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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 61 荒神アンダーグラウンド⑱

「いったいありゃ、なんだべさ?」

 サトが弓を下ろして、不思議そうにつぶやいた。

 湿地帯の奥に、何か途方もなく大きなものがそびえ立っている。

 一見したところ、それはこげ茶色の塔のようにみえた。

 鍾乳洞の天井にてっぺんが触れそうなほど、でかい。

 送電線の鉄塔ほどもあるそれは、しかしよく見ると肉でできていた。

 その疣だらけの表面を、糊のような粘液がどろどろとしたたり落ちている。

「あずみには、なんだかナメクジみたいに見えるけど」

 あずみが率直な感想を述べると、

「というより、あれはカタツムリだね。背中に貝殻背負ってるもの」

 首に下げていた双眼鏡を両目に当てて、光がつぶやいた。

 あれがカタツムリ…?

 胃の腑から酸っぱいものがこみ上げてきた。

 なるほど、鉄塔のような胴体の後ろに、中心に向けて螺旋を描いた丸い殻が見える。

 それにしても、と思う。

 いくらなんでもでかすぎる。

 これじゃ、建築現場で見かけるガントリークレーンも真っ青だ。

 その化け物蝸牛は、僕らのほうに向かって、今しもゆっくりと動き出そうとしているところだった。

「なるほどね、やっぱりあれがゾンビたちを操っているんだわ」

 双眼鏡で怪物の動きを追いながら、光が言った。

「胴の表面から透明な細い血管みたいなものがいっぱい生えてるんだけど、どうやらそれがゾンビ一匹一匹につながってるみたい」

 僕は周囲に散乱している泥人形たちのなれの果てに目をやった。

 確かにどの死体も、首筋や背中に糸蒟蒻みたいな極細の触手がくっついていて、その先は沼の中に消えている。

「この人たち、マリオネットみたいなものだったのね」

 あずみが言った。

「許せない。死体をこんなふうに弄ぶなんて」

 大きな目が、怒りできりりと吊り上がっている。

 止める間もなく、ダっと駆け出した。

 お化け蝸牛に向かって伸びる畦道を、飛ぶような速さで走っていく。

「あ、あずみ、おいって」

 僕は仕方なく後を追った。

 あずみは見かけよりはるかに重い。

 だから彼女が走った後は、土に穴が開いてでこぼこになっていた。

 あずみは立ちふさがるゾンビたちをなぎ倒し、時には一撃で撲殺しながら疾風のごとく駆けていく。

 そのため僕は死体の山をよけながた後をついて行かねばならなかった。

 怪物が見る見るうちに近づいてくる。

 近くで見るその表皮は、山蛭(ヤマビル)のそれのようにざらざらしていて気色悪い。

 その上を得体の知れぬ粘液が滴っているのだから尚更だ。

 あずみは怪物にぶつかる手前で地を蹴って飛び上がると、

「だっしゃあ!」

 気合いとともに半回転して、猛烈な後ろ回し蹴りを放った。

 アフリカゾウをも一撃で倒す必殺技である。

 頑丈な登山靴のつま先が化け物の胴の中央部を捕らえ、そこを中心に表面がぐにゃりと陥没する。

 が、次の瞬間、信じられないことが起こった。

 あずみがぼよんと跳ね返され、僕らのほうに吹っ飛ばされてきたのである。

「うわ」

 僕は飛んできたあずみを抱きかかえる格好になり、その衝撃に耐え切れず背中から地面にひっくり返りそうになった。

 その僕を、かろうじて背後から抱きとめてくれたのは、サトである。

「大丈夫だべか、あずみちゃん」

「あー、びっくりした」

 僕に抱かれたままの姿勢で、あずみが言った。

「あいつ、まるでゴムだよ。打撃系の攻撃は効かないみたいだね」

「なら、うちの番だべ」

 サトが弓に矢をつがえ、化け物の頭部に狙いをつける。

 化け物の頭部には、目玉が先についた触角が二本突き出している。

 それを狙い撃ちするつもりらしかった。

「サトちゃん、がんばって!」

 あずみの声援をかき消すように、空を切って矢が飛んだ。

「おお」

 僕は感心した。

 さすが高校弓道全国大会出場の腕前だ。

 サトの逞しい腕から放たれた矢が、あやまたず片方の触角を打ち抜いて、見事目玉を弾き飛ばしたのだ。

「すごい! サトちゃん!」

 あずみが手を叩いて飛び上がる。

 だが、サトは冷静だった。

「喜ぶのはまだ早えだ」

 化け物を見上げたまま、そうひとりごちた。

「え? どういうこと?」

 きょとんとするあずみに、

「あれを見るだべ。様子が変だが」

 サトの言いたいことはすぐにわかった。

 目玉を片方弾き飛ばされたというのに、怪物は動揺する気配もない。

 それもそのはずだった。

「あ、また生えてきた」

 あずみが呆然とつぶやいた通り、

 見る見るうちにちぎれた触角が伸びたかと思うと、ぷっくりと先が膨らみ始め、あっというまに目玉が再生したのである。

「打つ手がねえべ」

 サトが呻くように言った。

「うーん」

 珍しく、黙り込むあずみ。

 万事休すとはこのことである。

 打撃も貫通も効かない相手の登場だった。

「なんかないかな」

 あずみが口を開いた時だった。

 ふいに光の声がした。

「3人とも戻って。準備完了よ」
















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