挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
3/85

scene 2 名状しがたきやつら

 なんと形容すればいいのか。

 それは、一見すると、一応は人間に見えた。

 ぬぼーっとした雰囲気の、小太りの中年男が3人、ゆらゆら海藻のように上半身を揺らしている。

 気味が悪いのは、3人とも白目を剥き、半開きにした口の端から透明な涎を垂らしているところである。

 それだけでも十分怪しげなのだが、問題なのは下半身だった。

 鉤型に曲がった蜘蛛のような脚が3本、正面と左右に突き出して、がっしりと身体を支えている。

 内側に曲がった、毛むくじゃらの太く長い脚である。

 当然靴など履いていない。

 3本の足の先には、曲がった鋭い鉤爪が生えているだけだ。

「こ、れ、く、え、る、か?」

 真ん中のひとりが、妙に間延びした口調で、誰にともなく言った。

「あ、あ、く、え、る」

 向かって左側の男が答えた。

 泡を吹きながらしゃべっているような、耳障りで不気味な声だった。

 はっきり言って、あまり賢そうではなかった。

 というか、正直、人間というより、獣に近い。

「君のいう島には、こんなのがたくさんいるわけか?」

 唯を背中にかばって、僕はたずねた。

「昔島に住んでるとき、何度か見かけたことはあるけれど…こんなにあからさまなのは、初めて」

 唯は僕のズボンのベルトにぎゅっとしがみついている。

「これが、闇虫?」

「正確には、闇虫に取りつかれた人間というべきかしら」

「取り憑かれる?」

「そんなことより、どうするの? あたしを守ってくれるの? くれないの?」

「後ろに喫煙所がある。その向こうにもうひとつ自動ドアがあったはずだ。俺がやつらの注意を引いてる間に、そこまで走るんだ」

「わかった」

 唯が離れる気配がした。

 僕はやおら一歩前に足を踏み出した。

「おい、化け物、おまえら何者だ? どういうつもりなんだ?」

 特に考えがあったわけではない。

 とりあえず、対話に持ち込もうとしたのだが…。

 彼らはやはり、僕など眼中にないようだった。

 ザザザッ。

 3本足をせわしなく動かし、左右の2匹が動いた。

「きゃあ!」

 背後で唯の悲鳴が上がった。

 振り向くと、数歩離れたところで唯が棒立ちになっていた。

 ゴキブリ並みの素早さで移動した2匹が、あっという間に唯の退路を塞いだのだ。

 まずい。

 取り囲まれた。

「た、べ、て、、も、い、い、、か?」

「ほ、ね、ぐ、る、ま、さ、ま、ゆ、る、し、て、く、れ、る、べ?」

「あ、あ、、きっと、ゆ、る、す」

 どうやら3匹で僕らを食べる相談をしているようだ。

 骨車さまというのが何なのか全く意味不明だが、今はそんなことに頭を悩ませている場合ではなかった。

 クワッ。

 相談がまとまったのか、唯に一番近い1匹が突然後足で立ち上がった。

「やめろ!」

 僕は叫ぶのが精いっぱいだった。

 肝心なときに限って、金縛りに遭ったように、身体が動かない。

「助けて! 誰か!」

 怪物にのしかかられて、唯が叫んだ。

 唯の白いワンピースを、化け物の爪が引き裂こうとしている。

 そのときだった。

 ふいに、ふわりと目の前に大きな影が舞い降りた。

 黒いサマーセーターを押し出す、堂々たる釣鐘型の胸。

 きゅっとくびれた腰。

 弾けたヒップ。

 大地を踏みしめた、逞しく、長い脚。

「そんなことだろうと思った」

 ショートボブの髪を打ち振って顔を上げると、あずみが言った。

「あずみ…」

 唯の声に安堵の響きが滲む。

「あたしの友達と、大事なお兄ちゃんに、何する気?」

 残る2匹が、あずみのほうに向きを変える。

「お、ま、え、も、く、う…」

 化け物が、動いた。

 が、あずみのほうが速かった。

 目にも留まらぬスピードで、2匹の化け物の間を駆け抜ける。

 喫煙所のベンチを囲んで、ヤシの木を模造した観葉植物が並んでいる。

 あずみがその中の1本を引っこ抜いた。

「おりゃああああ!」

 両腕をいっぱいにまで伸ばし、いきなりフルスイングした。

「グア!」

 腹に丸太の一撃を食らった2匹が吹っ飛んだ。

 ヤシの木を投げ捨てると、唯に絡んでいる残りの一匹につかみかかる。

 右腕を大きくバックスウィングして、怪物のこめかみに横から渾身のストレート。

「ぐふっ」

 たまらず怪物がのけぞった。

 唯を離すと、3本の足でダダッと後退し、壁にぶつかって止まった。

「さ、逃げるよ、今のうちに」

 崩れそうになる唯を抱えて、あずみが言った。

 少し頬が紅潮しているが、息ひとつ切らしていない。

 やはり僕の記憶は正しかったのだ。

 あのとき何が起こったのか、ほとんど忘れているにもかかわらず、強固に残っていたひとつの記憶。

 僕の妹は、ハイスペックで、人類最強である。

 あずみは今、その一端を証明してみせたのだった。





















 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ