挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第3章 スカルアイランド

33/99

scene 32 スカルアイランド①

 ホテル青柳の正面玄関は、石垣に囲まれた急傾斜の車寄せを百メートルほど登ったところにあった。

 幸いまだ営業中らしく、ホールの明かりは点いていて、自動ドアをくぐると従業員らしき男女が数名、ばらばらと駆け寄ってきた。

「おう、サト、無事だったか」

 一番年かさの男が、サトを目に留めて、そう声をかけてきた。

 がっしりした体つきの、角刈りの男性である。

 陽に焼けた肌は、なめし皮のように厚く、目つきが鋭い。

「源蔵さがやられただ。それに、唯お嬢様も、さらわれちまった」

 悔しそうに顔をゆがめて、サトが言うと、従業員たちの間に動揺が走った。

「詳しいことはあとで話すから、今はまず、この子を助けるだべ」

 サトがロビーのソファにあずみを下ろし、そっとその身を横たえた。

 あずみは真っ青な顔をしていた。

 手足をだらんと投げ出して、死んだように動かない。

 あずみは、常人より新陳代謝が活発なためか、外傷には強くても、毒物に弱いのだ。

 ものすごい速さで、全身に有毒物質が回ってしまうらしいのである。

 僕は前回の”サバイバルゲーム”を思い出していた。

 あの時もあずみは化け物ムカデの猛毒にやられ、一時瀕死状態に陥ったのだ…。

「毒にやられたみたいなんです」

 光が横から助け舟を出した。

「早く傷口を消毒して、毒を吸い出さないと」

「あなたたちが、お嬢様のお友達?」

 着物姿の中年女性が進み出た。

「わたくし、このホテルの支配人、青栁美千代と申します。唯の伯母に当たります」

 光が頭を下げた。

「山田光です。こっっちが出雲明君で、その重症の女の子が妹のあずみちゃん。ここへ来る途中の廃校で、ゾンビみたいな連中に襲われてしまって」

「それはそれは…。外は、それほどひどいのかい?」

 後半はサトに向けて、美千代と名乗った中年女性が訊いた。

「んだ。港周辺の集落の連中は、みんな闇虫に取り憑かれちまってるだ」

「今朝まではそれほどでもなかったのに…」

 美千代がおぞましそうにつぶやくのが聞こえた。

「地獄の釜の蓋が、ついに開いちまったんだねえ」

「とにかく、この子を奥の間に移そう。兄ちゃん、悪いが一緒に来てくれ。それから、サトと光さんとやらは、お嬢様と源蔵さんの件をお館様にご報告だ」

 年かさの男がてきぱきと指示を出した。

 男は副番頭の藤野だと自己紹介し、「う、重いな」と呻きながらも、あずみを軽々と肩に担ぎあげた。

 そこからは二手に分かれ、美千代に連れられたサトたちがエレベーターで上階へ、僕は藤野に続いて建物の奥に向かった。

 宴会場を囲む廊下を外れたところに従業員用の一画があり、藤野は広い和室にあずみを運び込むと、女たちが敷いた布団の上に横たえた。

「外が外道でいっぱいだとすると、医者を呼びつけるわけにもいくまいな」

 布団の傍らにあぐらをかいて坐り、あずみの額に手を当てながら、藤野が言った。

「何の毒なんでしょう? これに効く薬はあるんでしょうか?」

 布団の上に投げ出されたあずみの手を握り、僕はたずねた。

「症状からして、おそらく、蟲毒こどくの一種だと思う」

「コドク、ですか?」

「ツチハンミョウという虫から採れる毒なんだが、しかしこれほど強いのは初めてだ」

「何とかなりますか?」

「これが蟲毒なら、効くのは漢方だろうが、残念ながらこのホテルには…」

 かぶりを振る藤野。

「そんな…じゃ、あずみは、どうなるんですか?」

 気まずい沈黙があたりを支配した。

 女性従業員のひとりが、お湯を張った洗面器と真新しいタオルを持って入ってきた。

「とりあえず、身体を綺麗にしてあげましょう」

 僕と藤野の前にもかかわらず、あずみの服を脱がせにかかった。

 出かける時は新品だったピンクのブラもパンティも、汗と泥ですっかり汚れてしまっている。

 下着姿になったあずみの体は、あちこちがすり傷や打ち身だらけだった。

 それだけ一生懸命、僕らを守るために戦ってくれた証拠である。

 その均整の取れた八頭身が、今や毒のせいで紫色の斑点に覆いつくされていた。

 まだ顔だけは綺麗なままだが、もしこれが脳まで冒し始めたら…。

 何かあるはずだった。

 あずみを助ける手立てが…。

「診療所に電話してみましたが、誰も出ません」

 スマートフォンを耳に当てた女性従業員が、思いつめたような表情で僕らを見た。

「もしかしたら…」

「やられたか」

 藤野がつぶやいた。

「島で唯一の医療機関なんだが」

「くそ」

 僕は畳を拳で殴った。

 思い出せ。

 あの時、僕はあずみを助けたのだ。

 でも、どうやって…?

 その時、振動が伝わったのか、目をつぶったまま、あずみがつぶやいた。

「お兄ちゃん…あずみのこと、好きって、言ってよ…」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ