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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第5章 四凶

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scene 65 四凶 其の壱 饕餮②

饕餮(とうてつとは、

『春秋左氏伝』では、渾沌、窮奇、檮杌と共に「四凶」のひとつに数えられる。

『神異経』では、性格は凶悪で、財を蓄えることを好み、よく人の物を奪うとある。

また、『呂氏春秋』では、有首無身で人間を食うとあり、明の時代には竜が生んだ九つの子、竜生九子のひとつと考えられるようになった。

 更に『三才図会』によれば、饕餮は鉤吾山に棲み、羊身人面で目は脇の下にあり、歯は虎、爪は人のごとく、鳴き声は嬰児のようで人を食うという。

 ま、ネットで調べたところによると、とうてつについての情報はこんなところかな」

 外輪山に沿い、西に向かって歩きながら、光が説明した。

 右手に聳えるその壁は近くで見ると思ったより高く、ひと目で登攀不可能とわかった。

 上に行くに従って岩肌がオーバーハング気味にこちらに張り出してきているので、途中まで登れたとしてもそこを越えるのはどう見ても無理そうなのだ。

 あるいはあずみならあの”最終手段”を使って外輪山を超えることはできるのかもしれないが、本人には今のところその気はないようだった。

 とりあえず、最初の計画通り、一番弱そうな”とうてつ”を倒して、カルデラへの通路を確保するしかなさそうである。

「なんかよくわかんないですね。やっぱりわきの下に目があるってとこしか覚えられない」

 クスクス笑ってあずみが言う。

 いくら身体能力のスペックが高く、外見がスーパーセクシーでも、中身は所詮まだ15歳の少女なのだ。

 いわゆる、『箸が転んでもおかしい年頃』というやつなのだろう。

「笑ってる場合じゃないかもよ。ほら、見えてきた」

 光が指さしたのは、前方にある岩の出っ張りだった。

 まだキャンプ地から15分ほどしか歩いていない。

 日はまさに暮れようとしていて、水平に近く射し込むオレンジ色の光が、その岩の塊を夕闇の中にくっきりと浮かび上がらせていた。

「あれが、とうてつ…?」

 僕はつぶやいた。

 なるほど、目を凝らしてみると、どこか獣の横顔のように見える。

 地上から高さ5メートルほどのところに、狛犬の頭のようなものがにょっきり突き出ているのだ。

「生きてるのかな」

 後ろ手に僕の手を握ったまま立ち止まると、しげしげとその石像の横顔を眺め渡しながら、あずみがつぶやいた。

「さあね。でも、生きてるにしても死んでるにしても、邪魔であることに違いはないようね。あれを排除しないことには、私たちは先に進めない」

 しかめっ面で光が言った。

 足音を忍ばせて、正面に回ってみる。

 なるほど、とうてつは通路の入り口にすっぽりはまり込んでいるらしく、その身体を囲むようにして両側に石柱が二本立っている。

 ちょうど岩肌に埋め込まれた神社の鳥居の中央に、石像の胴体がはまり込んでいるような具合だった。

 西の”とうてつの門”とは、このことだったのだ。

「どうすべ?」

 腕組みして難しい表情で黙り込んでいる光を見上げて、サトがたずねた。

「もう暗くなってきたから、いったんキャンプに戻って明日出直してくるだか?」

 サトの言うことにも一理ある。

 短時間でかたがつけばいいが、そうでなかった場合、視界がきかない中での闘いは明らかに僕らにとって不利だろう。

 闇夜でも目が見えるのは、あずみひとりなのだから。

「ただ、逆の考え方もあるわね」

 腕組みを解いて僕らのほうに振り返ると、光が言った。

「もしここでとうてつを倒して中に入ることができれば、闇に紛れて行動できる。はたして白昼堂々潜入するのが、得策かどうか」

「そりゃそうだども…」

「まず、サトちゃんの弓で様子を見てみたらどう? それでだめなら、お兄ちゃんのマグナムで、バーン! ってのは?」

 いいこと思いついた、といった口調で、あずみが横から口を出す。 

「で、とうてつが出てきて、入り口に隙間ができたら、そこから速攻で中に入る。そうすれば、戦わずに向こう側に行けるんじゃない?」

「ああ、それいいかもな」

 僕はあずみに賛同の意を表明した。

 戦わずして目的を遂げられるなら、それに越したことはないではないか。

「やってみてもいいけど、そんなにうまくいくかしらね」

 光が気乗りのしない口調で言う。

「試すだけなら」

 サトはすでに弓矢の準備をしている。

「おらは別にかまわねす」

「じゃ、サトちゃん、お願い」

「ほいよ」

 サトが安定した姿勢で弓を構えた。

 矢の先を石像に向けて、頬の所まできりきりと弦を絞る。

 いっぱいまで絞り切ったところで、手を離した。

 ひゅっという風切り音とともに、細く黒い影が飛んだ。

 カン。

 当たった。

 が、そこまでだった。

 矢は簡単に弾かれると、二つに折れて地面に落ちた。

「完全に石になってるだべ。矢が通らねえだ」

 弓を下ろしてサトがため息をつく。

「しょうがないわね。次、アキラ君、頼んだわ」

「わ、わかった」

 僕はリュックを足元に置き、口を緩めてメタリックな輝きを放つS&Wを取り出した。

「あずみ、サポート、頼む」

「うん!」

 あずみが後ろから抱きついてきて、僕らは例の二人羽織の体勢を取った。

 3発撃ったから、だいぶ慣れてきた。

 銃を構えても、手が震えることがなくなったのだ。

 オートロック、解除。

 ターゲット、ロックオン。

 トリガーに人差し指をかけ、

「ファイア!」

 あずみのかけ声に合わせて、思いっきり引いた。

 ズドン!

 トラックがぶつかってきたような衝撃を、背後の特大Wエアクッションが吸収する。

 砂埃が舞い上がり、石像の頭部が砕け散った。

 と、だしぬけに奇妙な声が響き渡った。

 んぎゃあ。

 それはどこか赤ん坊の泣き声に似ていた。

 岩壁が揺れた。

 ばらばらと小石が落ちてくる。

 ふんぎゃあ!

 また鳴き声がしたかと思うと、とうてつが動き始めた。

 門からせり出してくる。

 身体から石や土が雪崩のように落ち、全体が現れてきた。

 予想以上にでかい。

「待ってよ」

 光がうめくのが聞こえてきた。

「何よこれ。話が違う」

「ですよね」

 とこれはあずみ。

「誰よ。とうてつは弱そうだ、なんて言ったの」











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