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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第4章 荒神アンダーグラウンド

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scene 46 荒神アンダーグラウンド③

 大地の揺れで目が覚めた。

 それまで僕はピンクの靄に包まれた、なんだかいい匂いのする夢を見ていたのだが、長い揺れのせいでいっぺんに現実に引き戻されてしまった。

 地震?

 寝床の上に起き上がり、周囲を見回すと、建物全体がローリングするようにゆっくりと動いていた。

 揺れが収まるまでに、1分ほどかかっただろうか。

 急いで着替えを済ませ、長い階段を小走りに駆け降りると、1階の食堂の前にサトが居た。

 黒いタンクトップに短パンといった格好のサトは、アフリカのどこかの国のアスリートみたいに見えた。

「今、地震があったべ?」

 僕を見るなり、いつもの朴訥な口調で訊いてきた。

「震度4くらいかな。これも骨山のせいなのかい?」

 荒神山ー通称”骨山”は、休火山なのである。

 まさかとは思うが、何かの拍子に火山活動を再開してもおかしくはない。

「わかんねえだ。だども、ここんとこ地震が増えてるのは確かだべ。何事もなけりゃいいがな」

 サトに案内されて、大食堂に入る。

 朝食は和洋折衷のバイキングだった。

 みそ汁、煮物、白米、クロワッサン、ウインナーソーセージ、スクランブルエッグ、唐揚げ。

 僕の好物が所狭しとばかりにカウンターに並んでいる。

 トレイに戦利品を並べて周囲を見回すと、がらんとした食堂内に、光とあずみの姿があった。

 ふたりとも普段着に着替えている。

 光は例のコート、あずみはノースリーブの白いサマーニットのセーターを着ている。

 昨夜あんなやり取りがあった手前、少し気まずかったが、サトが迷わず二人のほうに歩いていくので、仕方なくその後に従った。

「一平ちゃんがいないと、寂しいですね」

 あずみの声が聞こえてきた。

「小生意気なガキだけどね。あれはあれでいい味出してた」

 心なしか沈んだ口調で、光が答えている。

「でも、一平ちゃんなら、絶対生きてると思う。あの子、生命力、強そうだもん」

「あずみちゃんのおっぱい触らせてもらうまでは死ねないって、前の冒険のとき、言い張ってたしね」

「んもう」

 あずみがふくれっ面をした。

「みんな、どうしてあずみのこと、いつもそんな目で見るんだろう」

「一平も男の端くれだって証拠かもね」

 まずい話題である。

 こっそり踵を返して回れ右しようとしたとき、光に見つかってしまった。

「おはよう」

「おはようさんだべ」

 先にサトがふたりの前に座った。

「おはよう、サトさん…それに、お兄ちゃんも」

 あずみが僕のほうをチラと見上げ、うっすらと頬を染めてうつむいた。

 仕方なくその前にトレイを置くと、

「あなたたち、ゆうべ何かあったの? あたしが寝てる間に」

 僕が腰かけるのを待って、光が訊いてきた。

「え? ど、どうしてです?」

 動揺を隠して、僕は引きつった笑みを口元に浮かべてみせた。

「いえね、今朝のあずみちゃん、なんだかすごく女っぽくなってて…、さっきも一緒に朝風呂入ったんだけど、仕草とかさ、なんかこう…恋する乙女っていうか、初夜を前にした新妻というか」

「やだ、光さんたら」

 あずみがうつむいたまま、つぶやいた。

「変なこと、言わないで」

 いつのまにか耳たぶまで真っ赤になっている。

「やっぱりあの噂は本当だったんだべ」

 そこに、唐突に口を挟んだのは、サトだった。

「噂?」

 眉根を寄せる光に、

「女は最初に胸を触った男のものになるって、噂だべ」

 生真面目な表情で、サトが言った。

「ゆうべ、露天風呂で、アキラさ、あずみちゃんの胸、触ったべ。だからきっとあずみちゃん…」

「サトちゃん、あのね」

 光が呆れたようにため息をついた。

「どこでそんなバカな話吹き込まれたの? もしそれが本当なら、レイプされた女は全員レイプ犯の嫁にならなきゃなんないじゃない」

「おらの村ではみんなそう言ってるだ」

「いつの時代の話? 江戸? 明治? 今は21世紀だよ? 男尊女卑にもほどがあるよ」

「もうやめて」

 あずみが小声で抗議した。

「そんなんじゃなくって…あずみは、ただ、お兄ちゃんのこと…_」

 よ、余計なこと、いうんじゃない!

 そう口に出しかけた時だった。

「おう、そろってるな」

 作務衣姿のがっしりした男が近づいてきた。

 副番頭の藤野である。

「ちょうどよかった。君らにひとつ頼みがあってな」

「何ですか?」

 光が顔を上げてたずねた。

「鍾乳洞に行く途中、明野医院に寄ってほしいんだ。先生の安否を確かめたいし、それにあそこには、ちょいといいものがあってな。それが今どうなってるのか、見ておきたいんだ」

「いいもんって、あれだか?」

 サトが言った。

「先生が、たまに浜辺で遊んでたやつ」

「そうだ。あれがもし使えるなら、きっと何かの役に立つ」

 あれって何だろう?

 役に立つって、どういうことなのか…。

「お祓いの準備ができたよ。勇者さんたち」

 深く突っ込む前に、笑いを含んだ声が降ってきた。

 見ると、食堂の入り口で、着物姿の美千代が手招きをしている。

 それを受けて、藤野が言った。

「おお、そうだった。お館さまたちが、わしらの無事を祈って、じきじきお祓いをしてくださるそうだ。朝飯が終わり次第、今度は朱雀の間に集合してくれないか」







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