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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

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scene 49 荒神アンダーグラウンド⑥

「ホバーバイク、ですか?」

 僕は目を皿のようにして、その不格好な鉄の塊を見つめた。

 なるほど、本来タイヤのあるべきところに太い筒が前に2本、後ろに2本、下向きに突き出ている。

 ここから空気を噴射して宙に浮くというわけなのだろう。

 ガソリンタンクの両側にくっついている後ろ向きの2本のノズル。

 これが推進力を生む仕掛けに違いない。

 しかし、SF映画に出てくる乗り物が、まさか実用化されていただなんて…。

「まあ、空を飛ぶといっても、実際は高さ5メートルまでが限界なんだが、それでも時速100キロは出せるし、大人が2人乗りできるくらいのパワーはあるよ」

 愛おしそうにバイクの鼻面を撫でながら、藤野が説明した。

「でも、どうして孤島の開業医が、こんなすごいものを…?」

「明野先生の奥さんの友人がテキサスに居てね、そこでエンジニアと結婚したらしいんだが、その相手というのがかなりの発明狂で、ホバーボードとかホバーバイクを自作してるっていうんだ。その試作品を格安で分けてくれたのが、こいつっていうわけだ」

 ホバーボードといえば、あの名作SF映画の主人公が劇中で乗っていた空飛ぶスケートボードのことである。

「へーえ、すごいな、一度乗ってみたいですね」

「残念ながら、プロのサーファーなみのバランス感覚がなきゃ無理だな。君では10秒も経たないうちに振り落とされるだろうよ。試作品だから、こいつは暴れ馬よりタチが悪い」

 素直に感心する僕に、そう藤野は言った。

「それで、藤野さはどうするだべ? さっき請乳洞には行かないようなこと、言ってたけど」

 横から口を挟んだのは、サトだった。

「ああ、それなんだが…」

 藤野がきまり悪そうにごま塩頭を掻いた。

「お祓いが終わった直後にな、お館さまたちに言われたんだよ。『何か大事なことを忘れている気がする。それがどうしても思い出せない。思い出すまで、藤野、おまえ、近くで待機しておくれでないか』ってな」

「大事なこと? 何だろう?」

 サトの隣で腕組みして、光がつぶやいた。

「さあな、見当もつかんよ。だから俺はここでこいつの整備をしながら、お館さまたちからの連絡を待つつもりだ。見たところ、しばらく乗ってないようで、このバイク、かなり埃にまみれてる。ガソリンも空みたいだし、ただでさえ不安定なマシンなんだ、このまま飛ばすのは危険すぎるからな」

「だども、藤野さん抜きでうまくだべか?」

「なあに、そこのスーパーレディと不死身の兄ちゃん、それに司令塔の光さんがいるじゃねえか。サト、おまえも腕っぷしはそこらの男以上だし、鍾乳洞を抜けるくらいわけないだろ。俺もお館様たちの記憶が戻り次第、これで後を追うからよ」

「ならいいが…」

 そう言いながらも、サトはなおも不安そうである。

「それより俺はすぐにこいつの整備に取りかかる。出発する前に、ちょっくら3人で建物の中を見てきてくれねえか。明野先生と奥さんの身が気がかりだ。もし無事なら、ホテルに連れ帰りたい」

「そうさな」

 サトがうなずいた。

「先生と奥さん、無事だとええだ…」


 病院の自動ドアは死んでいた。

 電源が切れているらしく、前に立っても開かないのだ。

 あずみがそれを苦もなく片手で引き開けた。

 中に一歩足を踏み入れると、生ごみをぶちまけたような臭気がつんと鼻を突いた。

「私とサトちゃんで2階を見てくるから、ふたりは1階を調べてみて」

 階段に向かいながら、光が言う。

「了解です」

 明るく返事をして、あずみが僕の腕を抱え込んだ。

 顔はそっぽを向いているのに、両手で腕を掴んで離さない。

 待合室、受付事務所、診察室と一通り見て回ったが、誰もいなかった。

「あの奥は?」

 あずみが廊下の先を顎で示す。

 正面にドアがあり、『急患病棟』と書かれたプラスチックのプレートが下がっている。

 急病人を一時的に収容するスペースなのだろう。

 島に一軒しかない開業医なら、それくらいの設備を持っていてもおかしくはない。

「聞こえる。何か」

 ふいにあずみが小声で囁いた。

 力を込めて、僕の腕を抱きしめる。

 上腕部が胸の膨らみに押しつけられ、僕は危うく声を上げそうになる。

 そのまま、あずみに引きずられるようにして、ドアに近づいた。

 あずみがノブを手前に引いた、

 どっとばかりに異臭が溢れ出してきた。

 中をひと目見た瞬間、

「ひどい…」

 あずみがうめくように言った。

「な、なんだ、これ…?」

 僕も凍りついた。

 あまりのことに、言葉が出ない。

 部屋の中は、赤一色だった。

 床にも壁にも、赤い液体がペンキをぶちまけたように派手に飛び散っている。

 匂いでわかった。

 ペンキなどではない。

 これは、全部、血だ。

 その血の海の中に、無造作に投げ出されている肌色の物体…。

 無数にある。

 いったいこれは、何人分なのだろう…?

 バラバラに分断された人間の体のパーツ。

 それが、あちこちで絡まり合い、血にまみれた異様なオブジェを形づくっているのだ。

「いや……こんなの」

 あずみがゆるゆるとかぶりを振った。 

 その時、それが聞こえてきた。

 今にも消え入りそうな、すすり泣きの声だった。

「お兄ちゃん…」

 あずみが泣きはらした眼で僕を見上げた。

「生きてる人がいる。助けなきゃ」



 





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