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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 29 サバイバル⑩

 砕け散った火焔型土器状の建造物の跡。

 そこに、満月を背にして浮かび上がった、銀白色の奇怪なもの。

 直径5メートルほどの真円形をしたそれに、似ている物があるとすれば…。

 観覧車だった。

 ただし、無数の骨を組み合わせてつくった、地獄の観覧車である。

 人間のものなのか、獣のものなのか、わからない。

 おそらくその両方なのだろう。

 夥しい数の大腿骨や上腕骨、肋骨、はたまた骨盤までもが複雑に絡み合って、
 その観覧車のスポークから内輪、外輪などの細部を緻密に形づくっているのだ。

 が。

 不気味なのはそれだけではなかった。

 本来軸のある中心の部分に浮いているのは、頭蓋骨である。

 それもひとつではない。

 後頭部の所で接合された三つの頭蓋骨が一体化して、ゆっくりと自転している。

 ちょうど、阿修羅像の頭部が、骨だけになったような感じである。

「あれが、骨車?」

 僕は傍らのサトにたずねた。

「サト、おまえ、何か知ってるのか?」

「骨車さまは、”離れ”の神様だ。子どもんときから話には聞いてたども…実際に見るのは初めてだべ…」

 うわ言のように、サトがつぶやいた。

 離れの、神様…?

 離れというのは、この島の中央部にある、外輪山に囲まれたカルデラのなかの集落だ。

 闇虫たちの本拠地である。

「あれが神様なら…」

 あずみがキッと顔を上げて、骨の観覧車を睨みつけた。

「ちょっと話をつけてくる」

「お、おい」

 僕の制止を振り切って、すたすたと歩いていった。

 なんてやつだ。

 僕は地団太を踏んだ。

 さっき「怖かった」といったのは、嘘だったのか?

「あなたたちでしょ? 唯をさらったの。 唯は無事なの? なんとか言いなさいよ!」

 骨車の前に仁王立ちになると、あずみが声を張り上げて叫んだ。

 ククククク…。

 下顎をカタカタ鳴らして、髑髏が嗤い始めた。

 おまえが、いずもあずみ、か…?

 木々の間を吹きすぎる木枯らしのような声で、言った。

 たいした度胸だ。さすが、異界の戦士…。

「そんなことより、唯は無事なの? もし唯に何かあったら、ただじゃ置かないからね!」

 少しもひるむことなく、骨車に食ってかかるあずみ。

 化け物の言う通りだった。

 いったい誰に似たのか。

 わが妹ながら、心臓に毛が生えているとしか思えない。

 巫女ならとりあえず無事だ。見せてやろう。

 髑髏の言葉が終わらぬうちだった。

 ふいに放射状に走る骨のスポークが消え、観覧車の内側が巨大な一枚の鏡になった。

 そこに映った僕らの姿。

 それが揺らいで消えたかと思うと、その後に映像が浮かび上がった。

 暗い鍾乳洞のような空間である。

 その真ん中に、ほっそりとした姿態の少女が浮かんでいる。

 キリストの磔刑の像のように両手を水平に広げ、がっくりと首を傾けているのは、青柳唯だった。

 透明に近い薄物を身にまとっているだけの、全裸に近い姿である。

 その唯の足元で、蛇のような触手の群れがうようよと蠢いていた。

 はりつけになった唯に触れようと、化け物たちがひしめき合っているのだ。

「唯…」

 茫然と、あずみがつぶやいた。

 くびれた腰の横で、両の拳をぎゅっと握りしめている。

 三日やろう。

 唯の映像を背に、髑髏が言った。

 三日のうちに、われらのところへ来るがいい。そうしたら、巫女は返してやる。

「返しなさいよ! 今すぐ!」

 三日過ぎたら、この娘は殺す。

「そんなこと、させない!」

 あずみの体が、突然コマのように半回転した。

 重機並みの破壊力を秘めたハイキックが、正確に髑髏を狙って炸裂する。

 ぐしゃ。

 骨の砕ける乾いた音が響いた。

 映像が消え、

 ピシッ。

 骨車全体に細かいひびが入った。

 骨片が雪のように舞い上がった。

 あっけないほど簡単に、骨の観覧車が崩壊した。

「三日…」

 ぐずぐずに崩れた骨の山を前にして、あずみがつぶやいた。

「あずみ、大丈夫か?」

 ぼんやりと立ち尽くす、その背中に向かって、僕は歩きかけた。

 と、そのときだった。

 僕の脇をかすめて、何か黒いものが飛び出した。

「一平!」

 光が叫んだ。

 飛び出したのは、一平だった。

 振り向きかけたあずみの背に、その一平が突っ込んだ。

 次の瞬間、

 あずみが大きくのけぞった。

「な、何を…」

 僕は呻いた。

 信じられない。

 ありかよ、こんなことって…。

 あずみの脇腹に、ナイフの柄が突き立っている。

 柄のデザインから見て、本格的なサバイバルナイフである。

「あんた、なんてことを!」

 サトが泣き喚いた。

「一平ちゃん…どうして?」

 みるみるうちに血に染まる脇腹を両手で押さえて、あずみがその場に片膝をつく。

 そのあずみを、一平がじっと見下ろしている。

 くくくく…。

 肩を震わせて、嗤っていた。

 光が前へ進み出た。

 ヨーヨーを右手に握っている。

 やがて、低く押し殺した声で、言った。

「おまえ、一平じゃない」






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