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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第3章 スカルアイランド

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scene 36 スカルアイランド⑤

 金色の屏風で、蒼い竜が踊っている。

 その前に座布団を敷き、ちんまりと老婆がふたり座っていた。

 ここはホテル青柳の東棟。

 その2階にある青龍の間。

「お館様だ。向かって右が、姉のヨネさま。左が妹のムギさまだ。よく覚えておけ。双子だから外見からは区別がつかないからな」

 僕らをここまで案内してきた藤野が、入口のところで囁いた。

「ヨネさまに、ムギさま? なんか、二毛作って感じ?」

 どんなときでも平気でボケることができる。

 これがあずみの強みでもあった。

 双子の老婆?

 八墓村かよ。

 僕も危うく突っ込みそうになったが、兄としての手前、かろうじて耐えた。

 青龍の間はざっと二十畳はありそうな大広間で、そこに左右に分かれてサトと光、そしてあの支配人と名乗った女性、青栁美千代が正座していた。

「お入りなさい」

 僕らのほうに視線を向けると、よく通る声で美千代が呼びかけてきた。

 僕とあずみが光の横に座り、藤野が美千代の隣に座る。

 向かい側にホテルの関係者、サト、美千代、藤野。

 こちら側に客分の光、僕、あずみという配置である。

「めんこい娘じゃのう、なあ、ムギさんよ」

 向かって右側の老婆が、浴衣姿のあずみを眺めながら、無邪気に目を細めてコロコロ笑った。

「男の子のほうもなかなかめんこいぞなもし。のう、ヨネさんよ」

 向かって左側の老婆が、着物の袂で口を隠し、しなをつくるような仕草で僕のほうを見た。

「ふたりとも、もうすっかりよくなったみたいね。巫女様の選んだ勇者なら、蟲毒なぞなんでもないだろうって、ちょうどお館様たちも話しておられたところなの」

 なんでもなくはなかったが、それより気になったのは、

 『勇者』

 のひと言だ。

 まるでRPGのノリではないか。

「五十年ごとに行なわれる荒神祭にはね、勇者が召喚される決まりなんだって」

 それまで黙っていた光が、突然口を開いた。

「祭りを妨害しようとする”ほねぐるま”と戦う勇者」

「骨車って…あの屋上に出てきた気色悪い奴?」

 いやな気分になって、僕は訊いた。

 あの化け物、あずみのパンチで粉々になったのではなかったのか。

「あれは本体ではないんだろうね。いってみれば様子見に来たドローンか、タブレット端末みたいなものにすぎないのかも」

「やれやれ」

 ため息をつくと、

「でもその前に、離れの入り口には、四匹の魔物の番人がいるんでしたよね? えーと、お兄ちゃん、なんだっけ」 

 今度はいきなりあずみが話題を振ってきた、

「四凶か。由紀夫が言ってた古代中国の悪神」

 そうだった。

 僕は思い出した。

 ここへ来る前、スマホ友達の由紀夫が言ったのだ。

 荒神島の離れは、四凶に守られている、と。

「四凶ねえ…」

 光が尖った顎を撫でる。

 お館様を前にしてもサングラスをはずさない。

 あずみとはまた違った意味で、度胸のある女である。

「大きな犬の姿をした渾沌(こんとん)

 羊身人面で目がわきの下にある饕餮(とうてつ)

 翼の生えた虎、窮奇(きゅうき)

 人面虎足で猪の牙を持つ檮杌(とうこつ)

 四凶って確か、この4つだったよね。ケルベルス1頭にあれだけ苦労したのに、今度は4頭か…。ちょっと気が滅入るな」

「ムギさん、さすが都会の若いもんはかしこいのう」

「四凶を知っているとはのう、ヨネさん」

 老婆たちがうれしそうに目を細めた。

「本当なんですか? あのカルデラを、四凶とやらが守ってるって」

 身を乗り出して僕はたずねた。

「うそじゃないぞよ。四凶は確かにあの山の東西南北を守っておる。のう、ムギさん」

「ずっと昔、神武天皇の頃からそうじゃ。のう、ヨネさん」

 神武天皇?

 それって実在してないだろ?

「じゃから勇者様には武器いるのう」

「そうそう武器じゃ」

「美千代さん、勇者様たちを武器庫にご案内じゃ」

「は、はあ、しかし…」

 美千代が困ったように僕らを見た。

「ちょっと待ってくださいよ」

 このまま武器とやらを持たされて、即出撃ではいくらなんでもかないわない。

「その前に、詳しく話してくれませんか? この島はなぜこんなことになってるんです? いったい、骨車とか離れとか巫女って、何なんですか?」

「そう。それに、離れまでの地形、敵の布陣についても詳しく」

 とこれは光。

「だね。あずみも聞きたい。四凶ってどんなのですか?」

「もう寝る時間じゃが、しようがないのう」

「そうじゃのう」

 顔を見合わせる老婆たち。

「あっしからも、お願いしますべ」

 最後にサトが畳に額を擦りつけて言った。

「ほいほい」

 双子の老婆が改めて僕らのほうに向き直った。

 そうして、老婆たちがかわるがわる語り出したのは、我が国の歴史の裏に潜む、もうひとつの長大な”黒歴史”だった…。





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