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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 51 荒神アンダーグラウンド⑧

「また、ずいぶんとひどい有様ね」

 戸口に立った光が言った。

 コートの腰に手を当て、しげしげと部屋の中を見回している。

「これ、二口女じゃないですか?」

 死体の間を縫って歩いてくる光に、僕はたずねた。

 あずみを襲った白衣の化け物は、首をへし折られて床の上に伸びていた。

 長い髪の間から覗く大きな口を、かっと開いたまま。

 子どもの頃読んだ怪談話に、確かこんなのが出てきた気がする。

「そうだね」

 サングラス越しに化け物を見下ろして、光がうなずいた。

「ゾンビ、磯女、人面鳥、それに二口女か…これじゃ、まるで妖怪大戦争ね」

「あのさ、俺、なんとなく思い出したんだけど」

 S&Wをベルトに差し直して、僕は言った。

「前のサバイバルゲームの時、最後にコースケ、言ってなかったっけ。悪魔も鬼もみんな味方だ、みたいなこと。この宇宙を守るために、協力し合って戦え、みたいに」

「言ってたよね」

 あずみが僕を見た。

「闇虫は、別の宇宙から来た侵略者だから、地球に住む者みんなで戦うんだって、だから仲間を探せって」

「なのになぜ妖怪が襲ってくるのかってことね」

「日本中の妖怪が、この島に集まってきてるみたいな騒ぎだよな」

 誰にともなく、僕は言った。

「まるで骨車に呼び寄せられてるみたいに…」

「つまり、こういうことじゃないかしら」

 僕ら3人の前を行ったり来たりしながら、光が話し始める。

「骨車も妖怪も、島の人たちと同じように、みんな闇虫に取りつかれている。闇虫は、妖怪たちをも操って、この世界に進攻しようとしている。その端緒になったのが、たまたまこの荒神島だった…」

「妖怪や神にも取りつく侵略者か…。やっかいだな」

 ぼそりとつぶやいた時、

「あ、出てきた!」

 床の一点を指さして、あずみが叫んだ。

 二口女の、人間のほうの口。

 今しもそこから、あの黒いものが這い出そうとしている。

 正方形の折り紙のような、エイにも似たそれは、闇虫だった。

「これ、試してみるね」

 あずみが背中のリュックから短い筒を引っ張り出した。

 武器庫から持ってきた、例の戦国時代の遺物みたいな武器である。

「や」

 可愛いかけ声とともに、逃げ出そうとする闇虫に向けて、それを突き出した。

 バシッ。

 乾いた音がして、だしぬけに槍が伸びた。

 串刺しにされ、宙で悶える黒い虫。

 それはすぐに動かなくなると、だんだんと色が薄くなり、最後には灰と化してボロボロと崩れてしまった。

「よわっ」

 拍子抜けしたように、あずみが言う。

「ほんとにこんなのに、妖怪や人間を操る力なんてあるのかしら…?」

「前にも言ったと思うけど」

 光が腰に手を当てて言う。

「このちっちゃいのは、単なる情報端末みたいなものじゃないかと思うのよ。取りついた相手の情報を都合のいいように上書きして、化け物に変えてしまう。人間はゾンビに、妖怪はもっと凶暴な怪物に…。これを操っている黒幕が別に居るんだわ」

「でも、それはあの骨車ですら、ない…」

「そうね。骨車も、これから出くわすだろう四凶も、みんなそいつの操り人形なのだとしたら…」

「でも、いったいそれって、何者なの?」

「わからない」

 あずみの問いに、かぶりを振る光。

「とにかく、カルデラの中に入ってみるしかないわね。そこで何が起こってるのか、この目で確かめるしか」



 外に出ると、藤野は例のホバーナイクのエンジンカバーを開けて、中を覗き込んでいるところだった。

「ちょっと時間がかかりそうだな、バッテリーが弱っちまってる」

 僕らの気配に顔を上げると、開口一番そう言った。

「建物の中には入らないほうがいいですよ。地獄です」

 「やっぱり、ダメだったか」

 僕の言葉に、がっくりと肩を落とす。

「いい先生だったのにな…。奥さんも、優しい人だった」

「早く仕上げたほうがいいです。中にまだ何かいるかもしれない」

「そうだな、できるだけのことはしてみるよ」

「副番頭、お達者で」

 サトが深々と頭を下げた。

「おらたち、先に月煌洞さ、行ってるから」

「おう、頼んだ。俺はこいつが直ったら、空から行くつもりだ」

 にやりと笑って藤野が言った。


 建物の裏手から、海岸に降りた。

 平らな砂浜が、三日月形に広がっている。

 宙天高く上がった真夏の太陽が、すべてを白く焼き焦がしていた。

「お天道様を拝めるのも、今のうちだべ」

 額の汗を拭いながらサトが言った。

「鍾乳洞の入り口は、すぐそこだ」

「お兄ちゃん…」

 いつの間にかあずみが寄り添って来ていた。

 僕の手を握ると、少し伸びあがって、耳元で囁いた。

「がんばろうね。一緒に」

 あずみの吐息は、ほんのり甘い桃の匂いがした。






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