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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

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scene 59 荒神アンダーグラウンド⑯

 滝を抜けたところにある洞窟は、直径3メートルほどの円筒形をしていて、所々で枝分かれしていた。

 こんなところで役に立つのは警察犬顔負けのあずみの嗅覚である。

 おまけにあずみは薄明りの中でも昼間同様に視界が利くらしく、分岐点にさしかかるたびに、
「あ、こっちこっち」
 と、ほとんど迷うことなく行く先を決めていった。

 出口へと続く道には、臭いがかすかに残っている。

 そう。

 かつてここを足繫く行き来していた、闇虫や闇虫に取り憑かれた外道どもの臭い。

 それをあずみは、的確に嗅ぎ分けられるというわけだった。

 そのうえあずみは10.0という驚異的な視力の持ち主である。

 外道どもの通った後にはまれに服の切れ端や足跡が残されており、あずみはそうした証拠をも見逃さなかった。

 おかげで、あの巨大蝦蟇の襲撃以来特に障害物に出くわすこともなく、僕らは順調に行程を伸ばすことができた。

 そのうちに隧道はだんだんと広くなっていき、1時間も歩くと明るい平地みたいなところに出た。

「意外に短かったべ」

 サトがため息混じりにつぶやいたのもむべなるかな、見ると、ずっと先に出口が見えていて、外の光が内部に差し込んできている。

「うーん」

 難しい顔つきで唸ったのは、光である。

「こんなにあっさり抜けちゃっていいのかな。干潮の時間さえ選べば、滝を越えるのは雑作もないことだし、第一ほら、アキラ君が言ってたテレビ局のクルーの話はどうなったの? あのでっかいヒキガエル一匹で、気が狂うほど取り乱したりするかしら? まあ、確かにクルーの人数が減ったのは、あれに食べられたからだって考えられないこともないけれど」

 言われてみればその通りである。

 島に渡って行方不明になったテレビクルーの唯一の生き残りの女性は、救出後、運び込まれた先の病院で突如として狂い出し、最後には化け物に変身して死んだのだという。

 これは高級官僚の父親を持つ東大生からの裏情報だから、まず間違いないだろう。

「でも、すぐそこに出口が見えてるしな」

 光の隣で同じように腕組みをして、僕は前方に広がる風景を眺め渡した。

 外界の陽射しに浮かび上がっているのは、一面の湿地帯だった。

 ちょうど、水を張った田園地帯にそっくりの光景である。

 時々ここまで海水が押し寄せてくるのか、広い平地一面に浅く水がたまり、泥の池みたいな水面が出口まで延々と続いているのだ。

 大した深さでないことは、所々に葦に似た背の高い植物が繁茂していることからも、それとわかる。

 加えて湿地帯には畦道のように土が高くなった箇所がけっこうあり、そこを辿っていくだけでも出口までたどり着くことができそうだ。

「考えてても仕方ないし、とにかく行こうよ」

 4人の中でもっとも楽天家のあずみが言った。

 というか、勝手にひとりで畦道を歩き始めている。

「お、おい、待てったら」

 仕方なく、僕はあずみの後を追った。

「あずみちゃんがそういうなら」

 渋々といった感じで、光がついてくる。

 右手をコートの袖に隠しているのは、万一の時に備えてヨーヨーを握っているからに違いない。

 追いつくと、あずみが手を握ってきた。

 柔らかく温かいあずみの掌は、汗で少し湿っていて、それがまた愛おしい。

「なんかいるみてえな気がするだが、おらの気のせいだか?」

 後方でサトがつぶやいたのは、湿地帯の中を網の目のように広がる土の道を、中ほどまで来た時のことだった。

「そうだね。あずみもさっきからずっと、そう思ってた」

 僕の手を引いて先頭を歩くあずみが、さらりとそんな不気味なことを言う。

「い、居るって、何が、どこに?」

 思わずへっぴり腰になって足を止めると、あずみが空いたほうの手で水面を指さした。

「水の中。何かいっぱい沈んでる。死体かな」

「え?」

 背筋がぞっとなり、全身の産毛がざわざわと蠢き出す。

 むき出しの二の腕に、びっしりと鳥肌が立つのがわかる。

「これ、噂のテレビクルーの人達じゃないかしら? テレビカメラみたいな機材も見えるわ」

 世間話のように光が会話に乗ってくる。

 僕はおそるおそる水の中を覗いてみた。

 水が茶色く濁っているので今まで気づかなかったのだが…。

 よく見ると、半分濁った水底に何やら泥人形のようなものが、いくつもいくつも立っている。

 いや、正確にいうならば、底の泥に腰から下の埋まった死体が、上半身だけをゆらゆらさせて、水の中からこちらをじっと見上げているのだ。

 水温が低いせいか、死体はどれも屍蝋(しろう)化しているようだった。 

 男もいれば、若い女性もいた。

 みんな死んだ魚のようにうつろな目を見開いて、半ば口を開いている。

「気をつけたほうがいいね」

 コートの袖からヨーヨーを取り出して、光が言った。

「んだ」

 サトが弓に矢をつがえながらうなずいた。

「あずみも準備OK」

 ナックルを両手にはめ、ファイティングポーズを取るあずみ。

 ステップを踏むたびに、薄いセーラー服の下で熟れ過ぎたふたつの果実が上下に弾む。

「お、俺も」

 リュックを下ろし、銃を取り出そうとした時だった。

 ふいに右の足首に冷たいものが触れた。

「わ」

 反射的に下を見た僕は呻いた。

 水面から屍蝋化した青白い腕が伸びてきている。

 それがこともあろうに、この僕の足首をつかんでいるのだ。

「まずい」

 光が言ったのはその時だった。

「死体が動き出してる。一斉にね」





 
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