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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 52 荒神アンダーグラウンド⑨

 奇岩、とでもいうのだろうか。

 浜辺を延々と歩き、大きくカーブした地点を曲がると、いきなりその光景が目に飛び込んできた。

 オーバーハング気味に飛び出した黄土色の崖が、上に森を乗せて左右にずっと続いている。

 その庇のように張り出した岩の下に、1ヶ所、人工的に穴の入り口をふさいだような跡があった。

 大小の石が詰め込まれ、その上からコンクリートで固められている。

「これが、月煌洞?」

 僕は傍らのサトにたずねた。

「んだ。50年前の荒神祭の時に、勇者たちが封印したって聞いてるだ」

「虫の這い出るすき間くらいは、あるみたいけど…」

 入口に近づいた光が言った。

「人間が入るのは、無理みたいね」

「そう思って、これを持ってきたべ」

 サトが、矢羽の籠と一緒に背中に担いだリュックから取り出したのは、小型の爆弾みたいなものだった。

 漫画に出てくるダイナマイトそっくりである。

 それを入り口をふさいでいる岩の隙間に押し込むと、

「さ、みんな下がるだべ、おらが火さ、つけるから」

 百円ライターをかざして、そう言った。

「あ、それなら、あれ、試してみない?」

 横から口を挟んだのは、あずみである。

「お兄ちゃん、拳銃出して。ちょうどいい射撃の練習にもなるでしょ」

「む、無理だよ」

 僕はしり込みした。

 さっき打ち損じたばかりなのである。

 相手がビルほどもある怪物ならまだしも、あんな小さな的に当たるはずがない。

「だいじょうぶ。今度はあずみも手伝うから」

 僕のリュックに手を突っ込み、あずみが勝手にS&Wを引っ張り出す。

 重さ2キロ、全長30cmの化け物じみた銃である。

「両手で持って、構えてね」

 僕の手にS&Wを押しつけると、自分は僕の背後に回った。

「それで撃つってか?」

 サトがびっくりしたように目を見開いた。

「なんちゅうぶっそうな拳銃だべ。そったらもん、素人が触ったら怪我するべ」

「ま、お手並み拝見と行きましょう」

 光が笑った。

「使えるようにしておいてもらわないと、この先困るしね」

「準備はいい?」

 腰だめに銃を構えた僕に、後ろからあずみが身を寄せてきた。

 身を寄せるというより、抱き着いてきたといったほうがいいほどの密着ぶりだった。

 薄いセーラー服の生地を通して、ふたつの特大マシュマロが背中に押しつけられる。

 僕の腕に自分の腕を添わせるようにして、僕の手首を両手でつかむ。

 自然と顔と顔が接近して、僕の右頬があずみの左の頬にくっついた。

「いいよ。撃って」

 耳元であずみが囁いた。

 桃の吐息が鼻腔をくすぐった。

 僕はすっかりあずみに背後から抱きかかえられる格好になっていた。

 さっきの衝撃を思い出すと、気持ちが萎えた。

 どうしても、トリガーを引く勇気が出ないのだ。

「だいじょうぶだから。あずみを信じて」

 辛抱強く、あずみが言った。

「そんなこと、言ったって…」

 抗議しようとしたとたん、

 いきなり耳の穴に熱くぬめる何かが入ってきた。

「わ」

 僕は悲鳴を上げ、反射的に指に力を込めた。

 落雷のような音が人気のない浜辺に轟いた。

 続いて爆発が起こった。

 崖の一部が膨れ上がり、もうもうと黒煙が沸き上がる。

 小石や砂が飛び散り、雹のように頭上からばらばらと振ってきた。

「やったね! お兄ちゃん!」

 あずみが叫んで、ぎゅっと僕を抱き締めてきた。

 僕は呆然と手元の銃を見た。

 1ミリもぶれていない。

 衝撃もほとんどなかった。

 なんと。

 信じがたいことに、あずみの柔らかく強靭な体が、衝撃をすべて吸収してしまったのである。

「あのな」

 僕は太い息をつくと、頬を擦りつけてくる最愛の妹に言った。

「黙っていきなり耳に舌を入れるんじゃない」


 煙が収まると、崖にはぽっかりと四角い穴が口を開けていた。

 穴の入り口には、明らかに人の手が加わっているようだった。

 周囲に石が積み上げられ、漆喰で固めてあるのだ。

 ここに秘密要塞をつくろうとした、日本軍の手によるものに違いなかった。

 大型の懐中電灯を持った光が先に立つ。

 直径2メートルほどの狭い横穴である。

 中は湿っていて、周囲の壁や天井から水滴が滲み出していた。

 10メートルほど進むと、すぐに行き止まりになった。

 懐中電灯の光が、奥にたちはだかる壁を照らし出したのだ。

「あれえ?」

 あずみが素っ頓狂な声を上げた。

「もうおしまいなの? またダイナマイトで吹っ飛ばす?」

「うんにゃ」

 サトがかぶりを振った。

「ここから先は縦穴になってるだ。落っこちないように気をつけるべ」

「なるほど」

 光が地面に懐中電灯の先を向けた。

 壁の前に、亀裂ができていた。

「いよいよ地底旅行というわけだね」

 うきうきした口調で、あずみが言った。

 僕はどんよりした気分に陥った。

 いっそ行き止まりで終わっていてくれたら…。

 そう、心の底から思わずにはいられなかったのだ。














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