挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
6/85

scene 5 因習の島②

「そうか…そんなことが…」

 僕が話し終えると、青柳史郎は白髪の混じった太い眉根を寄せて、深々とため息をついた。

「嘘じゃありません。疑うなら、テレビを見てください。もしかしたら、今頃ニュースになってるかもしれません。あの化け物たち、屋上から落ちてトラックに轢かれたから、あれからきっとイオンは大騒ぎになったはずなんです」

チュルチュル音を立ててアイスラテをすすっていたあずみが、横から口をはさんだ。

「いや、別に君らを疑うつもりはない。そういうものが実在することは、島で生まれた人間である以上、私も知ってるからね」

 青柳氏の返事はあっさりしたものだった。

「やっぱり…」

 あずみがつぶやいた。

「でも、何なんですか、あれ。どうして唯を襲ったんでしょう」

「あ、ていうかあずみ、おまえどうしてあんとき、『こんなことだろうと思った』なんて言ったんだよ?
まるであいつらが来るの、知ってたみたいじゃないか」

 僕は訊き忘れていたことを思い出して、あずみに問いかけた。

「あずみひとりで館内を歩いてるときにね、人混みのなかで見かけたの。そのときはまだあんな姿になっていなかったけど、いかにも怪しげな連中だったんで、ちょっと気になってたんだ。邪悪な臭いがぷんぷんしてたしね」

「邪悪な臭い?」

「そう。人間に化けてても、外道は臭うのよね。その前に、唯に『狙われてる』みたいな話、聞いてたから、あ、もしかしてあれがそうかも、って当たりをつけてたってわけ」

「匂いねえ」

 僕は真顔のあずみを見つめ返した。

 要はこいつ、身体能力だけでなく、嗅覚もハイスペックというわけか。

「私が荒神島を出たのは20代半ばのことだから、今あの島がどうなっているのか、詳しく知っているわけではない。だが、昔からあそこには、『憑き物信仰』というのかな、『闇虫が憑く』といわれる現象が、たびたび起こっているんだ」

 青柳氏が話し始めた。

「闇虫というのが何なのか、詳しくは知らない。ただ、島の老人たちは、あの地に太古から巣くっている、悪霊のようなものだと信じているようだった。闇虫に取りつかれた人間は、その多くが数日で狂い死ぬ。しかし、中には体を乗っ取られたまま、生き永らえる者もいる。君たちが見たのは、おそらくその手のやつらだろう。普通、化け物と化した人間は、島の中央にある”離れ”に行って、そこで暮らすようになり、あまり外には出て来ないものなのだが、今回はよほどの事情があったと見える…」

「唯を島に来させたくない。そういうことですよね」

「ああ。唯は本家の巫女の血筋だからね。青柳の分家から逃げ出した私などとは比較にならぬくらい、島にとっては大切な存在だ。逆に言えば、外道たちには目障り極まりない存在である、ともいえるのさ」

「50年に一度の荒神祭とかで、舞を舞うんだっていってましたけど」

「荒神祭というのはね、”離れ”の住人が一定数を超えたときに行われる、いわば穢れ落としの儀式なんだ。根の国の扉を開いて、闇虫に憑かれた外道たちを元居た場所に返す。それが荒神祭なんだよ。それには青柳本家の者の血を引く処女の力が必要で、薫亡き後、今や唯がそのただひとりの生き残りというわけだ。島の長老たちが今年に入って『唯をよこせ』としつこく言ってくるようになったのは、おそらく”離れ”の活動がそれほどまでに活発になってきた証拠なんだろうな」

「離れって何なんですか? それに唯、そんなぶっそうな依頼、断れないんですか?」

 青柳氏が人の良さそうな人物とわかったからか、あずみは質問の手を緩めようとしない。

「荒神島の中央部はね、小規模な死火山になっていて、カルデラができている。その中にある十数戸の集落が、”離れ”だ。元々そこには、島原の乱のときに九州から逃れてきた隠れキリシタンの子孫だとか、もっと昔、平家滅亡の時に流れてきた落武者たちの子孫だとか、いろいろな噂のある連中が住んでいたのだが、いつのまにか村人全員が闇虫に取り憑かれてしまい、島のほかの集落から孤立してしまったと言い伝えられているんだ。現に私が島にいた頃も、離れのある骨山には絶対近づくな、と親からうるさく言われていたものだよ」

 骨山というのは、あの連中が口にした”骨車さま”という名前と、何か関係があるのだろうか。

「それから、唯の件だが、下手に断ると、あの子の母親みたいに呪い殺される気がしてね」

 青柳氏の顔には、いつの間にか沈痛な表情が浮かんでいる。

「それで、断るにも断れないでいたんだよ。そうしたら、唯が、友だちにボディガードを頼むと言い出して…」

「呪い殺される? どういうことですか? それ」

 目を丸くして、あずみがたずねた。

「妹の薫だが…私は彼女が、島の連中に呪い殺されたと信じている。子を孕んで自ら巫女の資格を放棄したばかりか、島を飛び出した罰としてね」














+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ