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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 38 スカルアイランド⑦

「そう、ほねぐるまさまが再び現れたのは、終戦間近の夏のことじゃった」

 沈痛な口調で、老婆ののひとりがつぶたいた。

 が、ヨネとムギのどっちがしゃべったのか、僕にはもうわからなくなっていた。

 屏風の前にちんまりと座った白髪猫背の双子の老婆は、あまりにも似すぎていた。

 外見だけでなく、声や話し方までそっくりなのだ。

 むしろ、ふたりが同時に口をそろえてしゃべっているようにも見える。

「1945年といえば、米軍沖縄上陸、東京大空襲、原爆投下と、この日本でおびただしい数の人間の命が失われた年…。そうした負のエネルギーに反応したのかもしれませんね」

 察しのいい光が、すかさず口を挟んだ。

「それに、終戦前後には、この地方をたて続けに大きな地震が襲っています。1944年の東南海地震、1945年の三河地震、1946年の南海地震…。どれもマグニチュード6~8レベルで、何千人もの死者が出ていたはず。戦争の陰に隠れて、半ば忘れ去られていますけど…」

「ほう、よくご存じじゃな」

 老婆たちが満足げに目を細める。

「おそらくおまえさんのいう通りなのじゃろう。2度の地震で封印が解けかけたところに、死の灰に乗って、多くの人間の怨念が火口に舞い込んだ。怨念は骨車さまにとって、何よりの滋養じゃ。そんなわけで1945年の8月、あの荒神山の火口に骨で組み上げられた大観覧車が突如として出現したのじゃよ」

「しかし、そのときはどうしたんですか? もう虚空上人はとうの昔に死んで居なかったわけでしょう? 臨時の荒神祭でも執り行なって、骨車を鎮めたとでも?」

「空襲じゃよ」

 僕の問いに、老婆がハモるようにして答えた。

「不幸中の幸いというべきか、名古屋を爆撃したB29の編隊が、帰りがけにこの島に爆弾を落として行きおった。たぶん、火口に聳える骨車さまを、新手の高射砲陣地か何かと見間違えたのじゃろう。それはそれはすさまじい爆撃でのう、外輪山の高さが変わってしまったほどじゃった」

 神風が吹いた、というべきなのだろうか。

 しかし、皮肉なのは、その神風が、日本を壊滅状態に追い込んだ米軍機によってもたらされたものだという、その点だ。

「その爆撃で、骨車さまは再び封印されたかに見えた。じゃが、その翌年、三度目の地震が起こってな、それをきっかけに外輪山の一部が崩れ、”離れ”の中の瘴気が島に滲み出し始めたのじゃ。おぬしたちが闇虫と呼ぶ黒い虫が、島民たちに取り憑き始めたのもその頃からじゃよ。山の東西南北には四匹の化け物の頭が刻まれ、わしらは容易に近づくこともできなくなった。怪物の頭が離れの入り口をふさぐ形になっておってな、闇虫に取り憑かれた者以外は通れなくなったのじゃ」

 三度目の地震というのは、先ほど光が口にした1946年の南海地震のことだろう。

 地震で現れた四頭の魔物…。

「それが、四凶?」

「「そうじゃ。一度、名古屋の大学の人たちが島にやってきてな、わしらに教えてくれたことがある。あの頭は中国から来た魔物のものだと」

「東西南北に、一体ずつ…。なら、別に四体すべてと戦う必要はないわけか」

 光はすでに離れに乗り込む算段に思いを馳せているようで、そんなことをつぶやいてはしきりにうなずいている。

「ならば四凶のうちで、いちばん弱いものだけをターゲットにすればいい」

「四凶に強い弱いの差って、あるのかな? 四神にたとえれば、朱雀と青龍のどっちが強いとか、玄武と白虎のどっちが弱いとか、そういうのあんまり聞いたことないけれど」

「そうだね。でも、相性というか、属性の違いはあるんじゃないかと思うの。わたしたちの戦力から見て、戦いやすい相手と、そうじゃない相手。たとえば、空を飛ぶ敵には今のところ、私たちには打つ手がない。さすがのあずみちゃんも、スーパーマンみたいに空は飛べないわけでしょう?」

「うーん、それは無理」

 僕の隣であずみが舌を出した。

 長い話に退屈してきたのか、いつのまにか僕の左手を膝の上に持っていって、指を追ったり伸ばしたりして遊んでいる。

「なかなかの軍師じゃな。光さんは」

 老婆がまた目を細めた。

「唯さんだけじゃなく、一応うちの弟も人質に取られてますから。こう見えて、わたしも焦ってるんです」

 とても焦っているようには見えない落ち着きぶりだが、内心はそうなのかもしれない、と僕は思った。

 光は、「一平は生きてる」と断言した。

 もちろん僕もそう思いたい。

 しかし、はっきり言って、あの状況ではそれも絶望的だった。

 あずみを刺したのが闇虫に取り憑かれた一平だとするなら、憑依された時点でもう死んでいるはずだからである。

「あなたたちには見えなかったかもしれないけど」

 そんな僕の心中を見透かしたように、光が顔を上げて僕を見た。

「一平は、あのときすぐに、あの巨大火焔土器の中に投げ込まれたのよ。あんまりだから、にわかには信じられなくて、初めは目の錯覚かと思ってたんだけど、後で思い返してみると、あずみちゃんが助けたのは、別のやつじゃないかって気がしてきて」

「別のやつ?」

 確かに真っ先に屋上に上ったのは光だったから、僕とあずみの見ていない光景を目にしていてもおかしくはない。

「火焔土器のへりでも、子鬼のようなやつらが何匹か踊っていて、次々に中に飛び込んでた。一平を投げ落とした後、あの烏賊頭が担いでたのはおそらくその子鬼のうちの一匹だと思う」

 骨車があずみのパンチで粉みじんになった跡には、一平の姿などなかった。

 いやそれどころか、火炎土器の中に飛び込んでいたという子鬼たちの姿さえも。

 ということはあそこには異次元の通路みたいなものが一時的に開いていて…。

 そんなことを考えていると、元気よくあずみが言った。

「じゃ、やっぱり一平ちゃんは生きてるんだ! おばあさんたち、ということですから、まずは何か食べさせていただけませんか? 何でもいいです。残り物でけっこうです。もう、お昼から何にも食べてなくって、おなか空いて死にそうで…。そしたらその後で、さっき言ってた武器庫とやらに案内してくださいね。みんなそれぞれ武器を選んだら、まずは温泉に浸かってひと眠りってことでどうですか? 出発は明日の朝。だとちょっと遅すぎるかなあ…」

「そのくらいなら大丈夫じゃろう。曲がりなりにも、唯は虚空上人様の血を引く巫女ですじゃ。いくら骨車さまでも、おいそれと手出しはできぬはず」

「そうじゃそうじゃ。あの子の霊力を完全に封じ込めぬ限りはのう」

 うなずき合うふたりの老婆。

 唯が、虚空上人の子孫?

 どういうことだろう?

 そういえば、唯の母親の死の原因は?

 まだまだ語られぬ謎が、この島にはいくつも隠されていそうだった。

 が、あずみのいう通りでもある。

 僕らはもうくたくたに疲れていた。

 空腹も半端ではない。

 ここは少し休息をとって、エネルギーを充電しないと…。


「では、わたくしめは早速食事の準備を」

 美千代が腰を上げると、

「俺も手伝おう」

 藤野が続いて立ち上がる。

「おらも行くべ」

「サトはいい。おまえも勇者のひとりだ。皆さんと一緒にまずは体を休めるんだ」

 ふたりに続いて立ち上がりかけたサトを、藤野がやんわりと制した。

「だども、おらはただの使用人だべ…」

 サトが戸惑ったような表情になる。

「この危急の際に、使用人も何もあるものか」

 美千代がきっぱりとした口調で言った。

「サト、おまえもあたしたちの希望の星なんだよ」

「おらが、希望の星…?」

 座り込んで、サトがぼんやりとひとりごちた。


 広間に次々と料理の乗ったお膳が運ばれてくる。

 脚付きの高級そうなお膳の上に、海の幸をメインにしたさまざまな料理が乗っている。 

「お兄ちゃん、やっとおまんまにありつけるよ!」

 その様子を見ながら、あずみがうれしそうににこにこした。

 ついさっきまで死にかけていた娘とはとても思えない回復ぶりだ。

 これが俺の、血の力?

 僕はもう一度、左手首をしげしげと眺めてみた。

 しかしそこには、不思議なことにもう、蚊に刺されたほどの傷跡も残っていないのだった。






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