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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 3 美しき凶器

 閉まりかけた自動ドアをかいくぐって、建物内に飛び込んだ。

 目の前に2列のエスカレーターが現れた。

 唯を背負ったあずみは、すでに下りの中ほどに差しかかっている。

 その後に続こうと、エスカレーターに足を乗せかけたとき、

 爆音とともに背後で自動ドアのガラスが弾け飛んだ。

 反射的に振り向くと、3匹の怪物たちが、押し合いへし合いしながら、吹っ飛んだ自動ドアの間をすり抜けようとしているところだった。

「あずみ、まずい!」

 手すりから身を乗り出して僕は叫んだ。

「このままじゃ、あいつら、館内に入ってくるぞ」

 僕ら3人だけならまだしも、人で溢れ返る館内の通路にあの化け物たちが乱入したら、どれほど犠牲が出るかわからない。

「任せて!」

 あずみは下まで降りると、ぐったりした唯を壁際に坐らせ、近くにあった棒状の物体を手に取った。

 シャッターを閉めるときに使う、細い鉄の棒である。

 それが、館内の入り口の脇に立てかけてあるのを見つけたのだ。

「お兄ちゃん、伏せて!」

 そう叫ぶなり、

「うおおおおおオオオッ!」

 すさまじい勢いで逆走してきた。

 そのままエスカレーターに飛び乗ってくると、幅跳びの要領で軽々僕の頭上を飛び越えた。

 僕はその場に尻餅をつき、エスカレーターに運ばれながらあずみのほうを振り返った。

 ちょうど降り口に姿を現した化け物たち。

 そこに、あずみが鉄の棒を腰だめに構えて突っ込んでいく。

 正面から激突した。

 ぐえっ!

 ぐふっ!

 うごっ!

 あずみの凶器が3匹を一気に刺し貫いた。

「うりゃあああああ!」

 そうして、いささかもスピードを落さず、団子状態の怪物たちを串刺しにしたまま、屋上に駆けあがっていく。

 割れた自動ドアを突っ切って外に飛び出していった。

「あずみ!」

 僕はあわてて上りエスカレーターに乗り込み、消えたあずみの後を追った。


 屋上に出ると、向かい側のフェンスの前にあずみが立って、下を見下ろしていた。

「お、おい、大丈夫か?」

 あずみの横に立って、下を見た。

 はるか下の地面に、あの化け物たちが折り重なって倒れていた。

 鳩尾のあたりを鉄の棒に串刺しにされ、弱々しく蠢いている。

 そこに大型トラックが突っ込んできた。

 急ブレーキの音。

 が、間に合わなかった。

 肉の潰れる嫌な音が響き、大量のどす黒い体液があたりに飛び散った。

 急停車したトラックから、作業服を着た男たちがわらわらと降りてきた。

 そこは、業者専用の荷物搬入路だったのだ。


★    ★     ★


「そうか、お兄ちゃん、忘れちゃったんだ」

 しんと静まり返った病室の廊下に、あずみの声が響いた。

 念のためにと救急車を呼び、気を失っている唯を市民病院に運んだ。

 幸い唯の怪我はかすり傷程度で、

「頭を打った形跡もないし、何かのショックで気を失っているだけでしょう」

 というのが、診察に当たってくれた医師の診断だった。

 その後、唯の家に連絡を取り、僕らは彼女の養父と名乗る人物がやってくるのを待った。

 そのとき、手持ち無沙汰のあまり、

「あずみ、おまえさ、なんであんなに強いわけ?」

 とたずねた僕に対して答えた彼女の台詞が、先のひと言だったのである。

「まあな…。なんかさ、時間が経つにつれてどんどん記憶が薄れてくような気がして…。2ヶ月くらい前に何かとんでもない体験をした、ってのはぼんやり覚えてるんだが、さてその内容となると…。今朝まではもう少し覚えてた気もするんだけどな」

ふう、と深いため息をつくと、あずみが独り言のように言った。

「そっかあ、やっぱり、時間の巻き戻しの副作用が出てるんだね…。お兄ちゃん、ただの人間だから」

「って何それ?」

 僕は目を剥いた。

「まるで自分は人間じゃないみたいな言い方だな」

 あははは、とごまかすように笑うと、あずみが言った。

「でも、あずみにとってはそのほうがいいかな。お兄ちゃんが全部忘れてくれてたほうが」

「だから何をだよ? それにおまえ、さっきどこにいたんだ? 『そんなことだろうと思った』ってどういうことだよ? あのお化けが出てくるの、あらかじめ知ってたのかよ?」

「そんなに一度にあれもこれも訊かないで」

 あずみが人差し指で僕の口に蓋をした。

「さっきは屋上の屋根の上で悲しみに沈んでたの。お兄ちゃんの浮気が発覚したから」

「これのことか?」

 僕はスマホを取り出した。

 待ち受け画面に、女の子のバストアップの画像が貼ってある。

 青い髪の、アニメキャラに扮した、ツインテールの可愛らしい少女の笑顔。

「見ろ」

 よく見えるように、目の高さにかざしてやった。

「あ」

 しばらく目を凝らした後、ふいにあずみが息を呑んだ。

「わかったか。これはおまえだ。中1の夏だったっけ? おまえ、大須観音商店街のコスプレサミットに出て、審査員特別賞もらったことがあっただろ? これは、あんとき、あんまり可愛いんでこっそり盗み撮りさせてもらった写真の1枚さ。下手に見せるとうるさいんで今まで黙ってたんだが」

「はああ」

 あずみが変な声を出した。

 正面からじっと見つめてきた。

 ぱっちりした大きな目に、みるみるうちに涙の滴が盛り上がる。

 泣き上戸なのか、すっかりうるうるした表情になっていた。

 何も言わずに、がばっと僕の腕に顔をうずめてきた。

 丸い肩が引くひく上下している。

「あずみ…うれしい…」

 しゃくりあげながら、あずみがそうつぶやいた時である。

「お取込み中申し訳ないが、電話をくれたのは、君たちかね?」

 突然、落ち着いた中年男性の声が、頭上から降ってきた。

 はっと顔を上げると、スーツ姿の恰幅のいい紳士が目の前に立っていた。

「私は唯の養父、青柳史郎という者だ。いったい全体何があったのか、私に詳しく話してくれないか?」










 










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