光が言った。

 アルビノ特有の赤い眼で、興味深そうに4本の矢を観察している。

「そしてもうひとつ、狙うのは弱点である部位に限る。たぶんそんなところじゃないかしら」

「さすが光さんだな。お館様にあらかじめ聞いてて、前から知ってたんじゃねえかと思ったぜ」

 感心したように藤野が光を見た。

「そんなのちょっと考えればわかることでしょ」

 光はにこりともせず手を伸ばすと、藤野の手から白い矢を取った。

「西の饕餮には、西の白虎。狙うのは饕餮の腋の下の眼。まずこれで間違いないはず」

「だよな」

 藤野が我が意を得たりとばかりにうなずいた。

「おらの出番だべ」

 サトが前に進み出た。

「そうね」

 光がサトに白虎の矢を渡す。

「これはサトちゃん、あなたにしかできないことだから。頼んだわよ」

「でも、ひとつ問題が」

 たまらず僕は横から口を挟んだ。

「わきの下にあるっていう饕餮の”眼”。まだ外に現れてないよ。いくらサトが名人でも、あれじゃ狙いようがないと思うんだけど」

 そうなのだ。

 饕餮の脇腹には、大きな肉の袋みたいなものがぶら下がっていて、目らしきものが見えないのである。

「矢は1本しかないから、失敗は許されない」

 藤野がうなずいた。

「あずみちゃんに頼むしかないわね。アキラ君、あなたの仕事よ」

「仕事?」

「あずみちゃんに呼びかけて、彼女の注意を饕餮の腋の下に向けさせるの」

 光が言った。

「どんなときでも、あなたの声だけは、彼女の耳に届くから」




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