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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第3章 スカルアイランド

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scene 37 スカルアイランド⑥

 双子の老婆の語りは、のっけからとんでもない内容だった。

 荒神島の噴火口は、神代の昔、不具に生まれた神々を捨てる場所だったのだという。

 不具の神といえば、イザナミとイザナギから産まれた蛭子が有名だ。

 骨なしの海鼠のような体で生まれた蛭子は葦船に乗せて海に流され、瀬戸内あたりの浜辺に流れ着き、恵比寿様として祀られたといわれている。

 が、ヨネとムギのふたりによると、どうやら不具に生まれた神は蛭子だけではなかったらしい。

 確かに記紀には神が神を生むシーンは多い。

 そもそも先のイザナミ自体、その後死んで黄泉の国に堕ちるわけだが、その死因というのが、火の神カグツチを産んだために陰部に火傷を負い、病に臥せったからというものなのだ。

 そのようにして生まれた神々にはたいていそれぞれに名前がつき、記紀に記載されている。

 だが、出来損ないの神たちは名前すら与えられず、荒神島の噴火口に葬り去られたというわけだった。

 噴火が止まると、火口は不具の神たちの骨で埋め尽くされ、やがて平らな土地、カルデラになった。

 そのカルデラの中央には骨がオブジェのように積み重なり、近くを通る船からもその不気味な威容が望まれたという。

「それが、骨車さまじゃ」

 ヨネが言った。

「神武天皇の頃には、骨車さまは自ら意思を持つようになり、周囲にさまざまな災いをもたらしたそうじゃ」

 神武天皇というのは、歴史家には認められていない我が国初代の天皇である。

 記紀の記述が正しいとすると、神武天皇が即位したのは紀元前660年、つまり弥生時代中期ということになる。

 邪馬台国の女王卑弥呼より、800年以上も前にすでに天皇が居たというわけだ。

 まあ、神武の実在の真偽はこの際置いておくとしても、骨車の起源は恐ろしく古そうだった。

 いくらなんでも弥生時代中期はないだろうが、太古の昔、この島の真ん中にはあの骨で出来た大観覧車がそびえ立ち、瘴気を振りまきながらゆっくりと回っていたということなのだろう。

 同胞に見捨てられて憤死した神々の怒りは、さぞかしすさまじいものだったに違いない。

 その怒りを鎮めるために人間たちにできることは、貢物を捧げることぐらいだった。

 貢物、すなわち贄。

 わかりやすくいえば、生贄である。

 周囲の島々、あるいは海に面した本土の集落から、罪人、高齢者、間引くための子供、不具者たちが、ゴミを捨てるようにカルデラに運び込まれた。

 その風習は、平安時代初期、ひとりの僧がこの島を訪れるまで、永きに渡り、続いたという。

 僧の名は虚空上人。

 単身唐に渡り、帰国後は熊野で過酷な修行を重ね、空海や最澄なみの法力を身につけた高僧だった。

 あまりにひどい島の状況を目の当たりにして、虚空はひとりカルデラへと向かい、壮絶な戦いの末、自らの命と引き換えに骨車を封印することに成功したという。

「その虚空さまを祀ったのが、このホテル青栁の中心にある、荒神神社なのじゃ」

 きちんと正座をしたまま、ムギが言った。

 そうなのだ。

 まだ見てはいないが、このホテルは不思議な形をしているらしかった。

 廊下のそこここに貼られた案内図によると、

 北棟、東棟、南棟、西塔の4つの建物が、巨大な鳥居を囲むようにして建てられているのである。

 坊さんが神社のご神体というのも妙な気がしたが、地方では、昔は神社と寺の区別はきわめて曖昧なものだったのかもしれなかった。

「それでしばらくの間は、平和な時代が続いたのじゃがのう」

 姉のヨネが妹から話を受け取って、続きを語り始めた。

「祟りは収まったのじゃが、人間の側がいかんようになってしもうた。目障りな者たちをあそこに捨てる風習だけは、ずっと残ったんじゃよ」

 平安時代末の、壇ノ浦の戦いにおける平家の落ち武者。

 江戸時代のキリシタン弾圧で逃げてきた隠れキリシタンたち。

 飢饉の際、養いきれなくなった老婆や幼子。

 明治以降になっても、望まれずに生まれた赤ん坊、不貞を犯した女、罪人などが、定期的に各地からカルデラに運び込まれてきたのだという。

「太平洋戦争の頃ですらそうじゃった。空襲で動けなくなった重傷者、出征先から不具者になって送り返されてきた兵隊たち、親を亡くした子供たち、墜落した飛行機に乗っておったアメリカ兵、みーんな見つかるとひとまとめにして”離れ”行きじゃった。ほんにまあ、人間というのはつくづく残酷な生き物じゃと思うよ。どうして同胞にあげな非道なことができるのか…。わしらにはとんと理解できんかった」

「そんな負の空間だから、異界との通路が開いたんだね」

 誰にともなく、光がつぶやいた。

「人間の憎悪が、異界から闇虫たちを呼び寄せたんだ」

「んだ」

 サトがうなずいた。

「だから、骨車さまも、蘇ったんだべさ」

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