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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

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scene 55 荒神アンダーグラウンド⑫

 主人公たちの乗った小船が、滝に飲み込まれそうになる。

 冒険ものの洋画なんかにはよくあるシーンである。

 しかし、自分がその立場に立たされるとなると、話は別だった。

 映画の主人公なら、たとえ滝壺に呑まれ、数十メートルもの高さから落下しても、必ず助かると相場は決まっている。

 でないと話がそこで終わってしまうからだ。

 が、現実は、そうはいかない。

 このメンバーで、おそらく生き残るとしたら、”マルデックの戦士”であるあずみひとりだろう。

 僕を含め、他の3人はごく普通の人間だ。

 落ちたらまず、一巻の終わりに違いなかった。

 水面を眺めていると、気のせいかボートの進み方がどんどん早くなっていくようだった。

 水に流れがあるのだ。

 それに気づかなかった僕らが馬鹿だったのである。

「だけどこれじゃ、闇虫に取りつかれた外道たちも、”離れ”に帰れないと思うんだけど」

 不安を紛らわすために、僕は言った。

 そうなのだ、

 闇虫に憑依されたゾンビ、つまり外道たちは、骨車の巣くうカルデラの向こうに帰っていく。

 確かそんな話ではなかったか。

 そうして集まった外道たちが離れに増え過ぎた時に、やつらを奈落の底に堕とすために執り行われるのが、荒神祭だったはずだ。

 だが、地下通路がこんな有様では、いくら人間離れした彼らでも、とても先に進めないに違いない。

「サト、ほかに離れに行く道があるのか?」

 背後のサトにそう声をかけると、

「うんにゃ。カルデラのまわりにはずーっと噴火の時の軽石や瓦礫で埋まった岩場が広がってるから、人間の脚では危なっかしくて無理だべ。それこそ空でも飛ばないと」

 あずみの分までオールを操っているにもかかわらず、息ひとつ切らさず、サトが答えた。

「そうか、だから藤野さんは、あのホバーバイクを」

「んだ。あれなら、低空飛行だども、一応ガレ場の上を飛べるから」

「たぶんね」

 僕らの会話を横で聞いていた光が言った。

「これ、潮の満ち干に関係してると思うのよ。アキラ君、ちょっとこの湖の水、舐めてみて」

「え? 俺が?」

「だってあなた、蟲毒も無効化する特異体質でしょう? 毒見はお手のものじゃない」

「あ、そうか」

 忘れていた。

 最近判明した、僕の唯一の取り柄。

 それは毒物に対する耐性と、傷の治りの早さだったのだ。

 あまり気が進まなかったが、水面に指先をつけて、その濡れた指を舐めてみた。

「ん? しょっぱいな」

「やっぱりね」

 うなずく光。

「これは外から流れ込んでる海水なのよ。ということは、当然潮の満ち干によって、海面の高さが変わる。たぶん、今は満潮なんでしょうね。干潮になれば、この洞窟の壁面に刻まれた道が現れるんじゃないかしら。外道たちは、干潮の時を狙って、ここを行き来していたんだわ。ただし、ここの入り口がふさがれる、50年前までのことだけれどね」

「じゃ、その道とやらは、今は海面の下に沈んでいると…」

「目を凝らしても見えないから、かなり下のほうにありそうね。だからどの道、それは使えない」

 残念だった。

 1メートルくらい沈んでいるだけなら、ボートを降りてその道を歩いて行けばいいからだ。

 だが、足が立たない深さでは、それは不可能なのである。

「あのさ、今話してて、ちょっと疑問に思ったんだけど」

 ますます募ってくる不安と恐怖をごまかすべく、僕は言った。

「50年間通路が封印されてたなら、どうして外に闇虫たちが溢れてるんだろう? あの小学校といい、今朝見た病院といい、島じゅうの人間がみんなゾンビ化するくらい、大量に発生してるみたいなんだけど」

「ひとつには、入り口をふさいでたバリケードには、狭いすき間が開いてたこと。闇虫の大きさなら、十分通り抜けられる。それともうひとつは、骨車なる邪神が、完全復活したらしいこと。小学校の屋上で見たでしょう? どうもあれに物理法則は通用しなさそうだったし、ひょっとしてあいつが、あちこちで闇虫をばら撒いていたとしたら?」

「あいつ、3日のうちに来い、とか言ってたな」

 大事なことを思い出して、僕はつぶやいた。

「3日のうちに来なければ、唯を殺すって…」

「そう。だから私たちは、こんなところで滝壺に落ちるわけにはいかないのよ」

 だとしたら、頼みの綱は、やはり…。

 その時、舳に立っているあずみが、水音に負けじと大声で叫んだ。

「わー、すごいよ! 滝が見えてきたよ!」




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