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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 33 スカルアイランド②

「あずみ…」 

  僕は改めて、手足を弛緩させたまま動かないあずみに目をやった。

  愛おしさと苦しさが、ない交ぜになって同時にこみあげてくる。

 あずみは目を固く閉じ、顔を横に向けたまま、指一本動かそうとしない。

 女性従業員のひとりが、あずみのブラを慎重な手つきではずした。

 たっぷりとした質感の乳房が、ぷるんと震えてふたつこぼれ出た。

 仰向けになってすらもなお形を崩さない、大きなプリンのような美しい乳房である。

 そこだけ日に焼けていないので、白蝋のように真っ白だ。

「俺だって…」

 周りに人目があることも忘れて、ほとんど無意識のうちに、僕はその乳房に手を伸ばしていた。

 つんと尖った硬い乳首の指が触れたとたん、

 奔流のように記憶が甦ってきた。

 そうだ。

 あのとき…。

 化け物ムカデと化したルシフェルの毒にやられたあずみは、いったん戦闘不能状態に陥って、それからにわかには信じ難い方法で復活したのだった。

 まったくあり得ないことだが…。

 一度体をドロドロに溶かして、蛹から蝶が羽化するように、そこからまた再生したのである。

 ということは、このまま放っておいても大丈夫、というわけか。

 一瞬そんな考えが脳裏に浮かんで安心しかけた僕だったが、

 いや。

 と思い直した。

 もしあれが偶然の出来事だったらどうする?

 あるいは今度の蟲毒のほうが、ルシフェルの毒より強力だったとしたら?

 もっと確実で迅速な方法はないものだろうか。

 少なくとも、脳が冒される前に、毒を中和する方法が…。

 何かがまだ頭の隅に引っかかっていた。

 あのとき、毒に関して、まだ何かあったような気がする。

 あれは、そう、光の声だった…。



 
「ムカデって毒があるんだったよね。すっかり忘れてた」

 失敗しちゃった、という感じで、裸の肩を小さくすくめて、あずみがペロリと舌を出した。

「毒? あ。毒といえば」

 光がふいに僕のほうを振り向いた。

「アキラ君、あんた、大丈夫なの? あずみちゃんに人工呼吸してるときに、相当毒飲んでたわよね?」

「あ、ああ」

 僕は反射的に腹のあたりを掌で撫でさすった。

 別に痛くもなんともない。

 吐き気がするということもなかった。

「飲んだだけじゃ、効かないんじゃないかな。血液に直接入らなければ」

「んー、そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

 光が眉間にしわを寄せて、サングラス越しに僕を睨んできた。

「そうでないかもって、なんだよ、それ?」

「いや、何でもない」

 意味ありげにいうと、光はそれっきり黙り込んでしまったものだった…。



 あのとき、光は何を言おうとしたのだろう?

 ひょっとして…。

 僕はあずみの乳房に触れていた右手を引っ込め、顔の前に持ってくると、その掌ををじっと見つめた。

 この僕の体には、毒は効かないということか?

 そういえば、クライマックスの”ツクヨミ戦”の後、光はこんなことも言っていた。


「さっきね、この子、あずみちゃんを人工呼吸しようとして、間違ってルシフェルの毒、飲んじゃったみたいなの。人工呼吸って、息を吹き込むのが作業の要でしょ? それを知らないから、息を吐くついでに吸ったらしくって。でね、大事なのはここ。あの毒は、マルデックの戦士であるあずみちゃんすらをも一時的に戦闘不能状態に追いやったのよ。なのにこの子を見て。毒を大量に摂取したにもかかわらず、涼しい顔でぴんぴんしてる。これって、絶対普通じゃないわ。明君には、きっと何か秘密があると思う」




 ”神”に進化した実の父に死亡フラグを立てられた僕を、そう援護してくれたのだ。

「あの、ひとつ試してみたいことがあるんですけど」

 顔を上げ、周囲を見回して、僕は言った。

「試すって、何をだね?」

 副番頭の藤野が怪訝そうに僕を見た。

「どなたか、よく切れる剃刀かナイフ、それから熱湯を洗面器にでも入れて、ここに持ってきていただけませんか?」

「それくらいはお安い御用だが、そんなものをどうするつもりだね? まさか君が手術をするとかいい出すんじゃないだろうな?」

「たぶん放っておいても、あずみは自力で持ち直す気がします。こいつ、むちゃくちゃ生命力、強いから。でも、もしかすると、そうでないかもしれない。だから、彼女の自然治癒力を、少し高めてやろうと思うんです」

「ふむ。そんなことが、君にできるのか?」

「はい」

 僕は力強くうなずいた。

 心の中で、ほんの思いつきに過ぎなかったものが、今は確信に変わっていた。

 これまでずっと、僕はあずみの足を引っ張ってばかりいた。

 でも、ひょっとすると、

 これが僕の存在価値なのかもしれないのだ。

 そんな気さえした。

 汗ばんだあずみの髪をそっと撫でると、厳かな口調で、僕は言った。

「おそらくそれは、僕にしかできないことだと思います」
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