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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

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scene 57 荒神アンダーグラウンド⑭

 ジェットコースターとかバンジージャンプとか、そういったものが生まれつき嫌いだった。

 どうしてわざわざ怖い思いをするために、高いお金を払ってネズミの遊園地に行ったりするのか、二十歳過ぎてもわからなかった。

 そんな臆病者でヘタレな僕が、今まさに錐もみ状態で落下しつつあるのだから、運命とは皮肉なものである。

 できればバンジージャンプの大ファンの人に替わってあげたいところだったが、これは現実なのだからもちろんそんなこと、できるはずはない。

 滝の中に入ったのか、分厚い水流の壁に阻まれて周りは見えなかった。

 ただ轟々という音だけが世界を支配しているような感じだった。

 手足を必死にばたつかせてみたが、落下のスピードは変わらない。

 もうだめだ。

 遠のく意識の中で僕は思った。

 まだまだやりたいことはいっぱいある気がした。

 なかでも一番の心残りは、童貞のまま死ぬことだった。

 ふと頭の中にあずみの笑顔が3D映像となって大写しで浮かんだ。

 手の届くところに、もぎたての素晴らしい果実があったのに、僕は結局食べずじまいだったのだ。

 残念でならなかった。

 いくら僕がちょっとばかり特異体質でも、この高さから落ちたのではとても助からない。

 だが、あずみはきっと生き延びるに違いなかった。

 そして、無事本土に帰り、いつしかこの地獄のような経験を忘れ、今よりももっと美しく成長する。

 そのあずみの前に、ある日ものすごいイケメンが現れ、彼女を恋の虜にするだろう。

 そうしてあの素晴らしい果実とまだ見ぬ花びらは、やがてその男の手で…。

 などとくだらぬことを真剣に考えていたときだった。

 ふいに落下が止まったかと思うと、腰にガクンと衝撃が来た。

「いて!」

 身体が真っ二つに千切れるような激痛に、思わず悲鳴を上げたときである。

 一度停まった体が腰を中心にして引っ張られ、今度はゆっくりと上昇し始めた。

 水流を手でよけながら上のほうを見ると、ぴんと張ったロープが動いていた。

 まるでウィンチで巻き上げられるように、着実に引き上げられていく。

「あずみちゃんだべ」

 思いのほか近くで声がしたので下方を振り返ると、僕の2メートルくらい下にサトが居て、その足につかまるようにして光がこっちを見上げていた。

 3人とも滝の中に入ってしまっていたので、お互いが見えなかったのである。

「彼女、きっとあのまま崖を走り切って、向こう側の洞窟にたどり着いたのよ」

 こんな状況だというのに、ひどく落ち着き払った口調で光が言った。

「まったく、おったまげただなあ。あずみちゃんって、いったい何者だべ? 人間にあれはちと無理でねえべか?」

「まあ、彼女は人類を超えてるからね。ただのスーパーsexyガールじゃないことだけは、確かだよ」

 などというのどかな会話が交わされるうちに、僕らは滝の中から出て、そのままぐんぐん上昇を続けた。

 やがて横穴のへりから身を乗り出し、ロープを引っ張るあずみの姿が見えてきた。

 白いセーラー服を着て、超ミニのスカートから伸びたしなやかな足を踏ん張り、ぐいぐいと腰に巻いたロープを手繰るあずみは、なんだか地上に降りた天使のように見えた。

「もう少しだよ! みんな頑張って! お兄ちゃん、ちゃんと生きてる?」

 元気のいい声で、あずみが叫ぶ。

 ロープを手繰るたびに、たわわに実った胸が揺れる。

 まるで大漁の地引網をひとりで引き揚げる、アマゾネスの漁師みたいである。

「あずみちゃん、ありがとな! おかげで助かったべ! アキラさなら、大丈夫、ちゃんと生きとるから」

 サトが叫び返す。

「そう? よかった!」

 あずみが笑顔を見せた時だった。

 突然、巨大な影があずみの背後で膨れ上がった。

「あずみちゃん、うしろ!」

 光が叫んだ。

「え?」

 あずみが振り向いた。

 そこに、灰色の何かがのしかかっていくのが見えた。

 と、ロープが緩んだ。

「うわ」

 僕は慌てた。

 身体がまた落ちかけている。

 どうやらあずみがロープを離したらしかった。

 落ちる瞬間、頭上で不気味な咆哮が轟き渡るのが聞こえてきた。






  
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