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ハイスペック過ぎる妹を守るため、死霊の島で明日に向かってゴールをめざす 作者:春風小夏

第2章 サバイバル

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scene 27 サバイバル⑧

 校舎の2階と3階にも、一平の姿はなかった。

 各階にもゾンビたちはいたが、1階ほどその数は多くなく、あずみの鉄拳と光のヨーヨーの前に次々と倒れていった。

「どこいっちゃったのかしら?」

 最後の1匹をキックの連打で仕留めると、手の甲で額の汗を拭いながらあずみが言った。

 乱闘に次ぐ乱闘で、さすがに息を切らしていた。

 レモンイエローのタンクトップは汗で変色し、体にぴったりと貼りついてしまっている。

 ピンクのブラがモロ透けて見えるのが、ボロボロになったマイクロミニと相まって、たまらなくセクシーだ。

「残るは屋上だべ」

 廊下の突き当たりの非常扉を見つめて、サトが言った。

 僕らは3階に来ていた。

 だから、探すところといえばあとは確かにこの建物の上しかない。

「そうだね。鍵が壊されてる」

 視力10.0のあずみが、いち早く異常に気づいて、サトに向かってうなずいた。

 化け物たちの死骸を踏まないよう、よけて歩きながら扉に近寄った。

 死骸から湧き出てきた闇虫どもは、その大半は僕の生石灰で始末してあった。

 したがって、今目の前に転がっているのは、寄生生物が抜けた後の死体ばかりである。

「なんだか、私、殺人鬼になった気分」

 あずみが悲しそうに言った。

 無理もない。

 死体はどれも元の人間の姿に戻りかけていて、そのなかには女性や子どもも混じっていたからだ。

「同情は禁物。それはさっき言ったでしょ」

 ドアノブに手をかけた光が、あずみを振り返った。

「あなたが戦ってくれなかったら、今頃ここに転がってるのは私たちの死体だったはず。あずみちゃんは何も悪くないんだよ」

「俺も同感だな。おまえはよくやってるって」

 僕はあずみの肩に手を置いた。

「お兄ちゃん…」

 あずみがそっと頬を摺り寄せてくる。

「開けるよ」

 光がそろそろとドアを押していく。

 生暖かい風に乗って、なんともいえない臭いが流れてきた。

 卵の腐ったような臭い。

 化け物どもが撒き散らす腐臭である。

 光を先頭に、外に出た。

 錆びた非常階段が折れ曲がりながら上へと続いている。

 足元を見下ろすと、はるか下の校庭は、化け物たちで溢れ返っていた。

「まだけっこういるべ」

 サトがうめいた。

「これじゃ、きりがないべ」

「まあ、どうやって脱出するかは後で考えることにして、まずは一平を助けよう」

 非常階段を上りながら、僕は言った。

 小生意気なガキではあるが、一平は貴重な仲間なのだ。

 しかもまだ小学生ときている。

 そんな一平を見捨てて逃げたりしたら、いくら僕でも一生後悔の念に苛まれるに違いない。

「なんだろう?」

 先に屋上のへりにたどりついた光の声が、頭上から降ってきた。

「みんな来て。へんなものがある」

 抜き足差し足で残りの段を上り切り、あずみと一緒に屋上のヘリから首だけ出した僕は、次の瞬間、あんぐりと口を開けた。

 屋上の真ん中。

 本来なら給水タンクが設置されているあたりに、満月に照らされて、異様なものがそびえ立っている。

 高さ10メートルはありそうな、奇怪なデザインの土器である。

 蛇を象ったような取っ手。

 表面の複雑な縄目文様。

 見覚えのある意匠だった。

「歴史の教科書で、見たことある」

 あずみがつぶやいた。

「火炎型土器だ…」

 小声で僕は言った。

「だけど、いくらなんでも、でかすぎる」

 そう。

 屋上の中央に鎮座しているのは、まぎれもなくあの縄文式土器だった。

 縄文文化を代表する、あの燃え盛る炎をそのまま形にしたような、異形の遺物である。

 2階建ての家ほどもある縄文土器。

 そんなものが、この世に存在するなんて…。

「何してるのかしら」

 囁くようにあずみが言った。

 土器の周囲を化け物たちがゆっくりと歩いている。

「盆踊り大会みてえだ」

 サトがつぶやいた。

「それに近いのかも」

 サトのつぶやきに、光がうなずいた。

 確かに、踊っているように見えないこともない。

 そのときだった。

 ふいにあずみが息を呑んだ。

「一平ちゃんだ」

 巨大な土器に梯子が立てかけられている。

 今そこを、一匹の化け物が登って行こうとしていた。

 下半身は人間だが、上半身がイカみたいに触手だらけになったキメラである。

 なるほど、その肩に、小柄な子どもが担がれていた。

 ぐったりと動かないTシャツに半ズボンのその少年は、一平に間違いない。

「たいへん…」

 あずみは今にも泣き出しそうだ。

「生贄の儀式というわけか」

 僕はこぶしを握り締めた。

 まずい。

 あの化け物、一平をあの土器の中に放り込むつもりなのだ。

「ほねぐるま、さま…」

 うめくように、サトが言った。

「なんだい? ほねぐるまって?」

 僕が訊き返したとき、

「行ってくる」

 あずみが動いた。 

「あずみちゃん!」

 叱るように光が叫ぶ。

 しかし、策を飛び越えると、すでにあずみは走り出していた。

「ったくもう」

 僕は立ち上がった。

 なんという無謀なやつ。

 しかしここは兄として、愛する妹を放っておくわけにはいかないではないか。


















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