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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 35 スカルアイランド④

 水底から水面に浮かび上がる時のような感じで、意識が戻ってきた。

 目を覚ますと、まず天井があった。

 あちこちに木目の浮いた、古びた天井である。

 次に、ふわふわの髪に包まれた、ハート形の顔が視界に入ってきた。

 顔の面積の割に大きな目がうるうるしている。

 小さな鼻の頭が赤くなり、つやつやした頬がピンクに染まっていた。

 あずみだった。

 助かったのか?

 声に出そうとした瞬間、あずみがしがみついてきた。

「お兄ちゃん!」

 泣きながらぐいぐい頬を擦りつけてくる。

「ばか! なんでそんなことしたの? お兄ちゃんが死んじゃったら、あずみはもう」

「なんでって」

 僕はあずみを抱いたままなんとか上体を起こした。

 そこはさっきと同じ部屋で、今度はあずみの代わりに僕が布団に寝かされていたのだった。

「信じられんな」

 あずみの肩越しに、こっちを見つめる藤野の胡麻塩頭が見えた。

 なめし皮のように厚い貌の皮膚を、両手でごしごしこすっている。

「動脈が切れていたはずなのに、もう出血が止まっている。君はいったい何者なのかね?」

「え?」

 僕は包帯を巻いた左手首を見た。

 藤野の言う通りだった。

 包帯は真ん中あたりに丸く赤い染みが広がっているだけで、それ以上血の噴き出る様子もない。

 ついでに言えば、あの痺れるような痛みも消えていた。

「無茶だよ、お兄ちゃん、あずみ、心臓が止まるかと思ったよ」

 僕の肩に顎を埋めて、またあずみが泣きじゃくり始めた。

「いやあ」

 僕は頭を掻いた。

「前に光さんが、俺は毒に強い特異体質じゃないかって言ってたの思い出してさ、ひょっとして、俺の血飲ませたらあずみも助かるんじゃないかと…」

「ありがとう」

 鼻をすすりながらあずみが言った。

「お兄ちゃんは、あずみの命の恩人だよ」

 泣くのをやめて、間近からじっと見つめてくる。

 いつのまにかあずみは浴衣に着替えていて、風呂にも入ったのか体中からいい匂いをさせている。

 どうやらかなりの間、僕は気を失っていたらしかった。

 浴衣の襟元が大きく開いて、あずみのふっくらした胸の谷間が覗いている。

 見てはいけない、と言い聞かせるものの、視線は自然とそこに吸い寄せられてしまう。

 なんせ見えているのは、谷間だけではないのだ。

 ピンク色の蕾のような乳首。

 その下になだらかに続くなめらかな下腹と臍までが、丸見えなのである。

 あずみは浴衣のほかは、何も身に着けていないのだった。

「脱ごうか?」

 僕の視線に気づいたらしく、生真面目な表情であずみが言った。

「馬鹿者」

 僕はあずみの頭をこつんと叩いた。

「俺はただおまえの身体から毒が抜けたかどうか、点検しただけだ。誰が妹のヌードなど…」

「あずみはもう大丈夫。お兄ちゃんの血、超すごい解毒剤みたいだって。ほら」

 浴衣の前をはだけようとするあずみを、僕はもう一度抱きしめることでなんとか押しとどめた。

 弾力のある熱い乳房が僕の胸でつぶれる。

 また意識を失いそうになるほどの心地よさだ。

「がまんすると、体に毒だよ」

 耳元であずみが囁いた、

「ばか」

 息を整えて、僕は桜貝のようなあずみの耳にささやき返した。

「そういうのはだな、すべて終わってからにしろ」

 いくら僕が妹想いでも、こんな衆人環視の場で理性を失うわけにはいかないのだ。

「わかった」

 あずみが妙に力強くうなずいた。

「あずみ、そうする。唯と一平ちゃん助けたら、今度こそお兄ちゃんと、セ…」

 その時である。

 あずみの罰当りな台詞をかき消すように、女性の声がした。

「出雲明さんとあずみさん、お館様たちがお呼びです。よくなり次第、青竜の間に来るようにって」

 僕に剃刀を貸してくれた女性従業員だった。

「ふたりとも、本当にもういいのか?」

 半信半疑といった面持ちで、藤野が訊いてくる。

「はい」

 あずみが立ち上がった。

 浴衣が小さすぎるらしく、胸の当たりはパツンパツンで、手足はすっかりむき出しである。

 が、そのせいで、彼女がすっかり健康体に戻っているのがわかる。

 肌に染みひとつ、ついていないのだ。

 まだ少しふらつく足で立ち上がると、僕は藤野達に頭を下げ、礼を言った。

「本当にありがとうございました。おかげで俺もあずみも助かりました。この御恩は忘れません」

「わしらは別に何もしてないが」

 藤野が女性従業員たちと顔を見合わせる。

「だが、そんなに言うなら唯お嬢様を早く助けてやってくれ。もちろんわしらも手伝うが」

「任せてください」

 言い切ったのは、あずみである。

「あたし、お兄ちゃんと約束したんです。これが終わったら、今度こそちゃんと、ふたりでセ」

 僕はとっさにあずみの口を掌でふさいだ。

 危ない。

 無邪気にもほどがある。

 まったくもって、間一髪だったじゃないか…。











 
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