挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

55/100

scene 54 荒神アンダーグラウンド⑪

「でも、なんかファンタジックで感動的だよねー」

 背中のほうからあずみの声がする。

 地底湖とそれを取り巻く鍾乳洞の大伽藍に興奮して、あずみはさっきからずっとしゃべり続けているのだ。

「あずみ、なんだか幸せな気分になってきちゃった」

 夢見がちな少女を気取った口調で、あずみがまた言った。

「だって大好きなお兄ちゃんと一緒に、こんな素敵な景色、見てられるんだもの」

 大好きなお兄ちゃん。

 うれしい言葉ではある。

 だが、僕は隣で片膝を立てている光に習って、かたくなに前を向いていた。

 なぜなら、振り返ると、もろに見えてしまうからである。

 サトとあずみはボートの後部でオールを操っている。

 だから、当然身体を固定させるために両足を踏ん張っている。

 サトはショートパンツなのでまだいい。

 問題は、あずみだった。

 あずみときたら中学の制服のスカートで、それもとんでもなく短いときているのだ。

 振り向けば、否が応にも純白のパンティが目に飛び込んできてしまう。

「ねえってば、お兄ちゃんったら、聞いてる?」

 あずみの声に苛立ちが混じり始めた。

「あ、ああ」

 僕は生返事をした。

「本当? じゃ、どうしてあずみのほう、見てくれないの?」

「あ、ああ」

 まさかパンツが見えるから、とはっきり告げるわけにもいかず、僕は曖昧にごまかした。

「何が『あ、ああ』なの? あ、ひょっとしてお兄ちゃん、あずみのこと怒ってる? 肺活量8万って正直に言ったから? それでドン引きしてまた嫌いになっちゃったの?」

 あずみの声がだんだんと湿り気を帯びてくる。

 どうしてそういう結論に達するのかまるでわからないが、とにかくよくない兆候だった。

「怒ってなんかいないし、嫌いにもなっていない」

 仕方なく、僕は答えた。

「うそ。だってこのボートに乗ってから、お兄ちゃん、あずみのほう、一度も見てくれない。あずみ、お兄ちゃんの気を引き立てようと思って、さっきからずっと、こんなに一生懸命話しかけてるのに」

 半分泣いているような声で、あずみが責めてくる。

「だからさ、そうしたくてもできないんだって」

 僕がそう言い返した時、隣で光がわざとらしいため息をついた。

「あずみちゃん、今振り向くとね、あたしたちにはあなたの可愛いパンツが見えちゃうわけ。アキラ君は紳士だから、ほんとは見たくてたまらないんだけど、じっと我慢しているの。あなたも彼のこと好きなら、そのくらいは気づいてあげなきゃね」

 ど真ん中ストレートの指摘だった。

 あまりの直球さ加減に、僕は危うくバランスを崩してボートから落っこちそうになった。

 しかも、

『ほんとは見たくてたまらないけど、じっと我慢している』

 という、的確過ぎる心理分析までついている。

 おそるべし、流しの薬剤師。

 さすが三十路の女は言うことが違う。

 ひたすら感心していると、 

「あ、そうだったんだ」

 あっけらかんとした声で、あずみが応えた。

「でも、お股広げないと、ボート漕げないしなあ」

 とぼけた口調で、そんなことを言う始末である。

「それより、おらは、あの音が気になるだべ」

 僕らの精神的葛藤などどこ吹く風、といった調子で口を挟んだのは、現実主義者のサトだった。

「ほら、あのごうごう言う音。なんだかどんどん近づいてくる気がするべ」

「さすがサトちゃん。実はあたしも同じこと考えてた」

 我が意を得たりとばかりに光がうなずいた。

「ね、あずみちゃん、あなたの視力10.0の眼でちょっと先を見てくれない? サトちゃん、その間、悪いけど、オール、あずみちゃんの分もお願い」

「いいですよぉ」

「あいさ」

 後ろであずみが立ち上がる気配がした。

 僕と光の間を通り過ぎると、ボートの舳に立った。

 すらりとしたカモシカのような脚。

 くびれた腰からぐいと張り出した尻。

 しゃきっと伸びたしなやかな上体。

 その上に乗った細く長い首。

 まったくもって見事な八頭身である。

 あずみは額に小手をかざして、前方にじっと目を凝らしている。

 そのあずみが、はっと息を呑んだ。

「わ、最悪」

 心底嫌そうな口調でつぶやいた。

「どうしたの?」

 光がザックから双眼鏡を取り出して、目に当てた。

「ずっと向こうの岩棚に、もうひとつの横穴の入り口が見えてるんですけど」

 あずみが報告を続ける。

「その前におっきな亀裂があります」

「亀裂?」

「ええ。つまり、その亀裂のところでこの湖は、ものすごい滝になって下に落ち込んでいるんです」

「マジかよ」

 僕は呻いた。

 この轟々という水音は、滝の音だったというわけか。

 少し考えれば、予想できることだった。

 悔しいことに、あずみのパンテイで頭がいっぱいで、肝心のことに気が回らなかったのだ。

「ほんとだね」

 双眼鏡を覗きながら、光がうなずいた。

「ナイアガラ並みの大瀑布って感じだわ」

「ど、どうするんだよ?」

 僕は声を震わせた。

「ふたりとも、そんなに落ち着いてていいのかよ?」

「大丈夫」

 あずみがふり向き、船底にへたり込む僕を見下ろした。

 その反動で船が揺れ、スカートがまくれて白いパンティの三角部分が見えた。 

 そして、パンティと同じくらい白い歯を見せて、ニコッと笑うとあずみは言った。

「あずみにひとつ、考えがあるから」






















 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ