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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏
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scene 28 サバイバル⑨

 火焔型土器に酷似した巨大な建造物。

 その周りをゆらゆらと上半身を波打たせ、歌を歌いながら、異形の者どもが、すり足で練り歩いている。

 二十匹程もいるだろうか。

 人間の体に魚の頭の生えた、不気味な生き物たちである。

「典型的なインスマウス面だね。少しクトゥルフが入ってるんだろうか」

 僕の後から屋上に上がってきた光が、極めて的確な感想を述べた。

 実の弟が大変なことになっているというのに、全くと言っていいほど取り乱していない。

 いかにも光らしいクールさ加減である。

 が、僕のほうはそれどころではなかった。

「ウオオオオオッ!」

 雄たけびを上げながら、あずみが突進していく。

 当然のことながら、異形の者たちが一斉にこっちを振り返る。

 踊りを中断すると、わあわあわめきながら襲いかかってきた。

 あずみが跳んだ。

 ホップ、ステップ!

 三段跳びの要領で、異形の群れの頭上を飛び越える。

 ミニスカが翻り、ピンクのパンティに包まれた丸いヒップが露わになる。

 最後の、ジャンプ! のところで空高く舞い上がり、一直線に梯子の上まで飛翔した。

 ー棒なんかなくても、10メートルは余裕だし。

 いつかのあずみのセリフが耳の奥にに蘇る。

 だからといって、ちょっと飛びすぎだろ?

 建造物のへりの部分にふわりと降り立ったあずみが、大きく右足を上げて回し蹴りを放った。

 今しも一平を中に落そうとしていたイカ男が、延髄に強烈な一撃を食らってよろめいた。

 宙に放り出された一平を間一髪抱きとめると、ヘリの上であずみが大ジャンプを敢行した。

 バク転の格好で、一平を腕に抱いたまま、回転しながら落ちてくる。

 襲いかかってきた半魚人たちを、光のヨーヨーが切り裂いた。

 切断された頭部がどさどさと地面に落ち、残りの半魚人たちが怯んで後退した。

 その空いたスペースに、砂埃を上げながらあずみが着地する。

「光さん、一平ちゃんを」

 あずみは光に一平を押しつけると、踵を返してまた例の建造物のほうへと駆け戻っていく。

 走りながら右腕をバックステップ。

「おりゃあああ!」

 加速度に体重を乗せて、渾身のストレートを建造物の横っ腹に向けて放つ。

 ガキッ。

 鈍い音が響いた。

 ひびが入った。

 ピシピシピシッ。

 硝子が割れるような音とともに、蜘蛛の巣状の細かいひび割れが、火焔型土器全体を覆っていく。

「ええい!」

 気合いと同時に、あずみの足が上がった。

 ぐわっしゃん!

 猛烈な膝蹴りが、脆くなった土器の壁をぶち割った。

 太い亀裂が稲妻のように走ったかと思うと、ガラガラと建造物が崩壊し始めた。

 落ちてくる瓦礫が半魚人の生き残りたちの上に落下した。

 煙幕のごとき砂塵の向こうで、肉の潰れる音が響き渡る。

 その煙のベールの中から、あずみが現れた。

 僕を見ると、埃に汚れた顔でニっと笑った。

「やったよ、お兄ちゃん」

 両腕を上げ、駆け寄ってくる。

 ハイタッチを交わすと、僕の首っ玉に抱きついてきた。

「あー、怖かった」

 そんなことを言って、上目遣いに僕を見つめてくる。

「でも、あずみ、がんばったでしょ」

 ぺろりと可愛く舌を出す。

「おまえさあ」

 僕はようやくのことで、声を絞り出した。

「あんまりハラハラさせるなよ。もう少しやり方ってもんがあるだろう?」

 いくらハイスペックだといっても、無茶にもほどがある。

 見ているこっちの身にもなれというものだ。

 まったく、心臓に悪すぎる。

「ご褒美は?」

 あずみが僕の抗議を無視して、キスの形に唇を突き出した。

「お、おい」

 僕はうろたえた。

 訴えかけるようなまなざし。

 ぷっくりとした桜色の唇。

 抗いがたい吸引力だった。

 誘惑に負けそうになった時。

「出ただ」

 サトの声がした。

「え? 何あれ」

 と、これは光の声。

「どうした?」

 僕は抱きつくあずみの柔らかい体を、無理やり引きはがした。

「あん、もう」

 あずみがうらめしそうに僕を睨んだ。

「見てくだせえ」

 サトが指さしているのは、崩れた建造物の方角だ。

 砂埃は収まりかけていた。

 その向こうに、何やら大きな物体が姿を現しつつあった。

 直径5メートルはありそうな、巨大な歯車みたいなもの。

「骨車さま…」

 怯えたような口調で、サトがつぶやくのが聞こえてきた。








 
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