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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 42 スカルアイランド⑪

 それはある意味、とても奇妙な光景と言えただろう。

 降るような星空の下。

 露天風呂に六つの人影が浸っている。

 三人の若い女に双子の老婆、そして冴えない若い男一匹が、岩風呂の円周に沿ってお湯の中に腰を下ろしている。

 風船のようなふたつの白い乳房を、さらしを巻くみたいにタオルで隠しているのがあずみ。

 僕の対面で体は隠さず頭の上に手拭いを乗せているのが、光。

 なぜかおそろいの紺色のスクール水着みたいなのを着込んで、ふたり並んでちょこんと座っているのが、ヨネとムギの双子のお館さまである。

 そしてその横で恥ずかしそうにうつむいているのが、最後に入ってきた、健康的な小麦色の肌のサトだった。

「実はあずみちゃんとアキラ君が蟲毒と格闘してる間、私とサトちゃんは、お館様と面会して、だいたいの話を聞いてたんだけど、そこで得た情報をもとに私が立てたプランを話そうと思うの」

 ほかの五人を順繰りに見渡して、開口一番、光が言った。

「ほんに光さんは頼もしいのう」

「んだなあ、青柳本家に嫁に来てほしいくらいだなもし」

 老婆たちがにこにこしながら満足げにうなずいた。

 こうして改めて外で見ると、このふたり、どっちがヨネでどっちがムギなのか、まるでわからない。

「私たちの目的は、まず荒神山のカルデラまでたどり着き、四凶を倒して離れに潜入すること。そしてそれに成功したら、今度は唯ちゃんと一平を救出する。その際、かなりの確率で骨車とバトルになるでしょうから、それにも勝たなくてはならない」

 光の言葉を聞くうちに、僕はぼんやりと前回のサバイバルゲームを思い出していた。

 細かいところは覚えていないが、あの時も確か、弥勒の配置した四天王とやらを倒しつつ、僕らは”ダンジョン”の奥へと進んだものである。

 今回もあれに匹敵する修羅場が待ち受けているということなのだろう。

 あまり嬉しくない想像だった。

「最初の難関は、どうやってカルデラの周りの外輪山に辿りつくかということね。ここへ来るまでの行程ではっきりしたのは、地上はすでに、闇虫に取りつかれたゾンビたちでいっぱいだということ。サトちゃんが私たちを迎えに今朝島を出発してからここに戻ってくるまでの短い時間に、離れから大量の闇虫たちが放たれたんだと思う。もちろん、私たちを罠にかけて唯ちゃんを拉致するためにね」

「地上を歩くのは危険だべ」

 ぼそりとつぶやいたのはサトである。

 お団子のひっつめ髪を解いて肩に垂らしたサトは、斜めからくる照明の加減もあってか、ずいぶんとまた女らしく見える。

 老婆二人を度外視すれば、僕は今まさに一種のハーレム状態にあるのかもしれなかった。

「そう。そこで考えたんだけど、行きは地下を使ったらどうかと思うの」

 頭に手ぬぐいを乗せたまま、光がもう一度僕らを見回した。

 34歳の熟女である光は、とてもそんな歳とは思えないほど若々しく少年っぽい体つきをしていた。

 だから、裸で目の前に座っていても、とりわけこちらのアンテナを刺激してくるということはない。

 アルビノ体質のせいもあるのか、雰囲気が全体に中性的なのである。

「地下って?」

 僕が訊くと、赤みがかった瞳を光らせて、光が言った。

「戦時中、この島に日本軍の秘密基地があったって話、聞いたでしょ」

「そういえば、そんな話、あったような...」

 僕は首をかしげた。

 唯から聞いたのだったか。

 あるいは由紀夫か、唯の父親である青柳氏からだっただろうか。

 とにかく誰かがそんなようなことを言っていた気がする。

「お館様たちのお話によるとね、それはあながちデマじゃなくって、一時本当に基地の建設工事が進んでいたらしいのよ」

「月煌洞じゃて」

 ヨネかムギのどちらかが口を挟んだ。

「そう、月煌洞。この月煌洞というのは、このホテルの北ある鍾乳洞のことでね。1945年4月、米軍の沖縄上陸の報を受けて、陸軍がその鍾乳洞を利用した地下基地の建設に乗り出したって話なんだけど…」

「骨車さまの呪いで工事が頓挫してな、それっきり放置じゃよ」

「なんでも工夫たちが、原因不明の事故でな、何人も命を落としたらしいんじゃ」

 光の言葉を受けて、口々に老婆たちが言う。

「で、どうやらこの鍾乳洞、カルデラのすぐ近くに続いているらしいのよね。その証拠に、鍾乳洞の入り口あたりでは、昔から闇虫に取りつかれた外道たちが頻繁に目撃されてるんだって」

「じゃから今は、向こう側から邪な者たちが入ってこれぬよう、入り口を頑丈な板で塞いである」

「そこを通り抜けようというのか」

 僕は呻くように言った。

 あまり気分のいい話ではないが、大昔に見捨てられた通路なら、闇虫たちも今は使っていない可能性が高いだろう。

「大学の調査資料によると、鍾乳洞の向こう側の出口はカルデラの南西にあるみたい。
ちなみに、カルデラを守る四凶の配置だけど、南が人面虎足・猪の牙の「檮杌(とうこつ)」、西が羊身人面・わきの下に目がある「饕餮(とうてつ)」、北が翼の生えた虎「窮奇(きゅうき)」、東が巨大な犬の姿の「渾沌(こんとん)」って具合らしい。翼のある「窮奇」が出口から遠い北に居るというのは、ラッキーだわ」

「もし戦うとしたら、南の「檮杌(とうこつ)」か、西の「饕餮(とうてつ)」のどっちかってことだな」

「そうね。実物を見てないから何とも言えないけど、個人的には饕餮(とうてつ)のほうがユーモラスでいいかもと思う。腋の下に目のある人面の羊って、何それって感じ。なんか笑えるじゃない」

檮杌(とうこつ)は、人+虎+猪だったっけ? だとしたら羊のほうがまだマシだね」

 僕がそう言った時だった。

 ふいに隣のあずみの身体がくらりと揺らいだ。

 何気なく振り向いた僕は、思わず目を剥いた。

 いつのまにか、タオルが解けてむっちりした乳房がふたつとも露わになっている。

 そのまま、特大のマシュマロみたいな乳房を僕の肩に押しつけるようにして、あずみがぐったりとしなだれかかってきた。

「おい、どうした? あずみ!」

 あずみは半ば目を閉じ、ぷっくりした唇を少し開いて、白い前歯の間から薄桃色の舌先を覗かせている。

 ぷにぷにした肉の感触が、たまらない。

 抱きかかえようとして、僕はふと思い出した。

 あずみの重さに。

 サトでないと背負えなかったほどの、体重に。

 気づいた時にはすでに遅く、僕は予想外の重量にのしかかられて、お湯の中にぶくぶくと沈んでいくところだった。


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